第221話:お誘い
「あの、すみません……」
「はい?」
ギルドも大変だなーと考えながら、依頼書の貼られた掲示板を見ていると、女性に声をかけられた。
シラキリやライラを見慣れているせいか、女性の装備は心許ない感じがする。
まあ俺なんて動きやすいように、スリットの入ったロングスカートにパーカーである。
鉄扇と足にポーションも巻いているが、ギルドには似つかわしくないだろう。
「あの、依頼を探しているのでしたら、一緒にこの依頼を受けてもらえないでしょうか?」
一枚の依頼書を差し出され、そこにはポーションの素材となる薬草の採集依頼が書かれていた。
勇気を出して声を掛けてくれたのは嬉しいが、依頼を受ける気ははなから無い。
ただの野次馬根性で、俺はギルドに来ている。
「すみませんが、依頼を受ける予定はありません」
「そ、そこをなんとかお願い出来ませんか? お願いします!」
人目を憚らず頭を下げてくるが、ギルド内にはパッと見強そうな人は他にも沢山居る。
態々俺を選ぶ理由が分からない。
女性を気にしているような人は見当たらず、誰かに指示されたなんて線は薄そうだが……。
「立ったまま話すのも目立つので、一度座りませんか? 依頼を受ける事は出来ませんが、話を聞く事位は出来ますので」
「……分かりました」
掲示板の前から移動して、空いているテーブルに座る。
気乗りはしないが、俺がシスターである以上、完全に拒絶するわけにはいかない。
周り回ってこの女性がホロウスティアに来ないとも限らないし、運悪くイノセンス教の悪評になるなんて可能性も捨てきれない。
周りに人目もあるので、最低限の建前を作っておいた方が自分のためだ。
「それで、どうして私を誘ったのですか? 見ての通り、私は武器や防具を持っていませんが?」
「その……あなたのような人が居れば、他の人に絡まれないと思いまして。それに、薬草集めなのでそう難しくないと思い……」
そこは普通優しそうな人や、もっと体格の良い男に声をかけるべきなのでは……。
せめて武器を持っている人を選ぶのが常識だと思うが、甘く考えすぎではないだろうか?
「薬草集めだからと、甘く見ない方が良いですよ。もしも怪我をした場合、折角稼いだお金がポーションで無くなってしまうかもしれないのですよ?」
「それは……でも私じゃあこれ位しか出来なくて……」
「でしたら、ギルドの受付の人に事情を説明して、しっかりと身分のある冒険者を紹介してもらった方が良いですよ。見ての通り、私は一般人ですから」
見た目はともかく、身分はただの……あっ、公爵の後ろ盾があったな。
まあ貴族ではないし、職業もシスターという名のヒモだ。
とりあえず言葉で女性を言いくるめられないかと試したが、何故か女性は席を立たずに、控えめに窺ってくる。
うーん。分からん。装備は見たところくたびれてはいるものの、一応手入れはされているように見える。
剣の鞘も傷がついているし、それなりに戦う事も出来そうだ。
私くらいとは言うが、いっそのことこの女性一人でも行けたりしないか?
(この人は弱いのか?)
『…………ぬ? ああ、そうだな。シラキリ以下なのは確かだが、最低でも例のマヤの護衛と同程度はありそうだが…………いや、気のせいだな』
どうやら寝ていたところを起こしてしまったようだ。何か濁しているが、寝起きだしそっとしておこう。
だがルシデルシアの言う通りならば、決して弱くはない事になる。
それこそ本当に一人で依頼を受けたとしても、多分大丈夫だろう。
ここで逃げたとしても、追ってきそうな感じもするが……サクッと依頼を終わらせて、別れれば良いか。
どうせミリーさんが帰ってくるまで暇なんだし、これ以上ごねられて泣かれたら面倒だ。
シラキリだってもっと聞き分けが良いというのに、やれやれ……。
「……分かりました」
溜息混じりに返事をすると、女性は花が咲いたような笑顔を浮かべる。
女性とは言っているものの、この感じでは二十代では無いだろうし、アオイと同じか少し下くらいだろうか?
