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襲撃2

 姉がミシロに何かするかもしれないと音惟は警戒していたがミシロに変わった様子はない。だから油断をしていたのだ。


 ある日のこと。いつものように診療所での手伝いを終え、夕食を食べ終えた頃。最近は日が暮れるのが早い。もうすっかり暗くなった空を眺め音惟とミシロがそろそろ帰り支度を始めたその時だった。


 戸を打つ音もなく急に荒々しく開かれた戸と共に複数人の足音がドタドタと聞こえた。


「この診療所だな」

「おい、所長はいるか」

「出てこい魔物」


 野太い男達の声がする。


「音惟さん、ミシロさん、奥に隠れてなさい」


 作次郎は二人にそう言うと玄関に向かった。すると玄関にはいかにもな荒くれ者たちが手に鋤や鍬、棍棒を持って飛びかからんとばかりな様子で立っていた。


「君たちはなんだ?勝手に入るとは失礼だろう」

「おうおう、ここに気持ち悪い魔物がいるだろう」

「魔物なんてここにはいません。お帰り願います」


 作次郎はそう言って帰そうとした、が男達は草履も脱がず上がってこようとする。


「ちょっとあんたたち!勝手に入るんじゃないよ!」

「ああ?うるせえ(あま)だな」


 普段は穏やかな女中が声を張り上げ止めようとするが彼らは聞く耳を持たず二人を押しのけ侵入してくる。


「君たちやめたまえ!」


 止めようとする作次郎を物ともせずに魔物はどこだ、出てこいと叫びながら男達は屋敷の障子やドアを勝手に開け詮索を始めた。ついでとばかりに診療所の中の備品をお構いなしに壊していく。


「やめないか、なんだってこんなひどいことを」


 男の中のリーダー格と思しきものがこう言った。


「あんたら魔物にとり憑かれてるってなあ、なあ」


 男の目は作次郎を見ているように見えてその視点はどこか別なところを見ているようだった。それでも口調だけは強く作次郎を責め立てる。その目が不気味に思え作次郎は一瞬怯んだが負けじと言い返した。


「だから魔物などいないと言ってるだろ」

「九角家のお嬢様からのお嬢様からの情報だぜ」

「なぜ九角家が関係あるんだ」

「結惟お嬢様は結惟様はなんでもご存知なんだ。なんでもご存知なんだ」


 結惟お嬢様と告げたその時だけ男の頬が赤く染まる。しかし目だけはどこかぼんやりとしていて作次郎を見ているようには思えなかった。それに言葉も何か不自然だ。

 それでもそう言い終えると他の男と同じく隠している者を出せとばかりに扉を勝手に開け侵入する。


 ついに音惟たちの隠れる部屋に近づいたその時だった。


「やめろ」


 ミシロが自ら扉を開け男達の前に立ったのだ。音惟がミシロの手を引っ張り部屋に戻そうとするがミシロは頑なにそこをどかない。


「ほーら、隠してたじゃないか魔物魔物をよお」


 男はニヤニヤとした笑みを浮かべ、それでもミシロには視線を合わせない。


「僕は魔物じゃない」

「魔物は退治する、退治する」


 ミシロがきっぱりと言うが男はブツブツ言いながら鍬を振り上げた。そこへ音惟が割って入る。


「あんたたち、なんなんだい?」


 すると男が振り上げた鍬をそのままにした状態で狼狽えた。


「魔物魔物は退治、妹の音惟は傷つけない、魔物退治、妹傷つけない」

「この子を傷つけるやつは私が許さないよ」


 ミシロを後ろに庇いながらも音惟はきっぱりと言い放つ。


「頼まれ頼まれたんだ、結惟様に。あんたに魔物がとりとり憑いているってなあ。なあ、なあ魔物を退治。妹、傷つけない、魔物退治」


 男はぶつぶつと呟きながらしかし音惟には手を出せないでいるようだ。その時何かが男に向かって飛んできた、と同時に誰かが叫んだ。


「音惟ちゃん、しゃがんで」

「うがっ?!」


 咄嗟にミシロを抱えしゃがむと飛んできた物が男に当たり、さらに音惟の後ろの障子にぶつかる音がした。音惟は思わず目を瞑った。次に目を開くと荒くれ者は床に座り込んでおり、その額にニ本の指を当て何やら呪文を唱える男がいた。


「静まれ悪しき枷よ。解けよ呪縛」

「おじ……伯父さん!」


 そこにいたのは音惟の伯父だった。呪文を唱え終え伯父が指を離すと荒くれ者は不思議そうな顔をした。対して伯父は厳しそうな表情で男を見下ろす。


「ここ、どこだ?俺、何して」

「君のことは知らないがこの診療所を襲ったんだよ。罪は償って貰うよ」

「違う、俺は結惟様に頼まれたんだ」

「結惟?誰だ」

「お嬢様だ。九角家の」


 その言葉に伯父は不思議そうな顔をする。


「九角家には音惟と真惟しかいないが。妹でもできたか?」


 困惑した顔で音惟に尋ねる伯父に今度は音惟が困惑する。


「伯父さん、私の姉だよ。長女の結惟姉様だよ。会ったことあるだろ?」


 そう尋ね返してからふと音惟は思う。前回伯父が来た時に結惟は……いただろうか、と。

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