表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

番外編③『騎士団長は紳士に見えて変態でした』

――セリア=マーゴット(伯爵令嬢)の一人番外編③『騎士団長は紳士に見えて変態でした』称視点


「……あの、サイラス?」


「どうした?」


「なぜ、私の落としたハンカチを……額に当てて恍惚としてるの?」


彼は、あろうことか、洗いかけだった私のハンカチを両手で大事そうに持ち、その顔を埋め――

そして、まるで聖遺物でも崇めるような神妙な顔で、深呼吸していた。


「セリアの残り香が、まだ……ここに……」


「やめて!? 本気でやめてサイラス、それ“変態”の領域ですわ!」


彼ははっとしたように顔を上げるが、まったく悪びれていない。


「すまない。……だが、君の持ち物にはすべて“君”の気配がある。大切に扱って当然だ」


「それはわかりますけど! せめて人前ではやめて!」


最近気づいた。

サイラス=ザイークという男、外では完璧な騎士団長。冷静沈着、凛々しく、部下にも慕われる模範のような存在。


でも、私の前では――

時折、どうしようもない“愛の重さ”と“方向性のズレ”が爆発する。


* * *


ある日、彼の部屋に忘れ物を取りに行ったときのこと。


私は、見てしまったのだ。

戸棚の奥にずらりと並んだ、小さなガラス瓶。


……中には、私の使い終わった筆記用具、リボンの切れ端、飲み残しのハーブティーの乾いた葉、果ては、私が破って捨てたメモまでが、丁寧に保存されていた。


そして、それらにはしっかりと――


『第七回お茶会で使用/指先が触れていた』『誤字ありメモ:しかし可愛い』『髪が触れた可能性あり:解析中』


……なにこのラベル。誰が書いたの? 本人ですか?


「サイラスッ!! これはどういうことですの!? まるで収集家じゃありませんの!」


「誤解しないでくれ。俺は変質者ではない。ただ……君という存在の、すべてを記録しておきたいだけだ」


「その理屈がすでに変態っぽいですわ!!」


だが困ったことに、彼はまったく悪気がない。

むしろ誇らしげで、自信満々で、そして――


「……それらが、君の一部である限り、俺は大切に守る。世界に一つしかない宝だ」


その言葉に、ちょっとだけ胸がきゅっとしてしまう私も、どうかしている。


* * *


後日、彼の部下にそれとなく話してみた。


「団長って……昔から、少し変わってらっしゃるのですか?」


「え? ああ、団長ですか。いや、以前はそうでもなかったんですけどね」


「え?」


「マーゴット令嬢に出会ってから……ちょっと、言動が“濃く”なったというか……“一途”すぎるというか……」


――やっぱり、原因は私だった。


* * *


それでも、彼はいつも私を一番に考えてくれる。

変態? ええ、否定しません。むしろ、その偏った情熱が、時々……少しだけ、嬉しいのです。


「セリア、君の古い手袋……保管していいだろうか?」


「それは保管じゃなくて、収蔵ですわよ!!」


今日も私は、愛ゆえにどこかズレた彼を、全力でたしなめる。

でもたぶん――この先もずっと、この人にしかできない愛され方で、包まれていくのでしょうね。


終わり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