ニオイ4
「センセ、いいの?いっぱい貰えばよかったのに」
「いや、これでいいんだよ。それにお金の出どころが気になるからね。ほら、これはミシロ君のものだ」
差し出された硬貨に手を付けずミシロ不思議そうな顔をする。
「食べ物じゃない」
「それはお金。それがあれば食べ物を買えるのよ」
しかしミシロは頭を横に振る。
「それはサクジロウのだ」
「ミシロ君が治療してくれたんだ。だからミシロ君の分だよ」
「力を使ったのは飯の礼だ」
頑として受け付けないミシロに作次郎が折れとりあえずは作次郎が預かることになった。
「それより腹が減った」
「そうだね、昼にしようか」
昼食後茶を飲みつつ作次郎が何かを言いかけてはやめている。
「センセ、なに?」
「いやー、その、ミシロ君の力のことなんだがね」
「僕の力?すごいだろう。主から……むぐ、音惟口をふさぐな」
また神がどうの言い始めそうなミシロにハラハラしながら音惟は作次郎を見る。
「その力はね、隠したほうがいいと思うんだ。とても良い力なのはわかる。でも悪用しようとする者も出てくるかもしれない」
「そんな罰当たりなことをするやつが」
ちらりと音惟を見てからミシロは吐き捨てる。
「私の力だって悪用してないわよ」
まるで音惟の力が悪いことに使われてると言わんばかりの態度だ。作次郎は音惟の力のことを知っているからここで話してもいいだろうと言い返す。
「音惟さんの力も悪いものじゃないのはわかる。だが町の人からは恐れられてしまった」
「役に立ちたかっただけなのに」
しょんぼりした様子が普段の勝ち気で性悪な音惟のらしくなく、そんな表情もするのかとミシロはちらりと目をやった。
少し昔まではこの診療所で音惟の力を使っていたのだ。作次郎の負担が少しでも軽くなればと思ってのことだった。町の人も最初はとても喜んでくれたのだ。それなのに。
「魔物の力だ、あの子は魔物だって言われるようになって」
音惟の目の端からうっすらと涙が滲むのを見てミシロはなぜか胸のあたりがキュッと痛くなった。
「人はよくわからないものに恐怖を抱くのだ。それで音惟さんの心が傷ついては元も子もない。」
「お、おまえが傷つくタマかよ」
そう言ってミシロは音惟の頬を軽くつつく。
「なんですって!」
売り言葉に買い言葉ですっかり元の調子を戻した音惟を見てミシロは内心安堵した。
それから午後の診療を終え、土産にとおやつまで貰い二人は診療所を出たのだった。
「センセ、また明日!」
「サクジロウ、また朝ご飯も頼む」
ミシロはちゃっかり朝ごはんを強請っていた。