第225話:公爵家の後ろ盾
「さて、シスターサレンよ。何か話すことはあるか?」
アルテと別れ、途中で焼き串を数本買い食いして宿に帰ると、ロビーにライラとシラキリが待機していた。
それもかなり怒った状態で。
まあこうなるとは思っていたので、あまり驚きはないが、どう言い訳したものか……。
「最初は少し散歩して、朝食を食べて帰るつもりだったのですが……」
「それが何故、日が傾き始める時間となったのだ?」
「サレンさんが嘘をついた……」
俺だって帰るつもりではあったんだ。
結果的にこんな時間になってしまったけど。
「実は散歩に出掛けた際に、困っている人を見掛けまして、それからあれよあれよと…………気付いたらこんな時間になってしまいまして。心配をかけてすみません」
謝るついでに、二人の頭を撫でてご機嫌を取る……が、これだけでは無理みたいだな。
「これから外に出る時は、誰かを呼んでからにするので、許して貰えませんか?」
「だそうだが、どうする、シラキリ?」
「……」
ライラはシラキリへと判断を委ねるが、当のシラキリは今にも頬を膨らませそうな位怒ったままである。
まあシラキリからすれば、折角一日一緒に居られると思ったのに、結局一緒に居られなかったのだ。
おそらく今夜か明日の朝くらいにはミリーさんも帰ってくるだろうから、またしばらくシラキリと二人きりの時間は取れないだろう。
「ホロウスティアに帰った後に、シラキリと一緒にお出掛けする時間を作りますから。ね?」
「……分かりました。絶対ですからね?」
「はい。約束は守ります」
「ほぉ、それは我もだろうな?」
何とかシラキリの機嫌が直ったところで、ライラが意地悪な笑みを浮かべながら横槍を入れてくる。
まあライラにも心配を掛けたので、一緒に出掛けるのは構わないが、あのライラが自分からか…………成長したものだなー。
初めて会った頃は、あれだけ他者を寄せ付けなかっというのに、自分から誘ってくるとは、少し嬉しく感じる。
「はい。シラキリが先にはなりますが、ライラも一緒にお出掛けしましょう」
「ならば、我からはこれ以上話すことはない。幸い、無事に帰ってきたわけだしな。シラキリも良いな?」
「はい」
「それでは少し早いですが、夕食を食べに行きませんか?」
帰ってくる前に少し食べたが、ここで部屋に帰る選択肢を取れば、ジト目が飛んでくるのは目に見えている。
それに、機嫌が直ったからとそこで終わりにする程愚かではない。
「そうだな。宿の食堂でも構わないが、それも良いだろう」
「お肉が食べたいです!」
「分かりました。それではお肉を食べに行きましょう」
二人と手を繋ぎ、赤く染まり始めた街を歩く。
肉を食べるならば少しお酒も飲みたいが…………ライラは許してくれるだろうか?
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「ただいまー。元気にしてたみたいだねー」
「お帰りなさい。はい、見ての通りです」
シラキリの希望通りに焼き肉を食べ、帰って来てから身体を綺麗にし、今はベッドに座りシラキリの髪と耳を梳かしている。
転移者のせいかもしれないが、焼き肉という食文化がある。
流石に食べ放題なんてお店は無かったが、お腹いっぱいステーキを食べた。
昔だったら胃もたれの心配をしたが、気にせず脂身の多い肉を食べた。
ついでに支払いは俺のへそくりではなく、寄付のお金から出している。
寄付とは名ばかりのシラキリとライラのお金だが、これもヒモ生活というものだろう。
「むー」
「そう唸らないでよ。他のみんなは何してるか知ってる?」
折角の二人きりの時間を邪魔された事で、シラキリが呻き声を上げるが、ミリーさんの情報は聞かなければならない物なので、シラキリを膝の上から降ろす。
「ライラは宿に居ますが、それ以外の人達は分かりません。直ぐに話し合いをするのですか?」
「そうだね。結構緊急事態だから、早めの方が良いかな。私はマヤちゃん達を探してくるから、シラキリちゃんはアオイちゃん達をお願いね。サレンちゃんはライラちゃんを呼んどいて」
「分かりました」
「……はい」
ミリーさんはそのまま窓から飛び降りて行ったので、俺とシラキリは扉から出て各自の部屋に向かう。
ライラは先程別れたばかりなので、部屋で瞑想をしていたので、声を掛けておいた。
三人部屋とはいえ、全員集まれば多少手狭になってしまう。
ベッドに座れば全員座れるだろうが、早めに話し合いが終わるのを祈ろう。
「来たぞ」
「どうぞお座りください」
しばらくするとライラが入って来て、それからシラキリが帰って来て、少しずつ集まっていく。
