番外編:サレンちゃんも懺悔室その3
GWという事で、番外編(後日譚)になります。良ければどうぞ
教会はどこだい? 建ててるかい? となったからと言って、ずっと籠ってばかりではいられない。
そんなわけで、ギルドの懺悔室へとやって来た。
(この部屋も懐かしいな)
『懐かしむ程使ってはいないはずだがな』
(気分だよ。気分)
仕切られた大きな壁。少しだけ薄暗い部屋。
毎度やってくる変な懺悔をしてくる人達。
懺悔と言うか、どちらかと言えば相談ばかりだが、誰だって人には言えない悩みがある。
溜め込めば溜め込むほど、人とはストレスが溜まっていくものであり、どこかで発散しなければならない。
俺だって色々と話す事が出来るルシデルシアが居なければ、もっと精神的に脆かっただろう。
まあ脆かったのは俺のせいと言うよりか、不安定な状態でこの世界に来てしまったせいだけどな。
さてと、準備も整ったし、懺悔室を開店させるとしよう。
1
イノセンス教のサレンの懺悔室。それは一部ではとても好評であり、懺悔をした人は必ず救われると噂になっている程だ。
しかし、ここ数ヶ月はサレンによる懺悔室は行われる事がなく、久々に本日行われる事になる。
だが、このギルドで行われる懺悔室は、当日までどの教会の誰が懺悔室に居るのかを知るのは、ほぼ不可能となっている。
けれども、一部の人間は簡単に知る事が出来る抜け穴がある。
それは、懺悔室があるギルドの関係者と、懺悔室を使う教会の関係者だ。
「――ここが例の懺悔室か」
その日、ライラはシラキリに嘘の情報を流し、ミリーには黒翼としての仕事がいくように仕向けてから、ギルドに来ていた。
決してやましい気持ちがある訳ではないが、噂を聞いてからライラは、一度は来てみたいと思っていた。
態々こんな所まで来る必要は無く、現在借りている家で話しても良いのだが、家ではどうしてもシラキリの耳やミリーの目がある。
昔サレンを尾行した時の教訓を活かし、今日のライラはグローリアを装備せず、グランソラスだけを持ってギルドへと入り、焦る気持ちを落ち着ける様にゆっくりと扉をノックする。
「迷える子羊よ。入りなさい」
言葉に従い、ライラは懺悔室へと入る。
仕切られた板によりサレンの姿は見えないが、今のライラはあくまでも匿名の相談者だ。
自分が来たことをサレンに告げる必要は無い………………のだが、サレン側にはルシデルシアが居るため、サレンにはライラが来たことは筒抜けであった。
何故? どうして? と思うが、来てしまったからには懺悔を聞くのがサレンの仕事だ。
「あなたの罪を告白しなさい」
知らない振りをして、いつものセリフを吐く。
仕事である以上、真面目にやらなければならない。
「……我は、あるシスターの下でお世話になっている」
誤魔化す気はあるのかと思うサレンだが、黙って続きを待つ。
「初めて会った時に助けられ、それからは利用してやろうと思っていたが、そのシスターはとても優しくしてくれた」
過去を懐かしむようにライラは目を閉じ、僅かに口角が上がる。
「……そのせいなのだろう。我はシスターに絆されてしまっていた。我が背負っていた業はあまりにも重いものだったが、結果として我の背負っていた荷を降ろす手伝いをしてくれた。それがどれだけシスターにとって悪い事だと分かっていても、それを喜んでしまっていた我が居た……」
ほとんどの宗教で言える事だが、殺人は禁忌とされている。
それはどれだけ恨みや憎しみがあったとしてもだ。
それなのに件のシスターはライラを助け、その業を諸事情で一緒に背負った。
その事がライラは嬉しくもあり、同時に苦しくもあった。
シスターという神聖な存在を穢してしまった…………その事をずっと気にしていたのだ。
「――我が許されない存在だという事は、我が一番よく知っている。だが、それでも我がシスターに着せてしまった業を、どうにかして償いたい……」
思っていたよりも重いライラの告白に、サレンはどうしたものかと悩む。
王国で起きた事件だが、悪いのはサレンにちょっかいをかけてきた神であり、それにイラついたルシデルシアが暴挙に出ただけだ。
数千人を殺した下手人はルシデルシアであり、一応イノセンス教で信仰している神そのものだ。
ついでに、当時のサレンは神の攻撃で気絶していたため、結果でしか大量殺人の跡を見ていない。
そもそもサレンの精神は魂が混じりあった結果、常人と変わってしまっているため、今更人を殺した事についての罪や苦しみはほとんど無い。
つまり、今更そんな事を言われても、全く気にしていなかったため、今更言われてもと言った感じだ。
「汝の罪は神へと届けられました。聖職者の精神を穢す行為は、一般的に許される事ではありません。ですが、人が人である以上、大切にしなければならないものがあります」
「……それはなんだ?」
