第229話:森の中へと消えていく
拡張鞄から肉を取り出し、切り分けている間にライラによる講習が進む。
俺はマチルダさんから説明を受け、魔法の発動すら出来なかったので水晶で確認をしたが、あれは本当に悪い事をした。
あまり使われていないとは言え、ルシデルシアが水晶をこわすとは思わなかった。
いや、壊したのは俺だが、俺の魔力とはルシデルシアの物でもあるので、ルシデルシアが壊したとも言える。
「魔法とは基本属性となる物があり、使える属性は先天的に決まっている。転移者がどうなのかは我には分からぬが、使える属性が増えるなんて事は無いだろ。また、使える属性が無い事もあるが、その場合は身体強化をして戦う事も出来る。悲観的にならぬようにな」
一口大にした肉をボールに入れて、まずは聖酒という名の日本酒で揉んでいく。
臭みを消すのと肉を柔らかくする意味合いもあるらしいが、よく知らない。
続いて調味料の類を全部入れて、よく揉んで染みこませる。
ライラの説明は俺が聞いたのとほとんど同じだが、本に書いてあったものとかなのだろう。
基礎というのは体系化されていてこそだろうし、下手にアレンジを入れる必要もない。
説明を終えたライラは二人の背中に手を当てて、魔力を流し始めている。
俺とは違い、しっかりと神力を認識していたおかげか、二人共良い感じの反応をしているように見える。
二つの属性以外を使えるライラは、教える人選としてはかなり良いだろう。
光はともかく水はシラキリが居るので、帰った後ならば教える事も出来る。
「魔力の流れは感じられるか?」
「はい」
「分かります」
「ならば、火から順番に魔法を唱えて見よ。発動したからと、急に動かないようにな」
二人が魔法の練習を始めた頃、俺は肉じゃがの準備を始めた。
しらたきだけはないが、それ以外は全部あるので、サクッと用意してしまう。
肉じゃがは普通に作る分にはかなり簡単であり、焼き加減さえ間違わなければ、そう変な物は出来ない。
肉じゃがと唐揚げだけというのは少し肉が多い気がするが、肉じゃがは結構野菜が入っているし、バランスは悪くない。
もう一品欲しい感じもするが…………そうだな。折角ジャガイモを出しているし、フライドポテトも一緒に作るとしよう。
唐揚げの付け合わせとしては悪くないだろう。丁度油も使う訳だし。
フライドポテトはジャガイモをそのまま切ってから揚げるパターンと、一度潰して成形したのを揚げるパターンがある。
どちらも美味しいが、付け合わせとして作るならば、そのまま揚げた奴の方が良いだろう。
食感も良いし、崩れにくいからな。
水にさらす時間が必要なので、肉じゃがの準備が終わり次第、ジャガイモをそこそこの数切っていく。
「やった! 魔法が使えた!」
「私は風と火ですか……」
「なんで少し落ち込んでいるんだ? 二つも属性が使えるんだぞ?」
「だってどっちも生活にはあまり使えないじゃない。ユウトと逆なら良かったのに」
「魔法なんて使いようだろ? まあ俺も水と土じゃなくて、風と火が良かったけどな」
どうやら無事に二人共使える属性が分かったようだな。
普通の魔法が使える時点で羨ましい限りだが、確かにどちらかと言えば逆な感じがするな。
勇者……ではもうないが、勇者と言えば攻撃系であり、水と土とは中々珍しい。
これでユウトに闇。アオイに光属性があれば、中々面白い感じだったな。
問題は転移特典だが、見ている限りでは魔法は関係ないのだろうか?
かと言ってこれまでの感じでは、俺みたいに力が異常になっている訳でもない。
あまりこの世界にとって異物の様な能力でなければ良いが、こればかりは誰もどうしようもない問題である。
「ふわ~。結構様変わりしてるねー」
「……ぷすぅ……」
二人がライラの指導の下、軽く魔法の練習を始めた頃に、ミリーさんとシラキリが起きて来た。
……シラキリはまだ少し夢の中っぽいが、直ぐにシャキッとするだろう。
夕飯の下拵えは完全に終わり、少し早いがミリーさん達の事を考えると、もう作り始めても良さそうだ。
「おはようございます。夕飯を作りますが、食べていかれますか?」
「食べる食べる。向こうじゃ碌なものが食べられないだろうし、空腹で行くにはキツイからね」
「分かりました。シラキリも食べますか?」
「はい」
アーサーはまだ寝ているみたいだが、これならばアーサーの分も作って良さそうだ。
俺も火の魔法が使えれば、油の温度を上げたりするのが楽になるのだが、魔導具という名のコンロで準備をする。
肉じゃがの方は焚き火でも良いが、油の方は注意が必要なので、コンロを使った方が、揚げ加減が安定する。
見ただけで油の温度なんて分からないし、といた衣を垂らしてどうのこうのとかあるが、楽できる所は楽をする。
それが料理のコツだと思う。
そんな訳で油の温度が上がるまでの間に肉じゃがの調理を始め、煮汁は少し多めにしておく。
圧力鍋があれば煮崩れをほとんど気にしなくて済むが、流石に売ってすらいない。
作り方も分からないし、無くてもそこまで困るものではないが、少しだけ注意が必要となる。
出来上がったら火から遠ざけて、唐揚げとポテトを揚げて、一応ケチャップモドキを作っておく。
トマトはスープを作る用に煮詰めたのを保存してあるので、それを流用した形である。
「おっ、流石転移者だけあって、魔法が上手いね。最初は数をこなすよりも、一回ごとの質を上げる様にして行った方が良いよ」
「ありがとうございます」
ミリーさんもライラと一緒にアオイ達へ教え始めるが、ユウトは少し疲れの色を見せている中、アオイの方はケロリとしている。
魔力量が多い……と見る事も出来るが、もしかするとそう言う事か?
