第11話 紅の騎士
騎士団。
それは国が誇る最高戦力、規模や呼び名は違えど全ての国が持つ己を護る剣たる存在。
国に忠誠を誓い、秩序を保つ高潔なる牙城。
それこそが騎士団である。
(カーリルさんから近いうちに何らかの接触はあるかもと聞いてたがこんな早くに、しかも騎士団から直接とはな・・・・・・)
警備隊等を挟まずに、騎士団本部からの直接の令状。
それはシルトアが想像するよりもずっと状況が逼迫していることを示していた。
「何がヤベェって幹部騎士の中でもあのサラス・リネーリアの名前が書かれてることだ」
「何だ? 有名なのか?」
ビルケスの言葉に振り返るシルトア。
騎士団長に次ぐ実力と功績を持ち、次代の騎士団長候補ともされる幹部騎士という称号。
アーティファクト以外にはあまり詳しくないシルトアは、その中でも特に注目されているサラスという騎士についてビルケス含めた冒険者達に尋ねた。
曰く幹部騎士に最年少で登り詰め、騎士団長すらも唸らせる程の実力を持つ稀代の俊英。
その流麗な剣舞は岩山をも貫き、斬り裂いた後には僅かな歪みすら残さない。
仲間には慈愛の証を立て、外敵には己が剣を突き立てる。
強者との戦いに目がない戦闘狂、等々。
冒険者達は次々に私見を語り始め、次第に本当か嘘かも分からない噂話までもが飛び交う始末であった。
「分かった分かった! これ以上聞くと人外みたいなイメージしか出来なくなるって!!」
シルトアの悲鳴のような声に冒険者達は我に返ったが、依然として眼前の貼り紙はシルトアの頭を悩ませる。
差し当っての問題としては、シルトアに違法アーティファクト所持の疑いが掛けられていることだろう。
(もしこの疑いを晴らせなかったら俺は勿論、あの子まで・・・・・・)
「シルトア、大丈夫か? 何ならヴラドを探して呼んできても・・・・・・」
「いや、大丈夫だ。 それにあの人も遺跡探索で亡くなった人達の葬儀で忙しいだろ」
みなまで言わずともビルケスの言いたいことをシルトアは理解していた。
(カーリルさんは自分が手を離せない時にこうなることを危惧してたのか・・・・・・ だが、なった以上は仕方ない)
「こいつは違法な物なんかじゃないってこと、それを絶対に伝える・・・・・・ その後どうなるかは神様だよりだ」
ゆっくり食事を摂る場合じゃなくなった。
シルトアが急ぎ騎士団本部に向かう為、ギルドを後にしようと踏み出したその時である。
ギルドの扉が勢いよく開け放たれた。
響き渡る破裂音の如き音に冒険者達の喧騒は静まり返り、皆が視線を一点に集中させる。
直後に鳴り響いたのは鎧が擦れ合う金属音と複数の重厚な足音。
次第に逆光の中から人の姿が浮かび上がる。
鏡面の如く磨き上げられ、銀色に輝く細身な鎧。
全身を包み込むように纏った瑠璃色の外套に、腰に携えた2本の剣。
胸元で輝くザオービグ王国の国章、そこには鷹と剣が象られている。
後ろで束ねられた長髪は艶やかな朱に染まり、橙色の瞳はまるで夕映えの空を宿しているようであった。
そこに兜を被った重装の騎士が数人続くと、乱れの無い動きで冒険者達の前に整列した。
靴音が途切れ場が鎮まると、朱色の髪を揺らす騎士が冒険者達を選別するように端から見渡していく。
「あれが例の幹部騎士様だ」
「! あの人が」
ビルケスが声を潜ませながらシルトアに耳打ちした。
芯の通った強い目、隙のない佇まい。
どうやら稀代の俊英という評価は誇張では無いようだ。
そして何より驚いたのは、サラス・リネーリアが女騎士だったことだろう。
(てっきり男だと思ってた・・・・・・)
そんなことを思いつつ彼女の顔に視線を向けていると、必然目が合った。
その瞬間、彼女は刺し貫かんばかりの敵意に満ちた視線でシルトアを睨む。
「貴様か」
低く作った声が聞こえたかと思えば、彼女がこちらに歩み寄ってくる。
その凄まじい剣幕にシルトアの近くにいた冒険者達は気圧され、思わず道を開いた。
しかし幾人かの冒険者は下がるフリをしつつ、シルトアの後ろに控えてくれている。
