ニオイ2
「さ、行くわよ」
屋敷を出て音惟が早足で歩き始めると慌ててミシロが追ってくる。ミシロは鼻をひくひくさせながら匂いを嗅いでいるようだ。
「うん、町中臭うけど、おまえの屋敷は特に臭うな」
「匂いなんてしないけど」
「矮小な存在にはわからないか」
ブツブツ小声で文句を言うミシロを無視しながら音惟が向かうのは町外れにある小さな診療所だ。
町の人達は音惟を見てもいないように扱うか暴言を吐くばかりだがここの診療所の人達だけは音惟の味方になってくれるのだ。所長が音惟の伯父の知り合いだからだろう。
この国では珍しい異国風の建物をミシロはキョロキョロと物珍しそうに観察している。
「センセー、来たよー」
音惟が玄関から声を掛けると奥から白髪交じりの白衣を来た男が現れた。
「センセ、おはようございます。こちらサクジロウさん。ほら、ミシロも挨拶して」
「おはようございます」
「おはよう音惟さん。おや、お客かい?」
「色々あって。あの……」
困ったように口ごもる音惟の目線に合わせ男がかがむ。
「どうしたんだい?」
「この子、ミシロに朝ご飯頂いてもいいですか?」
「はっはっは、そんなことかい?遠慮しなくていいよ。音惟さんも食べなさい。育ち盛りだろう」
男は豪快に笑うと二人を奥の座敷に連れて行った。やがて白米と魚、煮物に漬物に果物が運ばれてきた。
「さ、たくさんお上がり」
「ありがとうございます、頂きます!ほらミシロも」
「頂きます」
二人は待ち切れないとばかりに箸を取り食べ始めた。音惟はミシロが箸を使えることに驚いた。器用に米飯を口に入れている。
「お代わりいるかい?」
「お願いします!」
二人の声が重なった。女中がにっこり笑ってご飯をよそってくれた。全ての椀に皿を空にして。
「ご馳走様でした!」
再び二人の声が重なった。