第227話:教国脱出会議
シラキリのご機嫌取りを頑張った次の日。
手分けして買えるだけの物資を買い漁り、ついでにユウト用の防具と武器を買い、おまけにマヤが教国では一般的に出回っている調合の素材を、結構な量買って来た。
確かに拡張鞄は優れモノなのだが、限度はしっかりと存在している。
俺達五人分ならばまだ余裕があったが、そこに更に四人追加で、詰め込めるだけ詰め込もうとすれば限界が来る。
まあ食材や素材系だけならばまだしも、食器やちょっとした魔導具。服や替えの武器等々、邪魔になりそうなものは全部拡張鞄へと入れていた。
どの様な技術なのかは分からないが、新しく物を入れようとしたら、そのまま弾かれたため、一度拡張鞄の中身を整理することとなった。
その結果、丸一日潰れる事になった。
幸いゴミ箱としては一度も使っていなかったため、変な物は入っていなかったが、ミリーさんがこっそりと隠していた酒が大量に見つかる事になった。
拡張鞄は、中に物を入れた人は直ぐに取り出すことが出来るが、それ以外の人は順番にしか取り出せない仕様になっている。
一度全部出してから整理しようとなったのも理由だが、誰がいれたのかは簡単に判明し、ミリーさんは正座の刑に処された。
いざ全部取り出してみたら、本当に色々と入っていたため、整理には本当に苦労した……。
当初の予定通りもう一個馬車があれば、荷物の一部を移してなんて事も出来たが、もう今更である。
国境までが馬車で二日で、そこから戦争の介入から終結までに三日。予備日で一日見て、帝国側の国境で一泊。
大体一週間ほどの物資を先に分けて、要らない物は街にて処分した。
そんな訳で、一日挟んでからの出発となる。
「それじゃあ行こうか。忘れ物があっても、もう戻って来られないからなー」
ミリーさんが御者席に座りながら声をかける。
この街を出れば、もう教国の街に寄る事はなく、本当の意味でさよならとなる。
次に来ることがあるとすれば、最低でも数年後だろう。
行って帰ってくるだけでかなりの日数が必要になるからな。
荷物の整理をしたが、マヤの調合設備だけはどうしようもなく、荷台の一部を占拠している。
まあその位ならば全く問題ないのだが、よく馬車の中で調合できるものだ。
「大丈夫です。運転宜しくお願いしますね」
「うんうん。それじゃあ行くよー」
ゆっくりと馬車が動き出し、街を出て道を駆ける。
近い内に、教国内はかなりの大荒れになるだろうが、どうか頑張って欲しい。
直ぐに聖都の神殿が無くなり、奇跡が使えなくなった事も広まるだろうからな。
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「よし、それじゃあ今日も張り切って行こー」
街を出てから二日経ち、朝食も終えた所でミリーさんが気合を入れる。
今からお茶の時間なので、気合いをいれたところでまだ出発はしないんだけどな……。
今日中には国境の所まで行ける予定だが、進行方向の方には薄っすらと煙が上がっており、少しだけピリっとした空気を感じる。
「気合いを入れるのは構わぬが、作戦はどうするつもりだ?」
「ちゃんと考えてあるよ……アーサー君が」
ミリーさんがボケを入れたところで周りが笑い、アーサーが手を上げる。
「それでは私から説明させていただきます。今回の作戦は待機組と潜入組の二チームに分かれての分かれての作戦となります」
お茶のコップを片手に真面目な話が急遽始まる。
なんとなくそれっぽい雰囲気だが、昨日の夜にアーサーとミリーさんが密談していたのはこのためか。
悪ふざけもあるのかもしれないが、アオイ達の緊張を解すには良いのかもしれないな。
「潜入は私とシラキリ。それとミリーにて行います。優先排除目標は神聖騎士団第二隊長。続いてその他隊長と副隊長になります。排除後は帝国へ潜入し、指揮官クラスと対話、そして早期の戦争終結を図ります」
「因みにだが、教国と帝国の戦力はどうなっているのだ?」
