気まぐれ神様の独り言
分割するつもりでしたが短いので続きを追記して更新しています。
その存在は無垢で純粋でとても可愛くて、神は傍に置いて大切に可愛がっていた。お気に入りの一番として常に一緒にいた。何でも欲しいものを与え、食べたいものを食べさせた。誰よりも大切に扱った。
もしかしたらそれがよくなかったのかもしれない。
その存在は自惚れ、他者を見下しすようになった。
キラキラしたものに曇りが出たのだ。宝石が曇るように、銀が黒ずむように美しくなくなった。もう神の手には相応しくなくなってしまった。
「可愛い子には旅をさせよ。そんな言葉が下界にあるのか」
神は思ったのだ。ここではない世界を経験させたらまたキラキラに戻るかもしれない、と。
戻らなかったらそれはそれでいいかな、とも。だって神のところには他にも無垢で可愛いくてキラキラしたものは沢山いたから。
そう思われる側がどう思うかなど神は興味がないのだ。
だから神は今ミシロと呼ばれる存在を白蛇の姿に変えて人間の住む世界に放ったのだ。
それから時々神は天界から蛇の様子を窺っていた。
慣れない世界で四苦八苦している姿は可愛くて愛しさが増した。手も足も出ない状態で這い回る姿も愛しかった。何より可愛いのがいきなり堕とされ悲しんでいるだろうに涙一つ零せないのもまた堪らなかった。
ちゃんと元の無垢な存在に戻れたら天界で大事に大事に真綿で包むように扱ってやろうと思ったのだ。
ある日のこと、いつものようにヘビが道をよたよたと歩いているのを眺めていた。するとヘビを足蹴にした者がいた。
神は激怒した。神の大切なものを踏みつけたのだ。すぐに人の世界へ姿を現し、不届き者の首の根を掴んだ。このまま絞め殺してやろうと思ったのだ。
だって相手は人の姿そっくりの魔物だったから。
魔物は神と敵対する存在だ。穢を振りまき、人を欺き喰らうのだ。そんなやつが大切な存在を踏むなど許せない。
人間の少女の姿を模したソレの首を掴み、消滅させようと思った時に神は気がついた。あ、これ人間だ、と。
その小さな体に穢を限界まで溜め込んでいるから魔物にそっくりに見えたのだ。
なんでそんなことになってんだろう、ま、いいや処分しようと手に力を込めた。その時少女が力を放ったのだ。
穢を含んだ力が蛇に放たれ、愛しい存在がさらに穢されてしまったのだ。しかしどういうわけか少女につけられた蛇の傷は癒えていた。
え、面白い、と神は思った。人の身で穢を溜め込んでいるのに消えず、さらに不思議な力を持つその存在に神は興味を持ったのだ。
今は殺さないでちょっと観察してみよう。
人間の子どもが虫を捕まえ観察するように神は少女を放った。ヘビは穢に汚されてしまったが少女の持つ力の効果か面白いことになりそうだ。
そうして一人と一匹を放置して自分の世界に帰ったのだ。
うん、愛しい子にはもう少し人間社会で苦労してもらおう。いい子になったら穢をとって自分の世界に戻すのもいいし駄目だったらそれまでだ、と神はご機嫌で観察を始める。
少女の力が働いて人型に変わった愛しい存在を眺めつつ、神は暇潰しの余興を楽しむことに決めたのだ。