第235話:戦後の街
つい昨日……というか実質数時間前まで戦争をしていたはずの街だが、案外緊迫した雰囲気は流れていなかった。
いや、それどころかかなり活発に人々が活動している。
建物は結構壊れているし、血の跡なんかも残っているが、普通に商売をしているし、復興作業も管理の人数で行っている。
「何やら賑やかですね」
「はい。建物はかなり壊れてしまっていますが、人々の顔には悲壮感があまり無さそうです」
現在居るのは教国側の街となるが、敗戦したというのに敗戦を感じさせない活気がある。
帝国の鎧を着た人達も普通に歩いているが、摩擦の様なものは見られない。
裏を知っているから言えることだが、誰にも望まれていない戦争だったのだろう。
中世くらいの戦争だと、略奪してなんぼみたいな風潮だったと思うのだが、そんな事をしている様子は無い。
帝国の定義が壊れるなぁ……。
人通りも多く、馬車もかなりの台数が列を成しているため、進むスピードはあまり早くない。
これならば早朝ないし、もっと夜遅くでも良かった気がするな。
……いや、それだと安全のためとかで、門が閉まっている恐れがあったか。
何やら街へ入る時に一悶着あったし。
「うーん。思ったよりも進まないねー」
「これだけの混雑では、抜けるのはどれ位掛かる?」
「普通なら二時間もあれば抜けられるけど、これがずっとだと倍は掛かるかな? いやーこれは流石に予想外だったね」
確かに戦争が終わった次の日に賑わっているなんて、普通は考えられないよな……。
何かあればミリーさんをなじるライラも、今回は仕方ないと追及をしない。
四時間となると、ギリギリ夜になるかならないか位だな。
聞いた話では国境の検問は一時的に廃止されているらしいが、だからと時間が変わる事は無い。
宿を取るにしても、難しい気がするが……。
「時間的に門が閉まってしまう可能性がありますが、どうしますか?」
御者をしているアーサーがミリーさんへと問いかけるが、現在ミリーさんは唸って考え中である。
ミリーさんの方針が決まるまでまだ掛かりそうなので、マヤやアオイと一緒になって馬車の外に視線を移す。
ホロウスティアでは基本的に見回りをしていた赤翼騎士団しか見てこなかったが、戦争の後という事もあり、他の騎士団も歩いているのを見かける。
一番多く見かけるのは黄翼だが、確か防衛などを担当している騎士団になるので、戦時となれば増えるのも道理だろう。
後は青と緑翼騎士団も走り回っているのが見える。
流通は完全に止まっていた訳だし、それに伴い事務仕事や情報伝達も支障が出ていたのは考えるまでもない。
こういった非常時に誰が何をやるかしっかりと決まっているのは、帝国の強みだろう。
現代風に言えば、帝国の騎士団は行政機関に近いものがあるし。
「泊まっていくのが無難かなー。一応一般的な旅行者的な立ち位置だし、どうせ検問にも時間を少なからず取られるだろうしね」
「あのメダルを見せて、優遇してもらうとかは出来ないんですか?」
「そもそも横抜けする隙間も無いし、これだけ慌ただしい中で騎士に仕事を頼むのも流石に憚られるからね」
アオイの言う様に、メダルでどうにかなれば良いが、あまり反感を買いすぎるのも悪い。
一応ここは公爵領になるので、近い内に公爵の耳に入る事になる。
やり過ぎては俺の評価だけではなく、公爵家の品位を下げる事に繋がる。
しかし、泊まっていくにしても、この現状で泊まれる所は残っているのだろうか?
