番外編⑤:『伯爵令嬢、仕返しの収集癖』
――セリア=マーゴット(伯爵令嬢)の一人称視点
「……ふふっ、やっと一つ、手に入れましたわ」
私はベッドの上に座り、手の中の“戦利品”を見つめながら微笑む。
それは――
サイラスのシャツの、第一ボタン。
数日前、訓練後に彼が着替える際、ぽろっと外れてしまったのを見逃さなかった私は、そっと拾ってポケットに入れたのだ。
そう。これは宣戦布告。
これまでずっと、“私の物”を蒐集してきた彼に対する、堂々たる“仕返し”である。
――収集のターン、交代ですわ。
* * *
まずは、使用済みの手袋。
騎士団から戻った彼が外した革手袋を、無言で持ち去り、洗うフリをして保管。
次に、紅茶のカップ。
一口飲んで置いた彼のカップを、使用済みとして片づけるふりをして、そっと別の棚へ。
さらに、彼が読んでいた報告書の余白に、無意識に描いた走り書き――「セリア」の文字入り。
これは金庫入りレベル。
「ふふふ……なるほど、集めるというのは、なかなかに愉快な趣味ですわね……」
これで気持ちがわかりましたわ、サイラス。
あなた、こんな楽しいことを一人でしていたなんて――ずるい。
だが、問題はここから。
どうやら彼は、異変に気づきはじめたらしい。
「……セリア、最近俺の手袋の数が合わない気がするのだが」
「さあ、気のせいではなくて?」
「それに、訓練用の上着が妙に“良い香り”がするのだが……」
「貴方の体臭では?」
「それは否定できないが……いや、明らかにローズマリーと蜂蜜の香りだ。君の香水と一致する」
……まずい。どうやら調子に乗りすぎた。
* * *
そして数日後、事件は起きた。
「セリア。これを、どう説明する?」
サイラスの手には、小さな木箱があった。
中には――私がコレクションしていた、彼の私物たちがきれいに並べられていた。
「!!? な、なぜそれを――!?」
「俺の訓練室の机の裏に仕掛けた“二重底”が甘かったな。もう少し研究が必要だ」
「そこ!? 突っ込むのそこ!?」
だが、怒られると思った次の瞬間――
サイラスは、ふっと笑った。
「……まさか、君が“俺のもの”を集めていたとは」
「仕返しのつもりでしたの。あなたの気持ちを、少しでも理解してやろうと思って」
「理解、か。……では、俺も君の趣味に敬意を払おう」
そう言って、彼は私の手を取り、そっと口づけた。
「これからは、“お互いに”収集し合うというのはどうだ?」
「……まさか、あなた、嬉しいの?」
「もちろんだ。君にとって“俺のすべて”が“価値あるもの”だというなら、それ以上の喜びはない」
……ああもう、本当にこの男は、変態で、でも優しくて、憎めない。
「わかりましたわ。今後は正式に、互いの物品蒐集を許可しましょう」
「ありがとう、セリア。では早速、君の今朝のブラシの抜け毛を保管させてくれ」
「やっぱり変態ですわね!?」
こうして、私たちの愛は――
ちょっと風変わりな形で、さらに深まったのだった。
終わり。




