人を殺したら突然現れたギャルがきれいに解体してくれた件
短編小説です。
よろしくお願いします!!
夏の暑い日だった。ひろしは人を殺してしまった。殺したのは見ず知らずの中年男で、前の日に路上飲みをしていて知り合い、意気投合して部屋で語り合った。しかし、ひょんなことから口論になり、ひろしは近くにあった野球 バットで男を殴打し殺した。
さすがにまずいと思ったひろしは、とりあえず死体を冷蔵庫に隠した。幸いなことに男はかなりの小柄だったのだ。冷凍室に無理やり押し込み、ふうと安堵のため息を一つ吐いて、ひろしはコカコーラを一気飲みした。
こんな暑い日では死体を冷凍庫に入れておいても間違いなく腐敗する。それならば早いうちに処理した方がいい。思い立ったが吉日とばかりに、ひろしはホームセンターにノコギリと黒いゴミ袋を買いに行くことにした。もちろんエアコンを18°cに設定しておくことも忘れない。
町はいつもと変わらず平和だ。人を殺してしまった時は世界が反転するほどの気持ちだった。自分が罪を犯したことで、きっと世界のありようも大きく変わっているに違いない。そう思っていた。でも何も変わっていない。人々はひろしのことなんていないかのように歩いているし、電車もバスも通常通りの運行だ。
ひろしは自分さえ平静を装っていれば世界は元のままなのだと思った。だからできるだけ いつもと同じように帰りに、駅前の蕎麦屋で天ぷらそばといなりずしを食べよう。そして 普段通りに暮らすのだ。それで万事 OK。
ホームセンターでノコギリとゴミ袋を買い、昼食を済ませてアパートに戻った。一階でアパートのオーナーと目が合い軽く会釈をする。大丈夫、世界は平穏だ。
鍵を開け部屋に入ろうとしたその時突然、
「追われてるの中に入れて」
キャバクラからそのまま来たような格好の女がひろしの手を掴んだ。そしてにこりと微笑むと有無を言わさず部屋に侵入してきた。
「ちょっと何勝手に入ってるんすか、出て行ってくださいよ」
ひろしの抗議も虚しく、女はすでに靴を脱ぎ靴下までも脱ごうとしている。
「あー、助かった」
扇風機をつけ、胸元をパタパタさせながら女は涼んでいる。そして何か甘いものでもないのと勝手に冷凍庫を開けようとするから、ひろしは思わず「やめろ」と叫んでしまった。しかし女はひろしのそんな言葉など意に介せず、ためらいなく豪快に冷凍庫を開けた。
「あ」
そこには 折りたたまれた人間の死体。もうだめだ、人生終わった。女はきっとすぐに警察に通報するだろう。そして逮捕。長い長い監獄生活。しかし女は叫びもせず、
「ふうん、やっちゃったんだ」
まるで獲物を狙うハンターのように冷徹な落ち着いた表情で、ひろしに向かった。そして
「まあ しょうがないよね。長い人生こんなこともあるよ。手、貸そうか」
とひろしににじり寄った。
「何者なんだ、あんた」
「少なくともあんたの敵じゃないよ。じゃ、始めようか。」
女はそう言うと持っていた肉切り包丁で男の体を瞬く間に切断していった。まるでマグロの解体ショーのような手際の良さ。女が真っ当な人間じゃないことは一目瞭然だった。
二時間ほどで解体作業は終わった。細かく切断された死体は袋に入れられ 海にでも流してしまえば容易に見つかりそうにない。
「ふうこんなもんかな、あー 疲れた。お腹すいたんだけど何か食べない」
二人はお湯を沸かしカップ麺を食べた。その時、家の外で怒鳴り声がしたかと思うと、ドアを強く叩く音が聞こえた。まさか警察か?
