ニオイ
小屋に戻るとミシロは目を開けていたが未だ布団の上にうつ伏せに寝そべり足をパタパタ動かしている。音惟を見るとごろりと仰向けになり頬を膨らませた。
「おそい!腹減った!」
「居候、我儘言うな。これ、少しだけど」
「本当に少しだな」
竹筒と木の枝で作った箸を差し出せば文句を言う。それでもふんふんと匂いを嗅いでから顔をしかめた。
「なんか臭い」
「文句言うなら食べるな」
「いや食べる、食べるけど」
竹筒をひっくり返し、あーんと口を開けると本当に一口で呑み込んだ。
「足りない」
「わかった。センセのとこに行くからついてきな」
「センセ?」
小屋を出ようとする音惟に布団を干さないのかとミシロが問う。いつも万年床だと言えば気持ち悪いものを見る目でみつめてくる。ミシロはため息をつくと布団に向けて手をかざした。
すると布団がふわりと浮き、ぺしゃっとした生地に空気が含まれていく。それから布団が自然と畳まれ畳の上にそのまま降りていった。
「すごい」
音惟が思わず呟けばミシロは得意げな顔になった。
「魔法?」
「神の使いの力だ」
しかしそう言った直後ミシロの体勢が崩れる。
「大丈夫?」
「あんな食事じゃ足りないからだ!」
音惟は困った顔をして小屋の隅へ向かった。そして隅に置かれた木箱をガサゴソ漁り始める。
「仕方ないな、はいこれ」
「なんだこれ、トゲトゲ」
「食べてみて」
音惟が差し出したのは金平糖だった。家族はいつでも食べることができるが音惟にとっては贅沢品だ。
「甘い。臭いもしない。うん、これはいいな」
「でしょ。伯父さんがくれたものなの」
伯父さん、と呼ぶ時だけ嬉しそうな顔になる少女を見ながらミシロは舌で金平糖を転がしその味を楽しんだ。