第226話:ミリーさんからのネタ晴らし
戦争に参戦……というよりは介入することが決まったが、動くのはシラキリとアーサー。それからミリーさんだけとなる。
やる事はどこぞのステルスゲーム見たく、潜入しての要人暗殺なので、目立つメンバーは全員待機である。
待機と言っても、この街ではなくて国境付近の森の中での待機だが、ライラが居る以上戦力的には全く問題ない。
因みに戦争は数日以内に起こりそうだという事で、少し多めに買い足してから、明日か明後日くらいに出発となる。
そんなわけで、話し合いも終わり解散となった。
そこまで長い話し合いではなかった様な気がしていたが、二時間も経っていた。
今日は朝から歩いていたので、良い感じの疲労が溜まっている。
今日は良く寝られそうだ。
「いやー疲れた疲れた」
「本当にお疲れ様でした」
汗を流したミリーさんが部屋へと戻って来て、椅子に座る。
その手にはワインとグラスが二個握られており、一杯やる気満々である。
流石に一仕事の後だし、これくらいは許されるだろう。
「いやいや、この位は楽な方だよ。基本的に行って帰って来ただけだしね。そう言えば、アルテちゃんにあったんだって?」
「はい。やはりミリーさんのお知り合いでしたか?」
「うん。黒翼騎士団のメンバーだよ。何か言っていた?」
予想していた通り、アルテは黒翼騎士団だったか。
これで違うと言われれば、正直恐怖しかないのだが、当たっていてよかった。
「特には何も。本人も冒険者に扮していただけなので、一緒に依頼を受けただけですね」
「なるほどね。やはりって事は、何かあったの?」
ミリーさんからグラスを受け取りワインを注いでもらう。
今回は珍しく白ワインか。
最近はライラの影響もあり赤ワインばかりだったので、とても新鮮である。
「おかしな点はほとんどありませんでしたが、私に話し掛けてきたのと、持っていた武器がギルドのランクにしては上物に見えたので、もしかしたらと」
「案外詰めが甘かったみたいだね。武器なんかは気を付けなーって教えたんだけど、やれやれ……」
「聞いた話では、黒翼騎士団は国外に出ないという話でしたが、彼女は?」
黒翼騎士団という事が分かって、一番最初に疑問に思うのはやはりこの点だ。
かなりのリスクを伴う行為のはずなのだが、何故アルテは居たのかが分からない。
ふむ……白も良いな。刺身が食べたくなる。
「黒翼騎士団副総団長だよ。肩書の通り、黒翼騎士団二番目に偉い子だね。こんな所に居た理由だけど、まあ私絡みだよ。神への復讐なんて、正気の沙汰ではないし、普通ならば不可能な事だからね」
「それは……そうですね」
裏の背景が完全には分からないが、ミリーさんのやられた事、そして今回やった事のスケールは人の枠には収まりきらない。
見方によっては、ミリーさんは神を越えた存在と見られてもおかしくない結果だ。
実際に殺したのは俺だが、流れ的にはミリーさんが殺したと思われても不思議ではない。
ミリーさんのため……というよりは帝国のために道理を曲げて、アルテを寄越したのだろう。
帝国側が何を考えているか分からないが、俺の事を除いた場合、一番危険なのはミリーとなる。
今の時代に神殺しを目論み、実際にやってのけたのだ。
サクナシャガナが過去の文献を軒並み排除したおかげで、神の不条理さについて書かれた本はほとんど見ていない。
まあ聖都の神殿跡地を見れば、どれだけヤバい存在だったのかは分かるだろうが、とにかく元々ヤバい存在とされていたミリーさんは、本当にヤバい存在になったと言える。
帝都の大きさがどれだけか知らないが、聖都の様になるかもと考えれば、ミリーさんの処遇は悩ましいだろう。
まあミリーさんの事だし、色々と手は打っているだろうからあまり心配はないが、俺の方に飛び火してくる可能性がゼロではないので、その点は心配な所である。
「終わってしまえば呆気ない感じではあったけど、私一人じゃ間違いなく負けていたよ。舐めていた訳じゃないけど、神ってのは本当に残酷だね」
「私達の上位たる存在ですからね。赤子が大人に勝てないのと同じく、人が神に挑むのは間違った行いです」
「それをサレンちゃんが言うの?」
「はい」