「くぉら、アカネ、ここにいるんだろう。 観念して出てこいや」
女を追いかけていた男が、居場所を嗅ぎつけてやってきたようだった。 女によると男はヤクザで彼女は何か男に「おいた」をしたらしい。その落とし前をつけにやってきたのだ。
「ちょっとクローゼットに隠れてて」
ひろしはなぜかクローゼットに押し込まれた。ドアは鍵がかかっておらず、そのことに気づいた男は土足で部屋に乗り込んできた。
「とうとう見つけたぜ、観念しな。持ち逃げした二千万、きっちり返してもらうからな。ってなんだコレ」
そこには細かく袋詰めされた人間の死体があった。男はヤクザものだったが、さすがに動揺していた。あまり修羅場には慣れていないチンピラだったのだ。
「私が殺して解体したの」
とアカネが言うと男は、
「仕方ねえ 組のやつらに協力してもらおうか」
と言った。しかしその時突然爆発音のような大きな音が外から聞こえてきた。アカネと男は外に出てみた。ひろしも気になってクローゼットから出てこっそりアカネたちの後ろをついて行く。立ち込める土煙。何が起こったのか初めは分からなかったがモヤが晴れると状況が飲み込めた。
道路が陥没して水が吹き出しているではないか。そういえば最近テレビで同じような事故を見たな、とひろしは思った。アパートの前の道路は完全に穴が開き、しばらく通れそうにない。外には人が大勢集まり始めていた。スマホで写真を撮るもの、呆然と立ち尽くすもの、神に祈りを捧げているもの……。
「これだと死体を運べないね。警察も来るだろうし万事休すか」
アカネが深刻そうなトーンで呟き、ひろしも思わず「そうだな」と言ってしまった。
「あ誰だ おめえ」
チンピラ男がひろしの存在に気づいてしまった。これでは完全に間男だ。ひろしは自分の身が危うくなるのを感じた。この難局をどう乗り切ればいいのか。
そんな中三人の視線の先、陥没した道路の中から黒い影がにゅっと顔を出した。周囲の人々は驚きのあまり悲鳴を上げている。陥没で超古代生物でも蘇ったのかと思って目を凝らした先に、驚きの光景を目にした。何とそこにいたのは今日殺してバラバラにしたはずの男だったのだ。アカネもありえない光景に口をあんぐりと開けている。
「あ、あれってあなたが殺した男に間違いないわよね」
「……そうだな。あんな特徴的な人はそうそういない。間違いなく、あの男だ」
ひろしとアカネはアパートの階段を降り男の元へ向かった。そして、
「なあ あんた 生きてたのか」
と恐る恐る声をかけた。
「へえ、道路は陥没したようですがね。 あっしはこんなところでは死にやしませんよ、ってどなたです、あなたたちは 」
「昨日俺と一晩酒を飲んだことを覚えていないのか」
男はひろしのことは知らないようだった。体のほこりをパンパンと払い、ひろしたちに一礼してそのままはどこかへ行ってしまった。
後に残されたひろしたちは呆然と、夢の中にいるかのような不思議な気分だった。
「バラバラにした死体はどうなってるかな」
アカネが耳元で囁く。もし死体が消えているなんてことがあれば、それは奇跡だ。ひろしは高鳴る鼓動を抑えきれず部屋に飛び込んだ。
死体が、ない。きれいさっぱり消えている。魔法だ、そして本当に奇跡だ。ひろしの罪はこれで帳消しになったのだ。そう思ってすっかりほっとしていると、チンピラ男が部屋に入ってきて、
「俺には何が何だか分からねえ。でもアカネが持ち逃げした二千万が消えてなくなったわけじゃねえ。さあ観念しな」
アカネに飛びかかろうとした。身をかわしアカネは、
「ひろし君バットでこいつを」
と言った。ひろしはクローゼットの横に立てかけてあったバットを右手でしっかり掴み、今度は男の頭めがけて振り下ろした。ごん、と鈍い音そして手には強い振動。男は目の前で倒れた。
「ひろし君とどめをさして」
ひろしはためらう。罪が消えたのにまた犯罪を犯すなんて馬鹿げている。しかしアカネはなおもけしかける。
「大丈夫、さっきと同じように道路の陥没が起きれば、きっとこいつも生き返るはずだから」
その言葉を聞いてひろしは心を鬼にした。バットを振り下ろすたび男の体から力が抜けていく。そして男は息絶えた。