そして眼前にまで迫ってきた彼女は軽蔑するような冷たい視線をシルトアに向けたまま、その口を開いた。
「シルトア・ウークリエ、貴様に向けて出された出頭命令は取り消しとなった」
「・・・・・・へ?」
あまりにも鋭い目つきで睨むものだから何が飛び出てくるのかと身構えていたシルトアは、予想外の言葉に腑抜けた声を上げてしまう。
取り消し、ということはシルトアへの疑義が晴れたのだろうか。
「えっと、つまり俺への疑いが晴れたってことか?」
拍子抜けした頭を働かせながら、シルトアは尋ねる。
この時内心では、問題が無かったと判断されたのかという楽観的な考えを過ぎらせていた。
「何を言っている、そんな訳が無いだろう」
しかしその考えはあっさりと否定され、一瞬でも好意的な答えを期待したことに後悔する。
そんなシルトアの内心など露知らず、彼女は言葉を続けた。
「貴様には違法アーティファクト所持の疑いに加えて少女誘拐の容疑がかけられている。 これにより騎士団への出頭命令を現刻を持って変更し、幹部騎士による強制連行を行う!」
「・・・・・・」
その時シルトアは何を思っただろうか。
絶望や悲壮感・・・・・・ 等では無く、彼の胸中を満たしていたのは"失念"だった。
(そうか、そうなっちゃったかぁ。 違法アーティファクトの疑いまでは予想してたけど、その可能性があったか・・・・・・)
違法アーティファクトとは文字通り、アーティファクトの中でも所持することが禁じられた物を指す。
現在発見されているアーティファクトは大きく分けて、神の使いを擁しているか否かの2種類に分類される。
無論、神の使いが宿っていない方が違法アーティファクトだ。
運動性能や攻撃面においては通常のアーティファクトよりも優れ、総合火力で見れば大きく上回る。
更にブレスレットに認められなかった者であっても例外なく、触れれば誰もがその力を振るうことが出来るのだ。
これだけならまるで上位互換のような性能に思えるが、そう簡単な話でもない。
神の使いが存在しない、それ即ち恩恵を得られないということだ。
肉体強化や治癒能力に加えどのように使えばいいのかすらの手助けすら無い。
何より違法アーティファクトを手にした者は原因不明の興奮状態に陥り、その身を理性なく周囲を破壊する化け物へと作り替えられてしまう。
これらの致命的な問題によって、国家間は違法アーティファクトに手を出した者を即刻処罰対象とする法律を定めたのだ。
(過去にはどっかの国で捕まった闇商人の私物を押収した時に、それと知らずに触れて大惨事になったって話があったな・・・・・・)
特異な形をした武装を持つアーティファクト、それは違法アーティファクトとして疑いを持たれるには充分な代物と言えるだろう。
その為、シルトアは違法物所持の疑いをかけられることを想定した上で納得させられる説明をずっと思案していた。
のだが・・・・・・。
「一応、聞き間違いじゃないよな? 俺が・・・・・・誘拐?」
「お前さん、ついにやっちまったのか・・・・・・」
「やらねぇよ!?」
ビルケスの哀れみに満ちたような言葉に思わず振り返り否定の言葉をぶつけるシルトア。
いつもなら笑って済ませられる冗談かもしれないが、今に限ってはとても笑えない。
「近隣への聞き取り調査と巡回の騎士からの報告が今朝上がった」
そう言うとサラスは数枚の羊皮紙を取り出し、証拠があるということをシルトアに見せつける。
「それらを照らし合わせた結果、騎士団は貴様を。 違法アーティファクトを所持した上、か弱い少女を騙し家へと連れ込んだ極悪人と判断した!!」
「すぅーーーーー」
(・・・・・・泣きたい)
シルトアは深く息を吸い込み天井を見上げ、心の中でそう呟く。
そうしていないと思わず目から涙が溢れてしまいそうだったから・・・・・・
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