「あ、ありがとうございます!」
「ですが、見ての通り多少の自衛は出来ますが、戦う事は全てお任せすることになると思います。採取した薬草程度でしたら私が持ちますが、本当に良いのですね?」
「はい!」
はいじゃねぇよとツッコミを入れたいが、とりあえず自己紹介とか諸々を済ませなければな。
「まずは自己紹介を。私はサレンディアナと申します。サレンと呼んで下さい。冒険者ランクはEランクになります」
貢献度ランクは勝手に上がっているが、冒険者ランクは何もしていないため、一向に上がっていない。
ライラやシラキリは順調というか、驚異のスピードで上げていたが、基本的にギルドの依頼を受けていない俺のランクが上がる事は無い。
ホロウスティアの主な依頼はダンジョンが中心であり、俺は基本的にダンジョンに入る事が出来ない。
「私はアルテって言います。冒険者ランクはDです。見ての通り剣士です。魔法は少しだけ使えます」
「よろしくお願いします。もう一度依頼書を見せていただいても良いですか?」
「はい!」
アルテから依頼書を受け取り、上から下までしっかりと読む。
依頼者はギルドなので、依頼の信用性は問題ない。
依頼料は最低金額と、それプラス採取出来た薬草の量に応じての出来高制。
依頼のランクは最低のGランクとなっているが、これについての信用は無いと思っておいた方が良いだろう。
……いや、逆に問題無い可能性もあるか……。
ポーションが足りていない理由は、単純に作れる人が居ないだけであり、材料となる薬草は普通に自生していると考えられる。
聞いた話ではそこら辺の草原にも普通に生えているので、危ない場所に行くまでもない。
……はずなのだが、それはそれでおかしい話ではある。
まあ、考えても答えが出るわけではないし、いざっとなったらルシデルシアに頼めば良い。
「お返ししますね。見た限り問題は無さそうですが、薬草の採集はどこまで行く予定ですか?」
聞いておいて何だが俺はこの街の地理を全く知らない。
この街から出る予定なんて無かったし、地図とか見たことないし。
来る時に通った広場に簡易地図的な物があった気がするが、見てないし。
「はい。西門から出て少しすると、小高い丘があるので、その辺りで集めようと思っています」
「そうですか。出てくる可能性のある魔物について知っていますか?」
「コボルトウォーリアーとウルフがよく出てきます。その他にも居ますが、大体この二種類だそうです」
話せば話す程、この女性の事が分からなくなってくる。
そして、俺をパーティーに誘う必要性も感じられなくなる。
ついでに魔物の名前を言われても、どれくらい強いのか俺には分からない。
まあ天使に比べれば弱いだろうし、護身用に鉄扇は持って来ているので、いざという時でも問題無いだろう。
「事前知識は大丈夫そうですね。最後にですが、アルテさんはソロですか? 他に仲間が居たり、パーティーを組んだ経験は?」
……なんだか面接している様な感じだが、どんな形であれパーティーを組むならば、情報の擦り合わせは必要だ。
パーティーを組んだ事があるならば、最低限後ろを気にする必要がある事を知っているだろうし、無いならば相応に俺も動かなければならない。
俺の知識はミリーさんやライラの受け売りだが、受け売りだからこその信頼性がある。
「パーティーは何度かあります。基本は前衛でアタッカーをしていました」
「分かりました。それでは一応パーティー登録をして、それから出発するとしましょう」
「はい!」
アルテと一緒に受付へと行き、依頼を受理する。
ギルドカードを提示すると、少々不思議そうな顔をされたが、俺くらいの年齢で貢献度ランクがCランクなのは珍しい。
冒険者ランクは案外上がるが、貢献度ランクは難しく、ミリーさんもDランクから上げるのを苦労していた。
いや、あれは俺達に近付くための方便か。
一応本当の事だったらしいけど、過去にも同じような事をしていたのだろうな。
アルテのギルドカードを覗き見したところ、どうやら十六歳みたいだ。
冒険者ランクは本人の言っていた通りであり、他の二つのランクは未記入になっている。
「サレンさんって、貢献度ランクが高いんですね……」
「冒険をすることはほとんどありませんでしたが、その分色々な機会に恵まれまして。おかげさまで、助かっています」
ホロウスティアは街というか、国クラスの大きさな分、ギルドと提携している店が多い。
おかげさまで、色々と割引で物が買えて助かっている。
割引で思い出したが、後でギルドの登録をどうするかミリーさんやアオイ達と話さないとな。
しばらくは俺の方でも面倒を見るが、その内自立してもらわなければいけない。
アオイの目的に、ずっとホロウスティアに留まる選択をしないだろうし、話しておいて損はないはずだ。
「これで大丈夫ですね。それでは、行きましょう!」
「はい」
ギルドでやる事は終わり、いよいよ出発となる。
軽く受付の人に話を聞いたが、薬草は根を残して葉の部分だけを摘み取った方が良いらしい。
保存の事を考えれば根も一緒の方が良いが、根を残して置けばまた生えてくるらしいので、納品後直ぐにポーションの調合用に回す今回は、葉だけの方が良いらしい。
他にも裏事情とかはあるが、ともかく楽が出来るなら、その方がありがたい。
ついでに薬草を入れる大きな袋も貸して貰ったので、それなりに頑張るとしよう。