はあはあと息を切らすひろしを尻目に、アカネはすぐさま解体作業に取り掛かった。相変わらずの手際の良さだ。数時間後には男の体は綺麗に切断されゴミ袋の中に入れられた。
ひろしはその手際の良さに惚れ惚れとしながらも、どこかで恐怖を覚えずにはいられなかった。
「結局あなたは何者なんですか」
「ただの精肉加工業者よ」
またしても煙に巻かれてしまった。アカネは男の財布を取り出し現金を抜いた。男の財布には1万円札が5枚ほど入っていた。そして男の細断された肉体を冷凍庫に詰め、
「次にどこかで道路の陥没が起こるまで、ここに入れておくしかないわね」
とお茶を飲みながら極めて冷静な態度で言った。もしこのまま水道管が破裂しなかったら異変を嗅ぎつけたヤクザたちが乗り込んでくるかもしれないし、警察に見つかる可能性だってある。男が生き返るか否かは道路の陥没次第だ。ひろしはその日が来るまで眠れない日々が続きそうで早くこの悪夢が終わって欲しいと心から願った。
それから一週間ほど経って、道路の陥没のニュースが飛び込んできた。場所はひろしのアパートから三駅ほどを離れた住宅街で、二人はそのニュースを聞くや否や大急ぎでその現場へと向かった。
すでに警察によってバリケードが貼られ、その周囲を取り囲むように人だかりができていた。
「あのビルの2階から見えそうよ、行ってみましょう」
ひろしたちは雑居ビルの空いている一室に忍び込み、双眼鏡を片手に事態を見守ることにした。陥没は浅く、それほど広範囲に広がっているわけではなかった。まだあのチンピラ男は現れていない。ひろしは一抹の不安を覚えた。もしかすると今回は復活しないのかもしれない。あんな奇跡みたいなことが何回も起こるはずないのだ。そうなると自分は豚箱行きか。
そう思っていると黒山の人だかりが何やらざわつきだした。ひろしは慌てて双眼鏡を穴の方に向ける。
「あれ見てよ」
そこには煤けて全身真っ黒の若い男が立っていた。突然穴の中から現れた男に周囲は騒然とし、でも男はポカンとしていて、そのまま救急車で運ばれていった。
アパートに帰るとアカネはガサゴソと棚の中をあさりだした。そして財布を取り出し、
「これ見て!あいつの財布がここに残ってる。殺したことはチャラになったけど、お金だけはしっかりここに残されてる。もしかしてこれって錬金術じゃね」
欲望の眼差しがひろしを釘付けにした。この女はとんでもない悪党かもしれない。そしてひろしはその片棒を担ぐ。いくら生き返るとはいえ、これ以上人を殺したくなかった。命が消える時の感触が手に残っていて、思い出すたび胸を針で刺されるような痛みだった。
しかしアカネに逆らったところでひろしの生きる道はなさそうだった。彼女はどんな肉体 もいとも簡単に解体してしまう凄腕だし、アカネの背後にはヤクザがいる。反抗的態度を取れば今度は自分が解体されるだろう。
「とりあえずさ お腹すいたし ピザでも取ろうよ」
そう言って腹部をさすりながら、アカネは近所のピザ屋にペンネとピザを注文した。
ピザが来るまでの間、アカネは楽しそうにネット通販で冷凍庫を見ていた。まさか買うつもりなのかとひろしが聞くと、アカネはにたりと笑って首を縦に振った。つまりこれから増える死体のために、新たな冷蔵庫が必要ということだ。
アカネが業務用冷凍庫五十万円を購入したちょうどその時「ピザ お待たせしました」と若い兄ちゃんのけだるそうな声がした。「 はーい 」とアカネはいそいそ玄関へ行き、そして何を思ったのか配達員を部屋に上げた。
「ちょっと一緒にピザでも食べて行かない」
と彼を座らせ一つ多めに注文したソフトドリンクを彼の手元に置いた。配達員の彼は思いがけない歓待に戸惑いつつも、美人のアカネの誘いに負けペコペコをしながらコーラを吸っている。その時アカネがひろしに目配せをした。「やれ」の合図だ。ひろしはうんざりしながらもバットを待ち、ゆらゆらと配達員に近づき、ためらいながらも三度バットを振り下ろした。