ジト目で返されたので、しっかりと返事をして返す。
様々な本やゲームでも、純粋な人が神に勝ったなんて話はほとんど無い。
他の神に助けられたり、神の武器や神子から力を託されたりと、何かしら神に纏わる力を使って倒している。
今回のミリーさんの件も同じだ。
ミリーさんの力は神由来のものであり、それがなければ戦いの土俵にすら立てていない。
ミリーさんの言う通り、とても残酷なのだ。
「しかし、親が赤子を見守るように、神も見守るべき存在です。無闇に力を振るえば、対する神が現れるのも道理です」
「それらがサレンちゃんだと?」
「それは私にも分かりません。気付けばホロウスティアに居た身ですから。ですが、これも運命……神の
お導きと言うものなのかもしれませんね」
本を読んでいたシラキリは、読み終えたのか俺の膝の上に座り、自分で用意していたジュースを飲む。
その頭を軽く撫でてから、白ワインを飲む。
「運命……か。ロマンチストだねー」
「後数分遅ければ、シラキリは命が尽きていました。そしてシラキリと出会わなければライラの救出は間に合わず、ギルドにもおそらく行かなかったかもしれません。そうなれば、ミリーさんとの出会いも変わっていたでしょう」
俺にとっては数奇な出来事ではあったが、人とは順応するものだ。
風呂については今もなお思う所はあるが、それ以外については不満はほぼない。
少し血生臭いが、酒は飲み放題だし、お金に困る事も無いからな。
今回の出来事を小説にとかにでも纏めれば、けっこうなボリュームになりそうだな。
「ふーん。シラキリちゃんはサレンちゃんとの出会いは運命だと思う?」
「はい。私はあの時サレンさんと出会わなかったら、間違いなく死んでました。スラムで助かる可能性は無かったですし、場所が場所でしたから」
「あの時は死するシラキリを見送るつもりだったのですが、本当に驚きましたね」
あの頃というか、この世界に来た時は右も左も分からず、何ならルシデルシアも寝ていたせいで、自分が何者なのかさえ分かっていなかった。
ゲーム風で言えば、あの時シラキリと出会った俺には二つの選択肢があった。
祈るか、見送るか。似たようなものだが、見送るを選んだ場合その場でバッドエンドとなっていただろう。
現実は糞ゲーと言われているが、正にその通りだったと言える。
「個人的には運命って言葉は嫌いだけど、ま分からなくもないよ。サレンちゃんと出会ったから、今も私は此処に居るわけだしね」
おっと、ミリーさんの雰囲気が妙に艶めかしいものに変わり始めたぞ。
シラキリがいないならば無視しても良いが、シラキリという爆弾がある以上、ミリーさんには大人しくしていてもらいたい。
それと発言にも気を付けて貰いたい。
運が良い事にキスの件は誰にもバレていないが、ミリーさんがもしも漏らせば、どうなるか分からない。
どうにかなるのはミリーさんの身体なのだが、せめてホロウスティアに帰るまでは変な気を起こさないで欲しい。
「神官として、命を無下にすることは出来ませんから。ミリーさんも、今もこうしてお酒を飲めている事に対して、悲しんだりしていないでしょう?」
「それはまあね。あれだけ熱い想いをぶつけられちゃったら、死のうなんて思えないよ」
ミリーさんの発言を聞いたシラキリの耳がピンと立ったので、頭を撫でて落ち着かせる。
視線も合わせてシラキリに当てつけているのが分かるが、止めてほしい。
「生きていれば、楽しい事はいくらでもあります。ね、シラキリ?」
「……何を話したんですか?」
「ミリーさんはあの戦いで死ぬ事を考えていましたので、生きる事の大切さを説いたのです」
「うんうん。その通りだよ。サレンちゃんと生きる事の楽しさを教えてもらっただけさ」
再びシラキリの耳が定規の様に真っすぐと立ったので、頑張って宥める。
これ以上は危険だし、ワインを一本空けたので寝るには丁度良いだろう。
ミリーさんは本人が望まない限り、首を斬られたくらいでは多分死なないが、流血沙汰は勘弁だ。
「丁度一本終わりましたので、今日は早めに寝かせて頂きます」
「りょうかい。おやすみ~」
歯を磨き直してから布団へと入り、シラキリと一緒に眠る。
早く争いの無い日常に帰りたいものだ。




