始まりの戦
・・・翌日
-上田城-
光天は上田城の武器庫で装備品を探している。服装はいつも通り黒い裁着袴を履いており、黒い男物の着物を着ている。それに加えて、長かった髪はポニーテールで結んで真田の家紋である六文銭が書いてあるハチマキを結び、両腰に刀を差し込む。次に背中には、弓矢を背負っており腰裏には予備の小刀を2本装備している。甲冑は下半身しかしておらず、上半身は何もつけていない状態だ。
もうすぐで関ヶ原の戦いが始まる。それにしても徳川陣営は一体何をするのかがわからない…それに和風月神将も俺が歴史を学んでいる上でそいつらの存在自体が不明だ。だとしたら黒服が、何かやった可能性が浮上してくるんやけど…。
光天が考える中、背後から誰かに呼ばれた。
「光天よ。支度はできておるか?」
信繁だ。
「はい!丁度終わった所です。」
「鎧は着なくて良いのか?」
好天の装備を見て信繁は指摘した。
「大丈夫です。むしろこっちの方が動きやすいので。」
光天は動きやすさ重視で、鎧を着ていなかった。
「なら、そうしておこうか。そうだ光天。」
「はい何でしょうか?」
俺は父上からこう言われた。
「お前の名についてだ。」
「え?俺の名について…?」
俺は困惑した表情で父の目を見た。
「ああ、お前は今後真田を継ぐ存在じゃ。そのためにも名前を決めておこうかと。」
「でも俺には光天と言う名が・・・」
「それはお前が姫だった時の名だ。今はわしらと同じ武士だ。武士には武士の名を言うのが、戦の基本じゃよ。」
「そうですか。」
「せっかくの事じゃ。お前自身が考えて見い。お前の武士の名を・・・」
信繁は光天自身に名を付けさせる事にした。
俺の武士の名前・・・俺は前世では睦大輔だ。父の名前が幸村になる。なら・・・
すると光天は決心した顔になり、自身の新名を言った。
「俺の名は"真田睦幸"と言います!」
信繁は安心したかのような顔で睦幸を見る。
「真田睦幸…実に良い名じゃ。なら、真田睦幸よ!その真田の名にかけて、此度の戦に勝とうぞ!」
「はい!父上!」
睦幸は父の声で決意した感情で返事をした。
・・・
その後俺と父上は別々の場所に配置された。父上は山の方で徳川軍には叔父上である信之が入っている。あんのくそ叔父上ー!俺は爺殿と一緒に上田城にいる。
「ねぇー爺殿ー。暇だから突撃していいかなー。」
睦幸は気怠そうな表情で昌幸に問いかける。
「まだじゃ。奴らが我々の陣営に突撃するまで待つのじゃ・・・って、あれ?睦幸は?」
目の前にいたはずの睦幸が姿を消した。
「昌幸様ー!!」
すると家来が大声で昌幸を呼んだ。
「どうしたのじゃ!?」
昌幸は慌てて返事をする。
「む、む、睦幸様が…敵陣に突撃しましたーー!!」
「なんじゃとぉー!!!」
・・・
「戦じゃ!戦!」
俺は爺殿の言う事を破り、一人で敵陣に突撃している。
・・・1時間前
「父上!」
俺は山に向かう父を呼んだ。
「何じゃ?」
信繁は睦幸の方へと振り向いた。
「好きに暴れて良いですか?」
「・・・」
睦幸の言葉に信繁は変顔で・・・
「良いぞ。父上の言う事無視でどんどん暴れて良いんじゃぞー。」
・・・現在に至る。
「狙うは敵将の首!せめて徳川の首を頂戴致す!」
睦幸は敵の方へ加速して行く。
・・・
-酒井家次陣営-
「家次様!準備が整いました。今こそ出陣の時です!」
「そうであるか。なら皆のもの・・・かかれ!!!」
そうして関ヶ原の戦いが始まった。家次は馬に乗り上田城へと突撃して行く。
・・・