転がる死体を目の前にしてもアカネは冷静だ。そして配達員のカバンの中から金目のものを抜き取り、大きな歓声をあげた。一方ひろしは罪の重さでクラクラする頭をなんとか支え、アカネに向かって、
「あんたはひどい人だ。こんな罪のない人を手にかけて少しは心が痛まないのか」
と怒りを噛み殺していった。しかしアカネは全く動揺を見せない。
「どうせ生き返るんだし、大丈夫よ。だいぶ罪を感じているようだけど、あんたは夢の中の人殺しにも罪悪感を覚えるの。 そんなことないでしょう、これは一種の夢なの。 必ず目覚めて元通り。私たちはお金をちょっとだけいただく。それだけのことよ」
配達員を解体しながらアカネはそう言った。アカネの中ではこの「現実」が「夢」らしい。
それから ひろしとアカネは部屋にたくさんの人を呼び寄せ、その都度殺した。不思議なことに死体を解体すると一週間以内に必ずどこかで道路の陥没が起こった。アカネはそのことを「神様の魔法」と呼んで喜んだ。
半年ほどそのような日々が続いた。一体何人殺したのだろう、ひろしもだんだんと感覚が麻痺し、積み上がっていくお金だけしか目に入らなくなっていた。
こんなに人を殺したのに二人は何の罪にも問われていない。アカネが言った「錬金術」は確かに存在したのだ。
しかしひろしはこう考えるようになった。もうアカネがいなくても自分ひとりでやれる。むしろアカネがいると自分の取り分が減ってしまう。それならいっそのことアカネを殺してしまえばいい。
ある日ひろしはオレンジジュースにこっそり青酸カリを入れた。
「アカネ、ジュース飲むか」
「おっ、サンキュー」
彼女はためらいなくコップのオレンジジュースを飲み干した。ひろしはその姿をじっと無言で見ていた。ジュースを飲んで数分後、アカネは突然苦しみだした。喉を押さえ、押しつぶしたような声をあげ、
「ぐああ、ひろし、よくもやってくれたね。絶対後悔……ぐほっ、させてやるから」
彼女は苦悶に表情で死に絶えた。ひろしはそんな姿を見るに堪えなかった。いつもアカネは冷静で気丈だった。二人の関係を常にリードしていたのは彼女だったし、そんなアカネのことをひろしは心から信頼していた。それがこうして死体となって転がっている。今回の殺人ほどひろしの胸に重くのしかかったことはなかった。
いつものように解体しなければならない。肉切り包丁とビニール袋、薄い手袋をはめてアカネの体にその刃をあてようとした時だった。突然部屋のドアをドンドンと強くたたく音がした。そして、
「アカネ、いるんだろ、でてこいや。二千万きっちり払ってもらうからな」
と例のチンピラ男がドアを蹴破って中に入ってきた。ずかずかと侵入してくる男を止める間もなく、部屋の中でひろしとご対面。そしてアカネの死体ともご対面。
「お、お前何やってるんだよ。それはアカネか?お前、こいつを殺したのか」
怯えるような声でチンピラ男はずりずりと後ずさる。もしこの男が逃げるようなら殺さなくてはいけない……。ひろしがそう思ったとき、チンピラ男は、
「かわいそうに……こんな姿になっちまって。こいつの体は俺たちが預からせてもらうぜ」
と言い、組の仲間に電話をかけた。しばらくしてひろしの部屋にチンピラの仲間がやってきて、ひろしの抵抗もむなしく、アカネの遺体をどこかに運んで行ってしまった。
ひとり部屋に残されたひろしは煙草をくゆらせながら、ぽかんと天井を見つめた。すべて、終わったのだ。この半年以上続いた悪夢も。アカネは適切に処理されるだろう、そして自分は何の罪にも問われず、三千万円の金をたよりに生きていく。でもアカネの体を復活させられなかったのは残念だ。ひろしは彼女のことを憎からず思っていたし、できれば元通りにして平穏に暮らしてもらいたかった。
三か月が過ぎた。アカネがヤクザに運ばれた当初は、これからヤクザたちにゆすられるのではないかと内心びくびくしていたひろしだったが、ぱったりと音沙汰もなく毎日は平坦に過ぎていった。
三千万を手にしたひろしは、しばらく仕事をする気にもなれず、ぶらぶらとその日暮らしの毎日を送っていた。
ある日、部屋でウィスキーとピザを食べながらテレビを見ていると、陥没事故の番組が流れていた。ひろしはもはや何の興味もなく、ぼんやりとテレビを眺めていた。