「たとえ世界を敵に回したとしても、誰かを救いたいという心です」
ぎゅっとライラは拳を握り締め、続きの言葉を待つ。
「聖職者。つまり神に仕える僕だとしても、心を捨てたわけではありません。あなたがどの様な罪を着せてしまったのか私には分かりませんが、その方はあなたを思って罪を背負ったのでしょう。それを苦しいと思うのでしたら、一言お礼を言えば良いと思います。どの様な関係であれ、言葉にしなければ伝わらない事は沢山あるのですから」
一般的な常識論に加え、ライラの心を落ち着かせるために、適当な解決策をサレンは伝える。
言葉よりも金なのがサレンだが、ライラとは放っておけば金の卵を産む鶏なのだ。
金を寄越せというよりも、健全に育ってもらえれば、それだけでサレンの得となる。
「そうか……そうだな。確かに言葉にしなければ、何も分からぬか……世話になった。助言感謝する」
握り締めていた手を解き、柔らかい笑みを浮かべ、ライラは感謝をした。
これまでのライラならば、誰かに弱音を吐くなんて事はしなかったが、サレンと一緒に過ごしてきた事により、成長したのだ。
ライラは扉を開けて外へと出る。
礼を伝えるならば言葉だけではなく、品もあった方が良い。
帰りに何か買っていこうと考えながら、ライラはダンジョンへと出掛けるのだった。
2
「シスターさん! 帰って来たんだって!」
「……懺悔室ではお静かにお願いします」
ライラが懺悔室を出ていき、朝の一発目から濃い懺悔を聞いたのもつかの間。
今日も元気なチエルがバーンと扉を開いて懺悔室へと入って来た。
チエルは、サレン達が王国へと出かける前に今日と同じ様に懺悔室へと飛び込んできた。
そしてサレンの紹介で双竜ノ乱の新たなパーティーメンバーとして加わり、サレンが居ない間イノセンス教の布教活動に精を出していた。
「わ、悪かったよ。やっとシスターさんに会えると思ったら、つい嬉しくなっちゃって……」
懺悔とは基本的に匿名で行われるものだが、残念ながらチエルは正確には理解していない。
チエルの理解としては、サレンが相談に乗ってくれる場となっている。
「……迷える子羊よ、あなたの罪を告白しなさい」
この言葉をチエルへ言う意味があるのか、サレンは少々疑問に思いながらも、懺悔としての体を保つ必要があるため、一応言った。
「シスターさんが居なくなってからしばらくは何もなかったんだけど、なんとか教ってのが急にやって来てさ。スフィーリアの姉ちゃんを寄越せって言って来たんだ」
それは起こるだろうとサレンやミリーが予想していた事であり、そのために黒翼やサレンへ恩がある二パーティーに護衛をお願いしていた。
「最初は無視してたんだけど、ついにスフィーリアの姉ちゃんがキレて、相手を殴っちまったんだよ。一応先に手を出したのはなんとか教の奴らが先だったんだけど、あれは怖かったなー……リーダーもなんか目が点になってたし、オーレンさんも護衛っているのかって、苦笑いしてたし」
当時の事を思い出し、チエルは少女に似つかわしくない遠い目をする。
一応護衛を頼んだのだが、スフィーリアに与えた加護は相当なものであり、生半可な冒険者では勝てない位強くなってしまっている。
剛腕で相手を吹き飛ばす幼馴染を見たオーレンは、それはもう驚きを通り越して呆然とするくらいだった。
今ではもうスフィーリアの狂変もとい変化に慣れたが、たまにどうしてこうなったと思ってたりする。
「そんであちこちとやりあっていたら、急になんとか教が来なくなってさ。ホロウスティア全体でもなんかあわあわしてたんだけど、いつも以上にスフィーリアの姉ちゃんがやる気を出して、なんか土地を買って教会を建て始めていたんだー」
「人間って凄いなー」と感想を漏らすチエルだが、サレンはスフィーリアを選んだのは早計だったかもと、少し反省していた。
結果としてスフィーリアのおかげで、イノセンス教の東区での人気は盤石なものとなり、教会の建て替えも予定よりも早く終わる事になっている。
だが、これから先信徒ではなく教徒を増やすとなっていくと、思想の強すぎるものは少々危うい。
スフィーリアが裏切るなんて事はないだろうが、小さな不和は大きな波紋となる可能性もある。
ただ、今のサレンはそんな先の事はおいといて、言わなければならない事がある。
「……お疲れさまでした。汝の罪を……頑張りを神は認めてくれるでしょう」
「おう! 今度また一緒に、ご飯に行こうな!」
「…………はい」
一応答えてはいけないのだが、チエルが頑張ったのはサレンも知るところであり、これを無視するのは人として駄目だろうと思い、小さく返事をした。
それを聞いたチエルはニッコリと笑い、入ってくる時とは違い静かに懺悔室を出て行った。
後程チエルの存在を正確に知った、シラキリの目からハイライトが消える事件が起こるが、帰ってきたサレンの日常は穏やかに過ぎていくのだった。