人の声が響いてきた。どうやら始まったようだな。声からするにだいぶ近い感じがする。
睦幸は腰にある刀を鞘から抜いた。すると、平原の奥から敵の軍勢が見えてきた。
敵将は特殊な兜をつけている。其奴を見つけて、首を討つ。
睦幸はそのまま敵陣に突撃した。
「前方に何か向かってきます!あれは…女?確かに、あれは女ですぞ!」
家来の一人がその事に気づいた。
「何女じゃと!だが突撃してくると言う事すなわち敵、なら我々が討ち取るまで。」
家次は睦幸を討ち取る様に指示する。
軍勢と睦幸の距離が高くなる。すると睦幸が大きな声で叫んだ。
「我が名は真田信繁の嫡女!真田睦幸じゃ!その首、置いて行け!!」
睦幸は敵陣の中へと突撃した。まず、一振りで複数の首を掻っ切る。そのまま槍が飛んできたので掴み、回転して敵を切り刻み敵の一体を蹴り飛ばす。刀が振り下ろされたが防ぎ、カウンターの腹パンを食らわせ吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた家来は他の家来にぶつかり下敷きになるその隙を見逃さずに下をめがけて斬撃を振った。下からは、大量の血飛沫が出てくる。
「覚悟!!」
家来は死に物狂いで突撃するが、素手で刀を掴みそのままへし折り、へし折った刃で家来の喉元に突き刺した。喉元から出てくる鮮血が睦幸の顔に浴びる。すると背後から、3本の槍が刺してくるがバク転で回避して槍の上に立ち、三人の家来の首を撥ね飛ばした。
敵将は何処だ?
睦幸は敵将を探しながら、敵をどんどんと切り刻んで行く。
「化け物がぁぁ!!」
家来の一人が来るが、持っている刀を刀で弾き飛ばして首を飛ばした。睦幸は冷静になりながら、敵を殺して行く。
何処だ?何処にいる?
睦幸は彼方此方を見渡して敵将を探している。すると奥から変な兜が目に着いた。
みーつけた。
睦幸は不気味な顔でニヤけた。兜目掛けて敵を切り刻んでいく。
「見つけたぞ!!敵将!その名を言うがいい!!」
酒井家次はその声に気付き、鬼の形相をして言った。
「わしは酒井左衛門が尉家第6代当主、酒井家次なり!!この首!簡単には渡さんぞ!!」
ビンゴ!酒井家次・・・貴様の首、俺が討ち取ってやる!酒井を討ち取れば、戦況は有利になり本戦までには間に合える!
そのまま睦幸は、単体で敵を蹴散らして行く。
「家次様!このままだと奴が来ますぞ!」
家来が慌てて家次に言うが、家次は笑っている。
「何を言っておる。わしも武士じゃ。戦いこそ我が人生、戦で死ぬのは本望。」
そうして家次は馬で睦幸の方へと突撃した。
「家次様!!」
家来は止めようかとするが止められず、突撃を許してしまった。
「ぐははは!!我と一騎討ちぞ。真田睦幸!!」
良いぞ家次。お前と俺どっちが勝つか。睨めっこは無しだ!
「家次!!俺の初手柄になるが良い!!」
-西軍 真田睦幸
対
東軍 酒井家次-
「どりゃぁぁ!!!」
と家次は槍を刺してきた。睦幸はサイドステップで避けると、家次は馬から飛び刀を鞘から抜き睦幸へと振り下ろした。睦幸はそれを受け止めた。
「うぐぐぐッ!中々に渋とい。」
家次は全体重を乗せて睦幸を押している。しかし睦幸は力技ではどの武将よりか一枚上手だ。しかし背後から、家来が不意をついてきた。俺はすぐに押し返して、背後の敵を薙ぎ切った。それを見た家次は驚いた。
(此奴…わしを跳ね除けて、背後にいる者を切ったじゃと!?一体何者なのじゃ…!しかし、わしを前にして背中を向けるなど自害同然!)
