第231話:しょっぱい物を食べていると甘い物が食べたくなる
本作品も一区切りまで残り十話となりますが、最後までお付き合いして頂けると幸いです。
それは、真夜中に焼いたベーコンを食べながら、聖酒をチビチビと飲んでいる時の事だった。
ふと、甘いものが食べたくなったのだ。
酒と塩気の多いベーコンを食べたせいだろうが、一度食べたいと思ってしまえば、どうにかして食べたいと考えてしまう。
そんなわけで自分が食べる用と、朝食用にパンケーキを作る事にした。
作るのには時間も掛かるので、夜の暇潰しにも丁度良い。
飲み終わったボトルを水で洗ってから粉々に粉砕し、袋に入れてから拡張鞄にしまう。
こうしておけば、ライラに酒を飲んだことがバレる事は無い。
どこか遠くに投げるのも手だが、場所の事を考えて今回は自重しておく。
さて、パンケーキないし、ホットケーキを焼くには小麦粉以外にも色々と必要なのだが、大体はパンを焼くシラキリのおかげで揃っている。
強いて言えば生クリームがないので、ホイップクリームを作ることが出来ないが、代わりに蜂蜜や粉砂糖があるので、問題はないだろう。
おやつならばともかく、朝からホイップクリームの乗ったパンケーキは、人によっては辛いだろうし。
適当な分量で生地を作り、味見を兼ねて一度試食をしてみる。
ふわっと感が微妙だが、食えない事もない。
砂糖を足したり、それらしい粉を足しながら調整をして、それなりに食えるものに仕上がったら一旦寝かせる。
ここら辺の知識は曖昧だが、酷い物にはならないと思いたい。
ふと気付くと、辺りが明るくなり始めていた。
思いの外時間が経っていたようだな。
(後どれ位で完全に日が昇る?)
『後一時間半といった所だな。二時間もすれば森からでも日が見えるだろう』
それだけ時間があれば、アルコールも完全に抜けてくれるか。
朝食の下準備が終わったので、暇つぶしに今度はポーションでも作るか。
マヤのおかげで下級のポーションは両方作れるようになり、味の改良や上位のポーションの作り方も少しだけ教わっている。
マヤ曰く、調合とは確かに知識も重要だが、身体に覚えさせる方が重要らしい。
何でもほんの少しの材料の差や、煮込んだ時にかき回す回数や火に掛ける時間でも効果が上下するとかで、そこら辺の微妙な調整は知識だけではどうしようもないらしい。
言葉だけでは分かりにくいが、実際に普通の低級ポーションと、マヤが作った最高品質の低級ポーションではかなりの差があった。
そこらで売られている低級ポーションが缶コーヒーならば、マヤの奴はバリスタが淹れたコーヒーだ。
不味いはずの低級ポーションがすんなりと喉を通っていくと、ライラに好評だった。
そんな訳でコンロを使ってお湯を沸かし、ポーションの調合を始める。
手順はマヤが紙に物凄く細かく書いてくれているので、間違えることは早々無い
無いのだが、これがまた難易度が高い。
ただ作るだけなら薬草と数種類の薬剤を入れれば完成だが、それを許すマヤではない。
薬草は一度水で濯いでから水気を取り除き、軽く揉んでから軽くローストする。
それから葉の部分だけを……なんて手順が多い。
しかも一工程ごとに注意点が沢山あるのだが、見ながら作業なんてしている余裕はない。
しかもこのマヤの知識は、加護とは関係の無い独力によるのなので、天才と呼ぶに相応しい物である。
こんなものを軽々しく教えて良いのかと思うが、マヤもタリアも何も言わなかった。
そんなわけで練習用のポーションが出来上がったので、味見をしてみるが…………うん、不味い。
普通に売られている物よりは大分マシだが、レシピは同じなのにここまで違うとは、やはりプロとは凄いのだな。
出来上がったのを捨てるのは勿体ないので、試験管型の容器に入れて蓋をする。
マヤのレシピなだけあり、保存期間は店で売っているのよりも長かったりする。
使わないようならどこか適当な場所で売れば、小銭になるだろう。
へそくりとは地道に作ってこそだからな。
「うーん。おはようございます。夜番お疲れ様です」
「おはようございます。慣れていますので、大丈夫ですよ」
あと少しで日の光が見えようとした所で、マヤが一番最初に目を覚ました。
「……調合をしていたのですか?」
「はい。私には馬車の中での調合は無理なので、折角ならばと練習していました」
聖都を出てからマヤは普通に馬車の上で調合をしているが、言葉には出さないが頭がおかしい所業である。
玉乗りをしながらジャグリングをし、ついでにヘディングしている様なものだ。
「良ければ見せて頂いても良いですか?」
「どうぞ」
