第233話:帰って来た三人
森の中で飲むお茶。
まるで自然と一体になったかの様な錯覚に陥る位美味しい。
あれから平和な日中を過ごし、再び夜番の時間となった。
順番は先日と同じくライラからの俺であり、現在は午前三時位だろう。
旅に出てから少しずつ朝日がでるまでの時間が遅くなってきたので、もう直ぐ冬になるのだろうな。
気温の変わり方が結構ゆっくりな気がするが、冬は雪が降ったりするのだろうか?
雪と言えば温泉に入りながら雪景色を眺め、熱燗を飲むなんてのも良い物だ。
まあホロウスティアの感じ的に、雪が降ったとしてもそこまでは積もらないのだろう。
もしも積もる位雪が降るならば、相応の建築様式になっているだろうし。
さて、ライラももう寝ただろうし、そろそろ一杯飲むとするか。
もう買い置きしておいたものはほとんどないが、もう直ぐホロウスティアに帰れるし、全部飲んでしまってもいいだろう。
ついでだし、何か摘まめる物も作るとしよう。
なんて思い食材を漁っていると、なんとなく森から違和感を感じだ。
そう言えば今日というか昨日の夜に作戦を決行すると言っていたので、早く終わればそろそろ帰って来てもおかしくない。
…………よし、温かいスープでも作っておくとするか。
ミリーさん達が帰って来て酒を飲んでいるのを見られた場合、何を言われるか分からない。
いや、ミリーさんだけならば良いが、シラキリからライラに情報が漏れる可能性がある。
また正座をさせられるのは大人としてみっともないので、今日は止めておこう。
トマト系のスープばかり作っているので、コンソメスープモドキを作るとしよう。
野菜や肉を取り出し、鍋へと放り込んで煮込む。
鍋をかき混ぜていると、ふと背中が重くなった。
何かの魔法や呪い……なんて事は無く、直ぐに原因が分かった。
「ただいまー。あっ、サレンちゃんが見張りなんだ」
「お帰りなさいませ。今スープを作っているのですが、良かったら飲みますか?」
「貰うよ。いやー疲れた疲れた。アーサー君もお疲れ様」
「そこまで疲れていないので気にしないで下さい。あの程度は簡単なものです」
潜入からの暗殺を簡単と言ってしまえる辺り、やはりアーサーもそっち側の人間なんだな。
本人からは聞いていないが、絶対暗殺者だし、おかしくはないのだが。
「そうですか。まずは身体を洗って来てはどうですか? 運動をした後ですし、着替えもしてしまった方が良いかと」
運動……まあ自分で言っておいて違和感を覚えるが、流石に面と向かって暗殺して来たからなんて言えないのでこんな言葉しか選べないが、これはこれでダメな気がする。
「そうだね。折角シャワーまで設置してるし、浴びてくるとするよ。ほら、シラキリちゃんも行くよー」
「うー……」
俺に張り付いていた……しがみ付いていたシラキリをミリーさんは引き剥がし、そのままシャワーへと向かう。
見た限り三人共全く血に濡れていなかったが、一体どんな戦いをしてきたのか……。
きっと後ろからサックリとやったのだろうな。
さて、味に深みは無いが、なんちゃってコンソメのロールキャベツが出来上がった。
俺一人では良い感じの味を引き出す事は出来ないので、やはり調味料とは偉大だな。
そこら辺のレシピも今度マヤから教えて貰うとしよう。
「あ~さっぱりした」
「お腹が空きました……」
暇つぶし兼、味を染み込ませるために煮込んでいると、ミリーさん達が上がって来た。
しっかりと服も着替えており、いつも通りだ。
「出来上がっていますので、どうぞ食べて下さい。温まると思います」
「どうもね」
「ありがとうございます」
二人とも美味しそうに食べてくれているので、問題なさそうだな。
続いてシャワーを浴びてきたアーサーにも渡し、これにて国境の件は終わりとなる。
「国境の様子はどうでしたか?」
「帝国側の建物が結構壊されちゃってたけど、人的被害はほとんど無い感じだね。問題なく大通りを進めそうだよ。あっ、明日の昼前に出る予定だから宜しくね」
「分かりました」
急……って程ではないが、一日も経っていないのに大丈夫なのだろうか?
