番外編⑥:『全騎士団が見た!団長の変態趣味』
――セリア=マーゴット(伯爵令嬢)の一人称視点
「……ねぇサイラス。これ、なんだと思います?」
「君の三日前の髪飾りのリボン。香水がまだ微かに残っていて、実に上質だ」
「じゃなくて、その“ラベル”のことを言ってるのですわ」
私は、手に持った小瓶をサイラスの顔の前に突き出した。
『使用時:令嬢怒っていた日。理由不明だがそれも尊い。湿気保存推奨』
「“尊い”とか書かないで! しかも湿気保存ってどういうことなのですか!?」
――このように、私たちの奇妙な収集癖は、誰にもバレないはずだった。
……そう、“あの事件”が起きるまでは。
* * *
それは、騎士団の資料室で起きた。
私は彼に届け物をするため、サイラスの執務室を訪れた。だが、ちょうどそのとき――
「団長! 例の戦術資料、整理しておきました! ……ん?」
ガチャッと開いたドアから、元気の良すぎる声が響く。
「……これ、なんすか?」
資料の束を手にした若手騎士・ラゼル=ハインツが、棚の奥に無造作に置かれた“ある箱”に手をかけたのだ。
そう、その箱こそが――
サイラスの**個人用セリア収集箱【極秘】**だった。
「開けちゃダメェェェえええ!!」
私の叫びも虚しく――
「うわっ!? え? ……えっ!? これ全部、マーゴット嬢の……!? おい見ろこれ、マフラーの切れ端とか……『鼻をかんだ可能性:極小』って何だこれ!?」
「え、これ見てみ! “くしゃみ三回した日”の記録メモ!? どういうデータ化!? 怖ッ!!」
「え、これ本当に団長の!? やば、尊敬してたのに……いや、尊敬はしてるけど違う意味で……!」
……騎士団員、全員、固まる。
私、沈黙。
サイラス――まさかの、堂々とした面構え。
「……見られたなら、仕方がない。これが、俺の“セリア愛”の形だ」
「開き直ったぁ!!?」
* * *
その日から、騎士団内では妙な空気が流れるようになった。
誰も団長には逆らえない。が、恐れつつも興味津々。
「団長、これ……届け物です。えっと……マーゴット嬢からです」
「ありがとう。……この“香り”がまた、良いんだ」
「ひぇぇ……(尊いって言った……)」
さらには――
「マーゴット嬢! 今日は何か団長に渡す物は……あっ、失礼しましたッ!」
「待って、なぜ目を逸らすの!?」
騎士団の若者たちに妙に気を使われ、私はすっかり“変態騎士団長に愛される女神”扱いになっていた。
……もうやだこの職場。
* * *
後日、騎士団の副長・ルネ=グレイアムがこっそり耳打ちしてきた。
「マーゴット嬢、あの……団長の“あの趣味”、できれば少し抑えていただけると助かります。部下の士気が高まりすぎて逆に訓練になりません」
「高まってるの!? どこに向かって!?」
「『俺もいつか、あれほど一途になりたい』って皆言ってて……実は、若手が“恋人の落とし物を瓶に入れて保管”し始めて……」
「感染してる!!?」
こうして、サイラスの変態――もとい、“狂おしいまでの愛情表現”は騎士団にバレ、伝説となった。
ちなみにその後、彼の収集箱は“禁書庫”扱いで厳重保管され、私には出入り禁止になった。
「サイラス! あなたのせいで、私が『団長の私物』扱いされてますわよ!!」
「間違っていないな。君は、俺の、唯一無二の至宝だ」
「……もう、変態でいいですわ。愛してるけど!!」
終わり。




