ニオイ6
小屋に戻るとすっかり冷めた麦飯と漬物の切れ端がのった膳が置かれていた。
「ほら、ミシロ食べな」
「音惟が食べろ」
「いいから食べな」
「じゃ半分にしてよ」
仕方ないなとぼやきながら音惟は麦飯を半分にし掌で丸くし漬物をのせてやる。するとミシロはにっこり笑んだ。二人でぼぞぼそしたそれを咀嚼する。
「うん、音惟が握ってくれるとうまいな」
「作ったのは家の使用人だよ」
「でもうまい」
そう言われて音惟も満更ではない顔をした。一息ついた後ミシロがまた鼻をひくひくさせた。
「やっぱりこの屋敷、臭う。変だよな。音惟からはそんな臭いしないのに。それに音惟の穢が薄くなった気がする」
「また穢とか言う。でも臭いと穢というのは関係するのか?」
音惟の問いにミシロは考え込む。
「確かに穢は嫌な臭いだ。あと苦しくなる」
「ふーん」
「でも音惟からはすごくいい匂いがする」
ミシロはそう言うといきなり音惟に抱きつき鼻を埋めようとする。
「ちょ、やめろよ」
「だっていい匂いだから」
悪びれない様子でミシロはぺろりと舌を出した。
「ほら、もう寝るぞ。布団は使っていいから」
まだ温かい季節で良かったと音惟は内心思いつつ部屋の隅に行こうとした。その手をミシロが掴む。
「見てろよ」
ミシロはそう言うと両手を広げた。
するとキラキラした光が現れる。そして何もなかったその手に厚みのある布が、布団が現れた。
「どこから盗ってきたの!返してらっしゃい」
「ちがう。神様の世界で僕が使ってたものだ」
音惟が思わず叫ぶとミシロが焦ったように返す。
「持ってきていいの?」
「こちらに来たということは大丈夫、だと思う」
「布団で寝られるのは助かる。じゃ、おやすみ」
せんべい布団を手に取ろうとする音惟にミシロはその手の布団を押し付ける。
「おまえがこれを使え」
「いや、ミシロのでしょ」
「いいから使え」
そう言うとミシロはせんべい布団にくるまった。
「じゃ、明日は私がそっちで寝るから」
音惟はそう言うと新しい布団にくるまった。初めて知るそのフカフカな感触に音惟はうっとりと目を細めた。
部屋の片隅ともう片隅にそれぞれ布団を敷き、二人は目を閉じたのだった。