(なあ、アオイの能力ってもしかするのか?)
『サレンが思っているのとは少々違うが、間違いと言う程ではないな。見た限りだが、アオイの加護は神力を魔力へと変換する事だろう。その逆も出来るだろうが、神力は加護を貰っていなければ意味がなく、現状では魔力が通常の二倍程度ある……と言いたいところだが……』
何やら微妙にルシデルシアが言葉を濁したが、また何かやらかしたのだろうか?
(また何かやらかしたのか? それとも、過去に何かやらかしたのか?)
『そう疑うでない。神喰でサクナシャガナとの繋がりを無理矢理切り離し、一時的に繋がりを持った結果、細いながらアオイと繋がっている状況なのだ。そこのミリーとの繋がりへ紛れる形になっており、少々ややこしくなっていてな』
(つまり?)
『実質的に魔法が使いたい放題だ。余やディアナの神力の一割を使う前に、アオイの方が限界を迎えるため、影響自体は無いのが救いだな。下手に切断しようものならミリーにも影響が出るため、しばらくはこのままだろう』
影響が出ないのは良いが、また微妙なやらかしだな……まあこればかりは予期できなかった事態だし、仕方の無い事だろう。
さて、いつの間にかアーサーも起きて来たようだし、唐揚げとポテトもほとんど揚げ終わったし、夕飯の時間にしよう。
配膳の手伝いをタリアに頼み、テーブルの上に唐揚げとポテトを盛った皿をドーンと置き、肉じゃがは小分けして人数分置く。
「皆さん。夕飯の準備が出来ましたのでどうぞ」
「うわー。凄いですね。とても良い匂いがします」
いの一番にマヤが駆け付け、ニコニコ顔で料理を眺める。
今回の唐揚げと肉じゃがは旅では初めて作るものであり、結構凝った料理となる。
唐揚げは簡単なんて言われるかもしれないが、肉の塊を一口サイズに切り分け、臭みを抜いて味付けしてから揚げるので、中々大変な部類だ。
これならば釣った魚を三枚に卸して焼いた方が楽だろう。
魚の捌き方はしっかりと習ったので、今ならば問題ない。
「いやー、結構豪勢だね。シラキリちゃん。パンを貰える?」
「……はい」
パンやご飯が無くてもお腹いっぱいになるだろうが、ミリーさんとしてはシラキリが焼いたパンも食べたいらしい。
基本的にミリーさんに塩対応のシラキリも、これには少し嬉しそうにしている。
「これが肉じゃがか。中々美味しそうな見た目だな」
「ありがとうございます。冷めない内に食べるとしましょう」
悠長に感想を述べているライラとは違い、アオイとユウトは早く食べたいと目で語っている。
聖都にはラーメンとかうどんとかの、日本らしいものもあったのだが、食べられなかったのだろうか?
サクッと祈りを捧げてから、まずは肉じゃがを食べる。
一応味見をしていたが、微妙にこれじゃない感があるな。
美味いには美味いが、一味足りない感じがする。
日本の味を知っているであろうアオイ達を見ると、とても美味しそうに食べているので、俺の味覚が変なのか、肥えてしまっているだけだろう。
唐揚げの方はニンニクを抜いた代わりに、少しだけ唐辛子を入れたので、これはこれで悪くない。
普通に美味しい。
ポテトは素材そのままのため、無難な感じだ。
結構な量を作ったはずだが、この人数ではあっという間に無くなってしまった。
特にアオイとユウトが少々苦しそうにしているが、今日はもう動かないし、放置しておいて大丈夫だろう。
「いやー食べた食べた。さてと、私達はそろそろ行ってくるとするよ。何も無いとは思うけど、あまりどこかに行かないようにね」
「はい。それではお気を付けて」
ミリーさん達三人は少し休憩をした後に、しっかりと準備をしてから森の中へと消えていった。
俺も片付けが終わったら、シャワーを浴びて寝るとしよう。
今日はシラキリもいないので、鼻をくすぐられて起きるなんて事は無いだろう。