番組は都市伝説を扱うもので、その日のテーマは陥没事故現場から救出された人たちを集め、その時の状況を赤裸々に語ってもらうものだった。集められた人たちは総勢20人を超えていて、その顔ぶれにひろしはもちろん見覚えがあった。みんな、ひろしが殺した人たちだ。
番組が進むにつれある男性が、
「私最近奇妙な思いにとらわれるんです。陥没事故の前、私はどこかの部屋にいて そして誰かに殺された。そんな自分を天井から眺めている 。これは何なのでしょう…」
不思議そうに言った。すると他の人たちも次々と同じことを考えていると言った。しかし その場所(つまりひろしの部屋)はぼんやりとしか思い出せず、特定には至らなかった。
ひろしは両手に汗をじっとりと書きながらその番組を見ていた。なんてことだ、ついに殺された時の記憶が蘇ってきたのだ。もしひろしやこの部屋のことがバレたら大変なことになる。せっかく 手にした大金も危うい。
なぜそんな事態になったのだろうとひろしは考えた。もしかしてアカネの体を切断しなかったせいで、新たな陥没も彼女の復活もなく、殺した人たちの記憶が戻ってしまったのではないだろうか。
ひろしは仕方なくもう一人殺すことにした。誰かを殺してバラバラにすれば、以前と同じように道路の陥没が起き蘇りも起こる。ひろしが殺した人たちも、記憶が消えるかもしれない。
そう思ったひろしは、話があると言って古い友人を家に誘い込みあっさりと殺した。罪悪感よりも焦燥感の方が強く、とにかく殺さなければとの思いが強かった。友人の死体を前にしてひろしはあることに気づく。解体はアカネの仕事で、ひろしは一度もバラバラにしたことがなかった。
解体は一日かかってしまった。ひろしは疲労困憊しその日はぐっすりと眠った。あとは道路の陥没が起きれば全て解決だ。
しかしいくら待っても新たな陥没が起こらなかった。気付けば3ヶ月も経ってしまっていた。もしかするともう奇跡は来ないのかもしれない。 自分には奇跡を起こす力はなく、アカネだけができることだったのだ…。そう思うとひろしは絶望的な気持ちになった。冷凍庫に入れてある切断死体は日を追うごとに妖気を強く発するようになっていた。このまま放置しておくわけにはいかない。ひろしは死体を埋めることにした。
レンタカーを借り夜中に山梨まで向かった。人里離れた山林に車を止め、ひろしは誰にも見つからないようにスコップで穴を掘り始めた。
ザクザクと硬い土にスコップを振り下ろし一心不乱に穴を掘るひろし。その額には大粒の汗が滴る。
「ハァハァ もうすぐ終わる、あとちょっとの辛抱だ」
そう思った時背中の方でけたたましいサイレンの音がした。そしてひろしが振り向くと
「よっ、ひろし。久しぶりだね」
そこには死んだはずのアカネが立っていた。
「よくも私のことを殺してくれたね。 全くあんたに裏切られるとは思ってもみなかったよ」
「どうして……死んだはずでは」
「実はさ、こんなこともあろうかと死んだら遺体をバラバラにしてくれって頼んでおいたんだよね。陥没のこともあんたに知られないようにってね」
「そんな……でも俺が友達を殺しても道路は陥没しなかったし復活もしなかった。アカネが切り刻まないと魔法は起こらないんじゃなかったのか」
「いや 誰にでもできるんだよ。でもこの肉切り包丁を使わないといけないみたいだけどね」
まさかアカネが持っている包丁に秘密があったとは思わなかった。ひろしは膝から崩れ落ち、愕然と放心状態になってしまった。
背後から警察官がゆっくりと歩いてくる。そして、
「山田ひろし、死体遺棄の現行犯で逮捕する」
ガシャンと手錠をかけた。
「少しは反省してきなよ。あ、あんたの部屋にある三千万円は私がもらったからね。バイバイ」
連行されるひろしに向かって、アカネは耳元でそう囁いた。
パトカーはエンジン音を残して山道を駆け下りて行く。その後ろ姿を見ながら、アカネはひとりでこうつぶやいた。
「魔法なんて、ないんだよ 」
読んでいただきありがとうございます。
どうでしたか??
感想などお待ちしております。