最後にアーサーとミリーさんが戻って来て、ドアを閉める。
「全員集まったね。まず現在の国境の状態だけど、教国側は混乱しながらも、帝国に攻める事を決めたみたいだね。近い内に衝突する事になるだろうから、そうなれば国境を通るなんて事は当分無理かな」
「今の教国に勝ち目はないと思うのだが、教国側の指令は誰だ?」
「神聖騎士団の第二隊長だね。第一隊長は聖都のゴタゴタで多分死んだっぽい」
「話していた通り、現場指揮官以上はいないわけだ」
「あの、どうするんですか?」
ミリーの報告に対し、マヤが心配そうな声を上げる。
指示を仰ぎたいが、その指示を出す場所は既になく、かと言って前に出されている命令を無視するわけにもいかない。
まだ戦争まで発展していなかったことについては運が良かったが、ミリーさんの話し方的に、時間的な猶予はないのだろう。
戦争が起きてしまえば、隠れて国境を越えるなんて方法は完全に取れなくなりそうだ。
「待っていれば戦争自体は帝国の勝利で終わるだろうけど、最低でも国境が正常に機能するまでは一ヵ月以上は掛かるから、強行突破するのはほぼ決まりだね」
「問題はなんだ?」
「無視して突破するか、帝国に手を貸すかって所かな。手を貸して早期に戦争を終息させれば、それだけ早く国境を越えられるようになるね。逆に無視して国境の壁を壊して駆け抜ければ、ホロウスティアに着くまでは少し大変になるだろうね。教国側の兵士と思われる事になるだろうし」
強行したとしても、戦力的には問題ないが、やはりそうなるわけだよな……。
戦争が始まる前ならばまだマシだろうが、戦争中にそんな事をする奴がいれば、帝国も無視できないだろうし。
まあ、だからと味方面してどうにかなるのか不安なところだが、そこら辺はミリーさんが裏でどうにかしてくれるのだろう。
「穏便には無理なんですか?」
「アオイちゃん達の世界と違って、話し合いでの解決は無理だね。状況が状況だしね。教国には止められる人もいないわけだし」
国境には既に人が集められていたので、二日三日早く俺達がサクナシャガナを倒したところで、なにも変わらなかっただろう。
可能性を話しておいてなんだが、アオイやユウトがいる以上は、なるべく穏便。平和的な方が良いのは確かだ。
放置は時間が掛かりすぎるので、介入してさっさと終わらせる。
これ以外の手はない。
「それで実質一択なわけだが、どうするつもりだ?」
「戦争のどさくさに指揮官を数名殺して、帝国側に売るって感じかな。思い出したけど、丁度良い身分証明書もあるからね」
「身分証明書ですか?」
言い方からして、黒翼騎士団の物ではないだろうが、そんな物があっただろうか?
「もう、サレンちゃんったら。あれだよあれ、例のお屋敷で貰ったさ」
「……屋敷ですか?」
屋敷……屋敷……あっ、そう言えば帝国でならば使える物を貰っていたな。
貰ったは良いものの、使う機会が全く無いので忘れてしまっていた。
あれがあれば、敵国側から来たとしても、無下に扱われる事は無いだろう。
手の平をポンと叩き、頷いて見せる。
「思い出しました。確かにあれならば無下にされる事は無さそうですね」
「その証明書とは一体何なのでしょうか?」
何も知らないマヤは勿論、アオイ達も会話について来られないので、鞄の中から、公爵から貰ったメダルと証明書を取り出す。
「此方になります。ホロウスティアを治めています、プライド公爵家からいただいたものになります」
「――公爵家の後ろ盾があるとは……流石と言いますか、驚きですね」
このメダルがどれだけ凄いのか、タリアが一番分かっているようだな。
アオイ達は分かってはいないみたいだが、これがあれば家のローンだろうが、クレジットカードの審査だろうが一瞬で通る事が出来る位凄いものである。
更に借金をする際も最も金利が低い状態になるだろうし、就職の際も名門大位の信用度があるみたいなものだ。
とは言っても、日常生活では早々使う事は無く、使えば使うだけ自分の身を危うくする諸刃の剣ではあるのだが……。
まあ今が使い時って奴だろう。
「縁に恵まれまして。神官としてはあまり身分や権力を振るいたくはないのですが、私自身も少々訳ありでして、無いよりはあった方が良いと思い、持ち歩いています」
「あの国境はプライド公爵の兵士も居るはずだから、これがあればスムーズに話は進むはずだよ。勿論強行突破したいって人が居るなら、そっちでも構わないけど、どうする?」
どうするも何も、ライラの言った通りに実質一択なので、誰一人として悩むことなく、戦争に参戦することが決まった。