先程ポーションを入れた試験管をマヤに渡すと、マヤは軽く揺らしながら中のポーションを見詰め、それから蓋を開けて飲んだ。
「……最初の薬草を解す作業で力が入り過ぎているかもしれませんね。それと、マナ液の比率が少し多かったみたいです」
……なんでそこまで細かく分かるのか理解できないが、これも加護の力なのだろう。
「なるほど。教えて頂きありがとうございます。次の教訓とさせて頂きます」
「いえ、私にはこれ位しか取り柄がありませんので」
謙遜するのは良いが、巫女としてはこれ位当然だと言い切った方が良いだろう。
神官としては良いのだろうが、もう少し自分を誇る事をマヤも覚えるべきだろう。
これはもう取り柄とか、そういうレベルではないし。
「いえいえ。マヤさんには私を始め、アオイさん達も助けて頂いていますので、大変助かっています。いつもありがとうございます」
「い、いえ、私はその……当然の事をしているだけですから……」
おっと、ついシラキリを撫でる感じで、マヤの頭を撫でてしまった。
とりあえず、嫌がっている風ではないので良しとしよう。
「……すみません。最近はシラキリを良く撫でていたものですから」
「あっ……その、嫌な訳ではないので、たまにで良いので撫でて貰えれば……」
嫌がられないのは良かったのだが、タリアから聞いた話ではマヤは幼い頃に聖女と分かり、教会に引き取られる事になった。
そのせいか、シラキリと同じくどこか親という存在に憧れを持っているらしい。
タリアが親代わりみたいなものだったそうだが、そこにはどうしても一線が生じてしまっている。
シラキリみたいにちょっとヤバい感じではないのは救いだが、懐いてくれている分には俺としてはありがたい。
これだけ有能なマヤを逃がすという手は無いからな。
それに他の宗教の聖女ではあるが、その力は本物であり、何かあった際の留守を任せるには丁度良い。
本格的な話し合いは帰ってからだが、この様子なら俺の思惑通りに事は進みそうだ。
あれだけ大変な目に遭いながら助けたので、マヤにはこれから頑張って欲しい。
「そうですか。それではまた機会があれば」
「はい!」
その内皆が起きてくるだろうから、調合はここまでにして片付けをマヤに手伝って貰う。
ポーション作りは多少臭いが出てしまうので、朝食の前には綺麗にしておかないといけない。
片付けをしている内にライラが起きて来て、それからタリアやアオイ達も目を覚ます。
今日も晴れて良い天気なのだが、薄っすらと国境の方から煙が上がっているのが見える。
今も何かしらの戦闘が起きているのだろう。
「おはようございます。直ぐに朝食の準備をするので、お待ちして下さい」
「そうか……ユウト。枯れ枝を拾いに行くから手伝え」
「分かりました!」
ミリーとライラから訓練を受けるようになってから、本当にユウトは尻に敷かれているな。
まあ師匠と弟子の関係なのだし、年齢とか関係ないのだろう。
二人が森へと入って行く中、軽く寝かせていた生地を空気抜きしてから鉄板で焼いて行く。
パンケーキはじっくりと焼いた方が良いので、焼き終わる頃にはライラ達も戻ってくるだろう。
「戻ったぞ。それと、野ウサギを数匹捕まえておい
た」
「ありがとうございます。もう出来ますので座っていて下さい」
盛り付けをしていると、枯れ枝とウサギを抱えて帰ってきた。
ふむ。夕飯はウサギのシチューかカレーでも作るのもありか?
ステーキも捨てがたいが、昨日の夜は唐揚げと肉じゃがで肉々しかったので、肉そのままというのは憚られる。
朝食は予定通りパンケーキに蜂蜜と粉砂糖を掛けた物。それからミネストローネとなる。
世が世なら中々お洒落な朝食だろう。
「ほう、パンではなくケーキか……時間が掛かったのではないか?」
「夜番のついでに作っていたので、そこまでではありません。それでは頂きましょう」
生地を作る際に何度か試食をしたものの、寝かせた後は一度も食べていない。
さて、味は……悪くはない。しっかりと生地を攪拌したので玉のようなものは無く、焼き加減も弱火でじっくりなのでしっかりと火が通っている。
蜂蜜と砂糖を考慮しての甘さにしているので、甘ったるいなんて事も無い。
強いて問題があるとすれば、やはりホイップクリームが欲しかったな……。
「美味しい……異世界でこれだけの物が食べられるなんて思わなかった……」
「ありがとうございます。過去に転移者や転生者がいたおかげで、この様なレシピも出回っています」
「昔喫茶店で食べたのを思い出すな……」
アオイ達が少ししんみりとするが、そんなに大した料理では無いと思うのだが……まあ、学生にとってパンケーキは思い出の一品になる様なものなのかもしれない。
知らんけど。




