第10話 新たなる陽射し
微睡む意識の中で薄らと耳に残る小鳥の囀り。
閉じた瞼の奥、いつもより高い位置から射し込む陽光の温もりが感じられる。
(長いこと寝ちまったな、確か昨日は・・・・・・ あぁ、急に眠くなってそのままソファで)
狭い場所で寝たせいで軽く痺れた腕を動かすとサラリとしたシルク生地のような感触が腕をなぞる。
(布・・・・・・? あの娘が掛けてくれたのか? ありがたい、寝室の場所は分かったかな。 というかこんなに肌触りのいい掛け布なんて家にあったっけ?)
違和感を感じつつも眠気には勝てず、次第に考えるのをやめたシルトアは寝返りをうった。
ふにゅん。
(・・・・・・ふにゅん?)
心地よく手のひらに収まる幸せな感触、この感触は何と例えたらいいのだろう。
(あぁ、あれだ。 前に1度レストランで食べたプリンとかいう新作のお菓子。 あれに近いな・・・・・・)
だがつい最近、これに近い感触を味わった気がする。
それこそ昨日に・・・・・・
(そうだ思い出した、あの娘がしてくれた膝枕だ。 恥ずかしくてすぐ退いたがあれは気持ちよかったなぁ)
喉に引っかかっていた異物が取れたような気持ちの良さに再び意識を手放そうとするシルトア、しかしそこで彼は何かに気付き踏みとどまった。
(ん? 思い出せたはいいけど、その感覚と近いってことは・・・・・・ !?)
「なっ!?」
反射的に目を見開いたシルトアの視界に飛び込んできたのは────
シルトアの上に覆い被さったまま、すやすやと寝息を立てる可憐な少女の姿だった。
それも何故か全裸で。
搾りたてのミルクのように滑らかできめ細やかな肌は最高級のシルクと言われても納得の手触り。
1本1本が陽の光に応えるように輝く純白の髪に、華奢な肢体は布地と間違えてしまうほどに軽い。
そしてこの距離だからこそ感じられる出来たての焼き菓子のような、しつこさの無い柔らかな甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
「んっ・・・・・・」
シルトアの声に目を覚ましたのか、薄らと目を開きながら身体を起こした少女はシルトアに跨るように座り込む。
スラリと伸びたまつ毛は綺麗な曲線を描き、工芸品の如く透き通った右の瞳は陽射しを取り込み淡く光を放っている。
天使と見紛うほどに神々しいその姿は、神の使いの名に相応しい美しさと言えるだろう。
何故か全裸だが。
そして数秒固まったシルトアは起きたそばから大声を出すこととなった。
「なんでここで寝てるんだ!」
「? 理解不能、マスターの所有物たる私が寝所を共にすることは当然です」
「あぁ〜もう! 百歩譲ってそこには目を瞑るとして! なんで服着てないんだよ!!」
目を逸らそうとしても無意識に視線が向いてしまう己が恨めしい。
シルトアは考えないように必死だったが、あの時感じたプリンのような感触の答えを知ってしまった。
少女の腕に隠れる僅かに膨らんだ、なだらかな双丘が秘める柔らかさを。
意識せざるを得ないその答えに顔を覆うシルトア、対して昨日に引き続き全くの無表情を貫く少女は質問に答える。
「休息中に衣服を展開したままでは充分な休息になりません。 あとはこちらの方がマスターが喜ぶかと」
「おい、絶対後の理由が全てだろそれ」
シルトアの質問に少女は眠たげな視線を逸らすとその身を光に包み、逃げるようにブレスレットへと吸い込まれ黙秘を貫いた。
「おい! それ出来るなら最初からそれで休めよ!!」
──ザオービグ王国 首都テルセリア 西大通り
シルトアと少女は横並びに町の中心から西に伸びる大通りを歩いていた。
この通りは冒険者向けの店が多く立ち連ね、反対側に伸びる大通りにも負けない賑わいを見せている。
「はぁ、朝っぱらから酷い目にあった」
「疑念、先程のマスターの表情からは驚嘆と少量の喜びを感じましたが嫌悪感は感じ取れませんでした」