偶然目に映った宿屋は二階部分が完全に吹き飛んでいるし、他のも大通りにある関係か、営業していない様に見える。
一応営業している宿もあるが、この人混みでは既に予約済みばかりだろう。
「泊まれる当てはあるのですか?」
「一応はね。少し出掛けてくるけど、このまま進んどいて大丈夫だからね。帝国領に入っても戻らなかったら、適当に馬車を止めて待ってて」
「承知しました」
ミリーさんは馬車から飛び降り、そのまま屋根を跳んで消えていく。
当て……国境を越えれば帝国領なので、黒翼の伝手を使うのか、それとも昨日の夜話をしたと言っていた、黄翼の団長なのか……。
ミリーさんの性格からすると、多分後者だろうな~……。
そっちの方が面白そうだし。
「行っちゃいましたね」
「そうですね……」
膝の上で寛いでいるシラキリの呟きに返す。
結局予定通りに予定は進まないようだ。
「折角泊まるのならば、買い出しも済ませてしまおう。次の街までは持つ予定だが、買っておいて損はないからな」
「そうですね。食材の減りも少し早いですし、ホロウスティアまでもう少しとは言え、何が起こるか分かりませんから」
これが現代なら黒幕を倒したら終わりだろうが、異世界では何が起こるか分からない。
死んだはずのサクナシャガナが復活するとか、ルシデルシアやディアナの遺体からなんかヤバい生物兵器を作っていたとか、帰り道にダンジョンに落とされたりとか。
何が起きたとしても、おかしくないのが異世界だ。
「……体重大丈夫でしょうか」
ふとマヤが呟いた言葉に女性陣が反応を示す。
女性にとって体重とは敵の様な物と聞いているので、反応してしまう気持ちは分かる。
食材の減りが早いって事は、それだけ食べている証拠であり、食べれば太るのは自然の摂理である。
まあシラキリとライラはまだ平均以下であるので、一番太っている可能性があるのはアオイだろう。
そのアオイも、魔法の練習をしたから沢山食べていただけなので、太る事は無いだろう。
聖都ではストレスであまり食べられていなかったのか、結構痩せてしまっていたからな。
「皆さん若いのですから大丈夫ですよ。食べる量を調整するよりも、沢山食べて運動をしていれば、自ずと体重は増えませんよ」
タリアが微笑みながら言い聞かせるものの、反応はあまり宜しくない。
痩せた太ったの話はただ虚しくなるだけだし、さっさと流してしまった方が良いな。
「そう言えば、魔法の方は順調ですか? 私はあまり見ていられなかったので、少し気になるのですが?」
「どちらも並以上だな。ユウトの方は魔法よりも剣が主体となるが、それなりに戦えるようになるだろう。アオイの方は武器はからっきしだが、魔法の腕は鍛えれば上がっていくだろう」
性格的にアオイは戦いに向いていないので、武器が使えないのは仕方の無い事だろうが、魔法はな…………実質無限みたいなものなので、ライラの下位互換といったところか。
この前の夜は中々のチートだと思ったが、グランソラスを解放したライラも同じだし、使える属性はライラの方が多い。
更にライラは接近戦も出来るので、冷静になって考えるとライラが如何にチートなのか良く分かった。
異世界から来たと言っても、そう易々とチートはもらえないという事だ。
俺なんて、ルシデルシアが魔力で強化すれば手に入る程度の筋力だし。
変な動体視力はあるけれど、視力には筋力も関係あるので、その一環だろう……多分。
「ユウトさんならばアーサーみたいな感じになるという事ですか?」
「いや、アーサーもどちらかと言えば魔法に重点をおいている。どちらかと言えばシラキリ寄りだろう……あくまでも、この中でならばな」
言葉を濁したライラだが、シラキリみたいなのが他にも居たらそりゃあ困るもんな……。
今でも初めて一緒に入ったダンジョンで、ゴブリンの首を切り裂いたのを思い出す。
四苦八苦しながら戦うと思ったら、ぴょーんからのスパン! ……だもの。
「アオイは純後衛だな。本人次第だが、強くなれる素養はある」
……うちのパーティーは実質的に全員前衛だからな……回復だけ言えば俺は後衛になるけど、しいて言えば後衛というよりはポーターとかそんな感じだし。
ついでに言えばダンジョンに入れないけど。
「私はライラさんみたいには戦えないので、最低限自衛が出来ればそれで良いです」
「今はそれで構わぬが、自衛程度でどうにかなる世の中でもない。分かっているとは思うがな」
「……はい」
一般人ならばともかく、転移者はどの国も欲しい存在だ。
転移者だと知られれば、拐おうとする組織が現れる可能性は大いにある。
自衛程度の力だけでは足りないとライラが苦言を呈するのも、仕方の無い事だ。
何せ、ライラは狙われた側だからな。
まあ帝国に居る限りは騎士団が秘密裏に守ってくれるだろうし、下手な事をさせたりしないだろう。
ミリーさんが適当に話して、手に入れた情報をそのまま翼騎士団に流すだけで、帝国は発展できる可能性があるのだし。
それに、王国や教国はホロウスティアから近いものの、他の国に行くには片道一ヵ月では済まない。
もしも旅に出るのならば、数ヶ月や数年単位で帰ってこられなくなるだろう。
馬車を使わずに、ミリーさんみたいに走れば別だけど。
「強さを求める必要はありませんが、旅をするのでしたら最低限では足りませんからね。帝国はまだ大丈夫ですが、他国は物騒らしいですから」
「まあ自衛出来ればとは言ったが、熱心に訓練をしなくても、アオイならば大丈夫だろう。魔力が多いということはそれだけでアドバンテージであり、武器が苦手でも盾を持って身体強化をし、適当に魔法を撃てば大抵どうにかなる。そう悩まなくても大丈夫だろう」
「分かりました」
良い感じにライラが慰めた事で、アオイが落ち込むことは無かった。
旅をするなら強さよりも料理や調合等のスキルを磨くのも大事だろうが、現代人の知識があれば大丈夫だろう。