そう言えば、国境を抜けるための話はしていても、その国境がどんな所かは一度も話をしていなかったな。
立ち寄る余裕は最初からないって話だったので、気にしてもいなかった。
「帝国側は最低でも常備兵が五百。ギルドへの依頼をした場合は更にもう五百人は居ると思われますが、詳細は不明です。教国側は総数こそ四千人程居ますが、奇跡が使えなくなった現状では、実際に戦えるのは五百人程度と予想されています」
……その状態でもなお戦争を吹っ掛けたのか。
ライラの時に比べれば人数が少ない様に思えるが、ライラの時は野戦で、今回は市街地戦なのでそんなに大人数が居ても意味がないのだろう。
「……あの、普通の人達って大丈夫なんですか?」
「そればかりは何とも。ここまですれ違っていないのを見るに、教国は門を閉じているのでしょう。市街地戦である以上、市民の被害は相応の物になるでしょう」
ユウトの質問に対して、アーサーは冷静に返す。
一応倫理観はそれなりにあるだろうが、戦争となれば兵士以外にも死者が出るのは仕方の無い事だ。
帝国側はともかく、教国側は相手が誰だろうと神の名の下に殺しそうだし。
戦争なんてのは今の日本人からしたら遠い存在であり、生の情報を味わうことは出来ない。
相手が降参したならば、捕虜にして終わり……なんて、呑気に書かれている事は基本的に無いだろう。
尋問拷問は当たり前だろうし、認めないで殺すなんて事もあり得そうだ。
ユウトは少しだけ顔を青くするが、異世界に生きている以上、殺す事についての認識は変えていかなければならないだろう。
「教国側は非戦闘要員が多く居ると考えられ、潜入自体は問題ないでしょう。ですが、どこに誰が居るかについては、潜入してみなければ分かりません。メインは私が動き、シラキリとミリーは陽動をしてもらうのが基本的な作戦となっています」
「因みにシラキリちゃんには例の服に着替えて貰って、私は民間人として紛れる予定だよ」
ああ、またシラキリはあれに着替えるのか……まあシラキリなら間違いなく問題無いだろうが、シラキリの強さを見ていないアオイとユウトには少々刺激が強いだろう。
「教国での作業が終わり次第、シラキリは待機組へ戻って貰い、私とミリーにて帝国側に潜入。交渉を行います。上手くいけば三日以内には教国を抜けられると思われます。作戦概要は以上です。何か質問はありますか?」
「では私が」
スッとタリアが手を挙げる。
「待機組が想定以上の敵から襲われた場合は、どうする予定なのでしょうか?」
これは中々難しい質問だ。
待機組には戦力としてライラが居るが、居るのはライラだけなのだ。
一騎当千とは言え、五人とか六人ならばともかく、数十人ともなれば、守るのは難しいだろう。
無論教国にそれだけの兵力が無いのは、今のアーサーの説明で分かっているが、襲われない可能性はゼロではない。
「その時のために、今回はライラにこの剣を貸しておく予定です」
アーサーはガイアセイバーを取り出し、全員から見える様にする。
「……その剣は?」
「この剣はガイアセイバーと呼ばれる魔剣になります。土属性の魔法に対して大幅な強化をしてくれますので、このガイアセイバーで壁を作れば、教国の兵士では壊すのは無理でしょう。聖都で神殿を囲っていた壁も、このガイアセイバーで作ったものになります」
「そうだったのですね。確かにあれ程の魔法が使えるのでしたら安心できます」
まあライラなら土の壁ではなく、炎の壁で焼き殺すなんてことも普通に出来そうだが、ガイアセイバーがあるのは心強い。
「それじゃあ説明も終わったことだし、移動しよっか。待っている場所はちゃんと決めてあるから、後は見回りに会わないように気を付けよう」
気を付けるもなにも、国内側に見回りをさせられるだけの余裕はないとは思うのだが、気を引き締めておこうって事だろう。
しかし、朝に飲むお茶はとても良いものだな。
今回については俺に出来ることは何もないが、最後まで気を抜かないように気を付けよう。
人生は何が起こるか、本当に分からないからな。