「状況が酷いって話なんだが?」
目覚めの少女全裸事件から1時間後。
いつもよりも遅く起きたことも合わさり陽は既に正午へ差し掛かっている。
ちなみに少女は出かけるとなった瞬間に昨日と同様のドレスを身に纏いあっさり姿を現した。
昼前特有の空気感と多くの人で賑わう大通りは露店からの客引きや人々の声が常に響いている。
「驚嘆・・・・・・とても、賑やかですね」
「まぁ、この国の首都だからな。 人が多いのは苦手か?」
シルトアの質問に少女は首を小さく横に振り応える。
「いえ、ただ初めて見る光景なので」
「・・・・・・そうか」
神の使いには存在しないとされていたかつての記憶。
本人ですら思い出せない内容だが断片的に姿を見せるそれは決して明るい記憶では無いのかもしれない。
シルトアは口には出さぬものの薄々そう感じ取っていた。
「にしてもほんとに置いてきて良かったのか? "あれ"」
「はい、問題ありません。 そのガントレットさえ身に着けていれば」
シルトアが言っているのは無論、昨日手に入れたアーティファクトの事である。
今シルトアの腕にはあの鉄塊のような盾の内側にあった手甲、それのみを取り外して装着しているのだ。
「特に動きを制限されるって訳じゃないからいいけどもさ」
そう呟きながらシルトアは己の腕に目を下ろす。
漆黒の骨組みで編まれた手甲。
手甲とは言ったが腕をまるごと覆っているわけではない。
寧ろ拘束具といった表現の方が正しい気さえする。
「まぁ、あれを担いで歩くのもしんどいし何より邪魔になるしな。 と、んなこと話してる間に」
シルトアの視線の先に映るのは大通りの奥に構える一際大きな建物。
冒険者達を支援し、喧騒と酒を注ぐ音が決して止むことのない憩いの場。
冒険者ギルドである。
シルトアは周囲から向けられる奇妙な視線に気付きつつも、気にする素振りを見せずそのままギルドの扉を押し開いた。
「もう昼だけどおはよ〜 って、なんで皆掲示板の前にいるんだ?」
勢い良く扉を開いた先には、ギルド内のほとんどの冒険者がクエストの貼り出される掲示板の前で釘付けとなっている不思議な光景があった。
「シルトア!!」
「おぉ、ビルケス」
「と、神の使いの嬢ちゃんもおはよう」
シルトアの後ろにピッタリくっつく少女はビルケスからの挨拶に無言で頷き答えた。
(朝から刺激的だったからな〜 ビルケスみたいなおっさんの顔を見ると逆に安心するな)
シルトアは呑気にも穏やかな表情を浮かべていたが、反対にビルケスは焦りの表情を浮かべている。
「ところでなんの騒ぎだ? 全員が釘付けになるほど報酬の良いクエストでも来たのか?」
「そんなんじゃねぇよ! とにかく口で言うよりまず見てみろ!」
「ちょっ! 押すな押すな!」
そう言うとビルケスはシルトアの肩を押し掲示板の前まで半ば強引に連れていく。
集まる冒険者を押し退け掲示板の前にまでやってくると、その中央にはクエスト依頼とは違う真っ白な紙が張り出されていた。
見慣れない紙に威圧感を感じながら書かれている文字を目で追うシルトア。
そして次の瞬間、シルトアは目を丸くし思わず驚愕の声が漏れ出た。
「お、おい! これって・・・・・・」
そこに書かれていた内容とは──
"ザオービグ王国騎士団より通達。
以下の者は違法アーティファクト所持の疑い有として即日、騎士団本部へと出頭せよ。
尚これに応じなかった場合は出頭命令を強制連行に格上げし、審問の後に処罰を下す。
銅等級冒険者 シルトア・ウークリエ
ザオービグ王国騎士団
幹部騎士 サラス・リネーリア"
それはこの国の守護者たる騎士団から直々の出頭命令であった。
「あれ? 何かデジャヴ・・・・・・」
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