「覚悟!!」
睦幸の背中を目掛けて刃を振った・・・だが、振った刃は睦幸のもう片方の刀によって防がれた。
「なぬ!?」
家次は驚いていた。自分が一瞬の優位がたった一本の刀により弾き飛ばされたと言う事を・・・
「家次・・・それで俺が死んだら、天下は余裕でしょう。ですが、それは俺が死んだ話。戦で油断は禁物ですぞ。」
一瞬で家次の刀を押し返し、もう片方の刀で家次の横腹を掻っ切る。
「ぐはぁ!」
血反吐を吐く家次に追い討ちに両腕を切り落とす。
「ぐがぁぁー!!ここで死んでたまるかぁぁーー!!」
家次は最後の死力を使い刀を口で噛み、睦幸を切ろうとする。
「その生き様見事です…酒井家次…」
睦幸は斬撃をしゃがんで回避し、下から斬撃を流し込み酒井家次の首を飛ばして見せた。
-勝者 真田睦幸-
「い、家次さま…」
家次の首が落ちた後、周りの兵士たちが怯え始めた。睦幸は周りの兵士を見回し・・・
「かかってこいよ…」
まるで死神の様なオーラで兵士たちを煽った。
「て、撤退!!お前ら撤退だぁーー!!!」
そうして酒井家次の陣営は慌てて撤退した。睦幸は逃げて行く兵士たちに呆れた顔をする。それもそうだ・・・睦幸の殺した兵士の数約200名以上に敵将の酒井家次、敵は睦幸を悪魔の様な存在だ。睦幸は刀を鞘に戻し一言放った。
「次・・・誰が相手だろうなー。」
俺は乾いた紙と筆を胸元から取り出した。墨がないので地面に溜まっている血を使い、紙に書き込んだ。書き込んだ紙を酒井家次の頭に貼った。
「じゃ、行くとしますか。」
そうして新たな敵将の首を取るためにその場から走り去った。
・・・
「これは…一体…」
昌幸は睦幸を探している最中にとある光景を見た。それは約二百を超える屍が倒れている。その光景に昌幸は絶句した。
「昌幸様!!」
一人の兵士が昌幸を呼んだ。
「何事じゃ…」
「これが落ちていました…」
兵士が持っていたのは酒井家次の首と一枚の紙であった。その紙に書かれていた内容は・・・
『酒井家次討ち取ったり! 真田睦幸より』
「睦幸はたった一人であの軍勢を壊滅させたと言うのか…」
「その通りだと…思われます…」
昌幸は睦幸の強さを再確認したと同時に、恐怖すら感じた。
・・・
-牧野康成陣営-
「何!?家次殿が討ち取られただと!?」
牧野康成は酒井家次が討ち取られた事に驚いている。
「は、はい!相手は単体だと聞いております!」
「単体!?」
「はい!酒井家次が討ち取られた事により前線の指揮が壊されてしまい、酒井家次陣営は敗走しました!」
牧野康成は冷や汗をかいている。
「今すぐに、その者を討ち取ってくるが良い!!」
「は!皆のもの!!参れーーー!!」
そうして牧野康成陣営が動き出した。
・・・
睦幸は牧野康成の裏を取るために動いている。
どうやら牧野康成の軍が動いた様だな。さて、裏を取るとしよう。
俊足で牧野康成がいる場所の裏まで行った。走って行く道中に敵兵に見つかった。
「敵襲だーー!!」
兵士は迷わず叫んだ。睦幸はその兵士の首を飛ばした。だが叫んだ影響で、敵が大勢此方へと向かってくる。
「あんまワクワクさせんじゃねぇーよ。」
不敵な笑みを浮かべ、突撃した。
・・・
-徳川秀忠陣営-
「どうやら、酒井家次殿が討ち取られましたね。」
秀忠の前に一人の男が立っている。
「くそ!酒井の奴、油断しおって!!」
秀忠は酒井を討ち取られた影響で怒りが収まらなかった。
「まぁ、所詮酒井もその程度・・・でも、この阿部安秀がいる限り上田城は必ず突破できますよ。」
と男は落ち着いた表情で秀忠を落ち着かせる。
「確かに此処の軍には、"和風月神将のお主"がおる。この攻城戦はこちらに部がある。」
「なので秀忠様にはゆっくりとこの戦いを是非とも眺めてご覧ください。」
「ふっふっふ…今に見てろよ真田昌幸…貴様の生涯・・・わしが断ち切ろうではないか。」
・・・
「ふー…」
