ヘビふんじゃった
生き物を酷い目に遭わせる表現があります。
結果として無事ですが苦手な方はお避けください。
ヘビだ!
見つけた瞬間少女の足が出た。
ヘビふんじゃった。
例えば蓮の花が枯れた姿、カエルの卵、ひっくり返した石の下にいる蠢く小虫、そういうものが少女、名は音惟という、は嫌いだった。
だって気持ち悪い、と彼女は思う。でもそんな物より何よりも嫌いなものがいる。
考えるより先に足が動く。彼女はそれを踏みつけていた。
ぬめっとした体、ぬるっとした動き、何を考えているかわからない小さな目、そしてチョロチョロと動く細い舌。
ヘビを足で踏みつけたのだ。
足の下で苦しげに蠢くのは小さくて白色、桃色の目をしたヘビだった。
(もっと苦しめ、気持ち悪いやつ。おまえなんか、おまえなんか)
何も悪さをしていない動物を残虐に傷つける音惟は無表情だ。白い肌にゆるやかに波打つ金色の髪と水色の瞳、その美しい顔が一層にぞっとする醜悪さを引き立てた。
名家九角家の異端の子と呼ばれる音惟は顔立ちは美しいのに我儘癇癪持ちで残虐と町中で噂になっている。何よりも人々の好奇心をかき立てるのは三姉妹のうち音惟だけが容姿が異国の人のようなこと。
姉はいつもにこやかおっとりとして花のように美しい。そして町中のどんな身分の人にも優しく皆から好かれている。そして妹は一番上の姉に懐くお転婆な子だ。その容姿はこの国では当たり前である黒髪に白肌、黒目である。
音惟の白肌は二人の、いやこの国の者の肌の色と異なる白さだ。髪の毛は金色、この国では見たことがない。
一体どこの子なのか、まさか母親が不義をした子なのかと噂するのは町の者だけではない。九角家に勤める使用人だって音惟に聞こえるのも構いなく話している。
生き物を無闇に殺し、嫌いな使用人に暴力をふるい怪我を負わせる手の負えない奇妙な子ども、それが音惟の持たれる印象であった。
九角音惟→くすみねい→巳、スネーク