襲撃3
「音惟、こいつ誰?」
そう問われ音惟の意識が結惟のことから逸れる。ミシロはのそのそと立ち上がると音惟の後ろから伯父を見上げた。すると伯父は音惟の手を強く引きミシロから引き離した。
「君、人じゃないな?音惟にくっつくな。どこの子だ?音惟とどういう関係だ?」
早口でまくし立てながら伯父は音惟を背中に隠し、懐から懐中時計より少し大きい鎖のついた銀色の何かを取り出し手に持った。先程荒くれ者に投げつけた物のようだ。
あからさまな敵意を向けられミシロはむっとした表情を浮かべ伯父に対峙する。
「僕はミシロ、音惟に穢されたせいでここにいる。今は音惟と一緒に住んでる」
「汚……、いや、同棲だと」
歯をギリギリ噛み締め顔を赤くする伯父を見てミシロは挑発するような笑みを浮かべた。慌てて音惟は伯父に言う。
「違うって伯父さん、行き場がないから拾っただけ」
「拾ったって犬猫じゃないだろう」
そう言って伯父は一度黙り、それから口を開いた。
「君は蛇か」
ミシロと音惟は目を丸くした。
「なんでわかったの?」
「なぜわかった」
「一也さん、それよりもこの方達を縛るの手伝ってくれないか」
重なる二人の声の後ろから作次郎の声がした。
「おお、悪い。音惟、ちょっと待ってろ。ヘビ助、おまえは音惟に近づくな、絶対だぞ」
そう言うと伯父は荒くれ者を一人引きずりながら作次郎の後を付いていった。残されたミシロはヘビ助ってなんだと憤慨しながらも音惟に近づいた。
「音惟」
ミシロはそう呼ぶと音惟の手を取った。伯父の言う事など端から聞く気はないようだ。
「ミシロ、大丈夫?怪我してない?」
「ありがとう、音惟のおかげだ」
ぎゅっと手を握られ、音惟はなんだか顔が熱くなった気がした。
「それにしてもなんで、こんな襲われるなんて」
今までそんなことなかったのにと音惟は思う。
「僕が邪魔なやつがいるんだろう」
ミシロが呟いた声は酷く冷たくて音惟は思わずミシロを抱きしめた。
「全くなんだってんだこの町の巡査は。お咎めなしってどういうことだよ」
「本当に困ります。また来ないといいのですが」
「作次郎はなんでそんな呑気なんだよ。あ、こらお前達くっつくな、離れろ」
作次郎と共に戻ってきた伯父は二人を見るやいなや叫んだ。
壊れた物を片付け、どうにかこうにか整った診療所の座敷で作次郎、伯父の一也、ミシロ、音惟は女中の入れてくれた茶を飲み一息入れていた。
伯父達の話では巡査を呼んだもの、荒くれ者はお咎めなしで放たれたそうだ。彼らは診療所を襲ったことを覚えていないらしかった。それにしても一方的に無罪放免とはおかしな話だ。
「さてと音惟とヘビ助には聞きたいことが山程あるのだが」
伯父の言葉に音惟はごくりと喉を鳴らす。
「今日は遅いからね、二人は屋敷に戻りなさい。あ、くっつくのはなしだぞ。ヘビ助は外で寝てろ」
「なんだと?!」
「伯父さんは屋敷に来ないの?」
「ああ、やめておくよ。嫌な感じがするからね」
音惟ににっこり笑むと伯父は今度はミシロの目を見た。
「音惟のことを宜しく頼むよ、ヘビ助」
「いや僕は別に何も……」
小さく口ごもるミシロを音惟は不思議そうにみつめた。