睦幸は大量の屍の上に立っている。(約300名以上)
「まっ、こんぐらい殺れば追加兵は来ないでしょ。」
そうして牧野康成がいる所まで行った。本陣の裏に着いた。睦幸は布を刀で切り裂いた。
「うおーー!!」
いきなり刀が飛び出してきた。布で姿が見えないにも関わらず睦幸は冷静に刀を掴んだ。
「はじめまして、牧野康成殿。そして、さようなら。」
「ウグッ!」
睦幸は白い布を牧野康成の頭に巻き付け、そのまま刀で首を切り落とした。
「ふぅ〜。取り敢えず二人目やな。」
いつも通り筆と乾いた紙を持ち、自身が討ち取った首だと証明できるよう生首に文字付きの紙を貼った。
さて、次の場所に行くとしましょう。早く終わらせて本戦までには間に合わせたい。
と睦幸は戦を終わらせるために徳川秀忠陣営まで真っ先に行った。
・・・
-関ヶ原-
「な…なんだ…あの化け物は…」
兵士が業火の中で見たのは3人の人影だった。
「ふぅ…今日は良い殺戮日和だね虎昌君♪」
一人の男が虎昌という男に喋りかける。
「口を慎め、世良殿。お主は少々、命を軽視していて実に腹立たしい。」
虎昌は世良と言う男がどうも気に入らないようだ。
「え〜、僕だって命を重視しているよ〜。洞泉君、何か言ってやってよ〜。」
洞泉と言う男は世良の言動に呆れている様子だ。
「俺も豹堂と同意見だ。さっさと口を閉じやがれこの真っ白野郎。」
洞泉は世良の事を愚痴る。
「もー、二人揃って僕をいじめる。」
世良はほっぺを膨らませて怒っている。
「はぁ…ほら、今日は沢山人がいる思う存分殺してきて良いからはよ行け。」
洞泉は世良に戦ってくるよう指示する。
「わかった。なら、いっぱい殺してきたら二人の領地の女の子頂戴♪」
世良はニコニコした表情で洞泉と虎昌にお願いする。
「「断る」」
二人は息ぴったりに拒否した。
・・・
-徳川秀忠本陣-
「秀忠様!!」
本陣に兵士の声が響き渡る。
「何用じゃ!」
兵士の顔は汗びっしょりになっている。それを見た秀忠は何か嫌な予感を感じた。
「はぁ…はぁ…報告致します…牧野康成が…討たれました…」
すると秀忠の顔色が青くなる。
「牧野康成殿まで討ち取られただと…」
秀忠は膝から地面へと落ちた。
「ふむふむ、牧野康成殿まで討ち取られた…つまり敵方には、相当な切り札をお持ちになられているようですなぁ。」
安秀は冷静に考え始めた。
「では、某が策を出しましょう。」
そうして安秀は地図を見た。
「おお!安秀殿が策を出してくれるなら有難いぞ!」
秀忠は目をキラキラして喜んでいる。
「牧野康成殿が討ち取られたから、最後の前線は本多忠政殿しかおらん。しかし、此方には数がある。せや、信之殿を山から降りさせて挟み撃ちにするのがええなぁ。そして、我々は川沿いを進み切り札を討ち取る班と城攻めの班で分ける。幸い、牧野康成殿が兵士約5000人を城攻めをしたから信之殿と某らで上田城を挟み撃ちにする。」
「確かに、安秀殿の策はとても悪くわない。だが相手は真田…数は有利じゃが質では劣っている。」
秀忠は誰よりも真田を警戒している。だが安秀は、ニヤリと笑いこう言った。
「ご安心ください秀忠様、この和風月神将の阿部安秀の名に賭けて対策を考えておりますぞ。」
「誠か!」
「はい!なので少々お待ちくださいませ。」
すると安秀はとある物を出してきた。それは布でかぶさっていて大きい物だった。
「さぁ、ご覧ください!これが我々の秘密兵器です。」
安秀は一気に布を外した。姿を現したのは、太陽で光る鉄に細長い大砲が付いており車輪のような物が下についている。
「おぉー!安秀殿!これは!?」
それを見た秀忠は興奮で一杯だ。
「くっくっく・・・これは"戦車(VK4601)"です。」
「戦車とは何ぞや!?」
秀忠は興味津々で質問してくる。
「戦車とは最先端技術であり、鉄砲をも軽く凌駕する兵器。これさえあれば真田など敵では御座いません。」