普通の戦争って訳じゃないから敗戦した兵士達がテロに走ったりはしないだろうが、何か事件が起きないとも限らない。
シラキリが居る以上不意打ちされる事はないとは思うけど、若干の心配がある。
ミリーさんが大丈夫だと言っているので、大丈夫なのだろうけど。
昼に向かうって事は、俺も少し寝る時間が取れそうだな。
片付けと出発の用意はライラ達に任せるとしよう。
「ふー、食べた食べた。良かったら見張り替わろうか? 結構サクッと終わって疲れてないし」
「いえ、どうか休んで下さい。少し微妙な時間ですし、朝食の用意とかもありますから。勿論、三人共ですよ」
「うーん。そこまで言うなら、少し休んでおこうかな?」
朝食用のロールキャベツスープはほぼ完成しているとはいえ、ミリーさん達にお願いするよりかは、自分でやってしまった方が良い。
何より疲れていないとは言っても、五キロを往復し、暗殺や交渉をしてきたのだし、少しは休んだ方が良いと思う。
多分三人共、本当に疲れてはいないのだろうが、それでもだ。
引っ付いてくるシラキリをミリーさんへと渡し、アーサーに空いているテントを教える。
三人が寝に行ってから空を見ると、少しだけ明るくなり始めていた。
後一時間もすれば朝日が顔を出すし、本当に微妙な時間だったな。
一人で焚き火を眺めていると、なんだかマシュマロが食べたくなってきたな。
普通に食べると直ぐに飽きてしまうのだが、直火で焼いて食べると、外はカリッっと。中はトロリとしていて、結構食べられる。
キャンプの定番品でもあるし、前に立ち寄った町でゼラチンを買っておけば、この場でマシュマロを作ることも出来ただろう。
それにしても、ゼラチンが普通に売られているのは驚いたが、おそらく誰かが広めたのだろう。
ゼラチンは匂いさえ無視すれば、様々な分野で使える物なのでかなり有用だ。
食品だけでもマシュマロやグミ。加工品ならハムやソーセージ。それ以外にも薬のカプセルや楽器なんかにも使われる。
電気程ではないが、発明品としてはかなりの物だろう。
まあゼラチンが無いので結局マシュマロは作れないわけで、やる事も無いし、ヴァイオリンの手入れでもしながら、朝まで時間を潰すか。
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「おはよう、シスターサレン。どうやら無事に帰って来ているようだな」
「おはようございます。無事に帝国とも話を終えられたらしく、お昼くらいには出発するとの事です」
ヴァイオリンの手入れも終わり、マヤ謹製のハーブティーを飲んでいると、ライラが起きてきた。
その内他の人達も起きてくるだろう。
そろそろロールキャベツのスープを温め直すとしよう。
「今日の朝食はまた変わっているようだな」
「はい。夜にミリーさん達が帰って来た時に、作ったものを流用したものになります。野菜とお肉も入っていますので、食事のバランスも良いはずです。良ければ、先に少し食べますか?」
「……頂こう」
僅かに迷いを見せたライラだが、どうやら食べるらしい。
寝起きの空腹は辛いものがあるからな。
結構な量を作ったが、一人前だけを温め直すだけならばすぐなので、ライラへと渡す。
「うむ。身体が温まるな。それに、スパイスが効いていて癖になる味だ」
「ありがとうございます」
昨日の朝はパンケーキとミネストローネを作ったが、今日はこれだけで大丈夫だろう。
肉と野菜もたくさん入って居るし、足りないならばまだシラキリの焼いたパンが残っている。
スープにパンを浸して食べるのも、また変わった味わいになるはずだ。
軽く平らげたライラは見回り兼鍛錬のために、予備で買ってある剣を持って森へと入って行った。
ライラかいなくなってから数分もすると、マヤ達も起きてきたので、ミリーさんが帰って来たことと、昼には出発することを全員に伝えてから眠りに着いた。
後は国境を駆け抜け、森を抜ければ、やっと帰れる。