誇らしげな顔で戦車の凄さを言う。
「では、早速乗るとしましょう。」
すると安秀は戦車の上に登り、出入り扉を開き中へと入る。
「秀忠様、どうぞ中へとお入りください。」
秀忠は釣られるかの様に戦車に登り中へと入る。
「おおー!何と言う入り心地じゃ!これだと誰にも負けんぞ!」
秀忠は物凄く興奮している。
「お褒めになられて光栄に思います。早速出陣としましょう。」
安秀は戦車にエンジンを掛けて、動き出した。
「戦車なるものが動き出したぞ!」
再度秀忠は驚いた。
「では秀忠様、出陣の掛け声を。」
「うむ!では皆のもの!出逢え候え〜!!」
秀忠の掛け声と共に兵士達が一斉に出陣した。
・・・
「ぎゃぁーー!!」
悲鳴と共に敵が倒れる。睦幸は一人で本多忠政の軍勢を相手にしている。
流石にこの人数は厳しそうかも…しょうがない一旦引くとしましょう。
ポケットから煙玉を取り出し地面へと叩きつける。するとそこら中に煙が漂った。
「一旦引かせてもらう!」
その一言で睦幸は姿を消した。
「くそ!!あの女逃げやがった!何処かにある筈だ!!探せぇー!!」
そうして兵士たちは睦幸を探し始めた。
「ふぅ…一旦休憩ー」
一方の睦幸は茂みの中に隠れている。
どうやら兵士達は俺を探す事に集中しているねぇ…だが、これだと俺の爺様が来ることには気づかないだろう。
睦幸は後ろから昌幸が来る事を知っている。
それを狙い次こそは、本多忠政の首を取る。
すると奥から何か音が聞こえる。
「?」と睦幸は音に気付き、先頭体制をとった。
「誰ですか?そこにいるのは?」
睦幸がそう言うと、茂みの中から意外な人物が出てきた。
「光天様ー!私です。一芽ですよ。」
なんと裏商人の一芽であった。
「一芽殿!」
一芽が現れてきて睦幸は少し動揺している。
「ですが…何故此処にいるのですか?見る限り何か企んでいるようだが…」
一芽の表情から何かを考えている事が明白だ。
「実はですね。貴女様にとっておきの物が品出しされたんですよ〜。」
ふざけた口調で睦幸に言う。
「とっておきの品?」
すると一芽は背中に背負っている縦長い木箱を地面へと置いた。
「むふふふ。これを見たら、嘸かし光天様もお喜びになるでしょう。」
一芽は木箱をゆっくりと開ける。
「こ、これは…」
なんと木箱の中から一本の刀が出てきた。
「此方は何と京から盗んできた極秘に造られた刀です。」
「え?」
睦幸は目が点になるほど驚いている。
「この代物は徳川が極秘で、京で今世を破滅へと導く為に造られた刀です。そこを私の部下が聞き盗みして、盗んだのです。しかし…その刀、どうやら鞘から抜けないですよ…」
「見た感じ…ただ物ではないな。刃が鋭く、一振りするだけで木が簡単に切れそうだ。」
睦幸は刀を鞘から抜いて、じっくりと鑑賞している。
「え?・・・
えええぇぇぇぇぇぇえええぇーーーー!!!!!!」
森全体に一芽の声が響いた。
「え?ちょ?待って?何で鞘から抜けているの!?」
突然一芽が驚愕している事で睦幸は困惑している。
「え?まずかった!?抜いたら呪われる物だったの!?」
二人とも慌てている様子だ。
「そうじゃなくて、その刀誰にも抜けなかった代物だよ!そこら中にいる兵士だって抜かなかったんだから。」
「え!?そうなの!?」
睦幸は自身がやった事に驚いている。
「不味くないか?この刀…万が一でも呪われたりしていたら…」
睦幸は自身が何かしらの呪いがかけられていることに怯えている。
「もし死んだら私を祟ったりしないでね…」
一芽は目の焦点をずらした。
「よし・・・」
すると睦幸は一芽に近づいて、
「あのー、光天様…?」
「ふん!」
「ぎゃぁぁーー!!!」
睦幸は一芽を十字固めでしばく。
「何やったんじゃー!!一芽ぇー!!」
「悪気はないですよ!!いたーー!!どうかお許s、ぎゃぁぁーー!!」
・・・
「取り敢えず…どうか買い取ってくださいませ…」
一芽は肩を押さえ泣きながら懇願した。
「はぁ…分かったよ。てかこれで俺が死んだら、どう落とし前つけるつもりなんだ?」
「まぁまぁ、取り敢えずこれで交渉も設立した事ですし。この先の戦にも、この刀についても期待できそうです。では、私はこれにて失礼致しまーす。」
一芽は急足で森の奥へと走り去って行った。
「ほんと…あいつは逃げ足だけは早いんだから。」
睦幸は呆れた顔を出し、何処かへと歩いて行った。
・・・
戦車で進行している徳川秀忠と阿部安秀は、真田昌幸と衝突する空気がそこら中に漂って来る。
「世も末じゃのう。この武器さえあれば、我々徳川家の勝利は間違いない。そしてこの戦で昌幸と信繁の首を取り、晒し首してくれるわ。」
秀忠は自信に満ちた表情である。
「くくく、はい。その通りです。秀忠様は必ずしも、あの忌々しい真田を見事討ち取る事ができるでしょう。」
安秀は不気味な顔で微笑んでいる。
「それにしても、中々敵が見えませんね。忠政殿が此処で争っていたと聞いていたんですが…」
安秀は噂の一人の兵士の姿を見つけようとするが、此処にはいない事が確認している。
「もしかしたら敗走しているとか。はっはっははは!!」
秀忠はその兵士が何処かに敗走している事を嘲笑っている。
「確かにそうですね。何せ我々は、無敵と言われる徳川の家臣ですから。・・・ん?」
しかしそんな油断をしている中、とある複数の影が見える。
「あれは・・・?」
安秀は目を細めて、遠くを見てみる。その複数の影は段々と大きくなり安秀はそれが何かを察した。
(昌幸が此方に攻めてくる。)
安秀の顔が鬼の様な笑顔を見せる。
・・・
間に合ってくれ。もうすぐで爺様が秀忠と衝突する。それまでに何とか間に合ってくれ。
睦幸は片手に一芽から買い取った刀を持ち、急いで昌幸の軍へと向かっている。
「はぁ…はぁ…はぁ…ん?」
足が止まった。睦幸は左の方へと顔を向けた。そこに写っている光景は・・・
「秀忠の軍がもうあそこまで進行しているのかよ。いくら何でも速すぎるだろ。」
秀忠の想いもよらない侵攻に睦幸は驚いている。
「とにかく今は、爺様の所に行かなくては。」
睦幸は止まっている足を動かした。
・・・
「・・・」
昌幸は馬に乗りながら無言でその場に止まっている。すると一人の兵士が急いで昌幸の所に来た。
「報告します!前方に徳川軍が進行している事が分かりました。距離は僅か、もうすぐで衝突致します。」
そして昌幸は冷静に3秒くらい考え、兵士に向かってこう言った。
「そうか…どうやら決戦の時が来たようじゃな。・・・ふぅ…皆の衆!!時は満ちた!今こそ我々の力を示す時じゃ!お主らには、帰りを待っている家族がいる。親友がいる。それらを守る為に我々は戦い続ける!我々の命に拒否権はない!今宵この戦で勝ち、皆と杯を交わそうではないか!!」
昌幸の熱い演説を聞いている兵士達の目は、明らかに闘志が燃え盛っている。
「この戦!勝ち戦にしてやろうぞ!!では・・・すーーー…」
昌幸は大量の空気を肺の中に入れ・・・
「参れぇぇぇーー!!!!!!!!!!」
『うおおぉぉぉぉーーー!!!!!!!』
昌幸の合図によって全兵士が徳川軍の方へと一斉に突撃した。
・・・
「どうやら始まりましたねぇ。秀忠様。」
「ふん!あやつらは和風月神将がいる事にも関わらず突撃するなど自害と同類じゃよ。」
秀忠は威張った顔で真田軍に嫌気をさす。
「では、某も行こうではありませんか。」
そう言うと安秀は戦車を出ようとする。
「秀忠殿?何故でるのじゃ?これについての扱い方などわしは知らんぞ?」
戦車を出る安秀に困惑している。
「そこの席に座ると右横に取り扱い説明書が書いてあるので、説明通りに行ってください。では、某はこれにて出陣と参りましょう。」
「うむ。わかった。あの真田の首を持ち帰ってくる事を楽しみにしておるぞ。阿部安秀殿。」