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なんちゃってシスターは神を騙る  作者: ココア


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第214話:勝者のライラ

 宿では既にアーサーにより部屋が取られていて、直ぐに部屋へと入る事が出来た……が、少しだけ問題が起きた。


 そう、部屋割りだ。


 アーサーとユウトが同室になるのは、同姓だから分かる。


 マヤとタリアもお互い信頼できる仲なので、当たり前のように部屋割りだ。


 問題は…………そう、俺だ。


 この五日間妙に距離が近くなったミリーさん。


 長い間離したせいか、寂しさが完全に抜けていないシラキリ。


 二人に誘発されたか、最近妙な圧を感じさせるようになってきたライラ。


 そして不安定な状態なアオイ。


 控え目に言って地獄である。


 とは言ったものの、今回同室になるのはライラで確定である。


 シラキリとは聖都に向かう途中に同室となったし、聖都では一ヶ月近くミリーさんと一緒だったのだ。


 アオイについては、薬や年長者が居るマヤとタリアに任せる形で落ち着いた。


 それに、どうせ野宿の時は全員同じ場所で寝ているので、一日位気にしなくても良いと思うのだが…………。


 予定では森の手前にある街でもう一泊する予定なのだが、今からその時が憂鬱だ。


「そう言えば、シスターサレンと共に寝たのは、一度だけだったな」


 ライラと共に宿屋の部屋に入り、軽く荷物の整理をしていると、ふとライラが話しかけてきた。


 言われてみれば、確かにライラと同じ布団で寝たのは一度だけだったな。


 あの日はライラの独白……想いを聞いた日だったな。


 最終的には確か……。

 

「ライラが泣いた日でしたね」

「あれは……忘れてくれ。我とてまだ子供なのだからな」

「はい。分かっています」


 ふと視線を逸らし、ライラは顔を赤くする。


 気高いライラにとって、人前で泣いたことは忘れたい過去なのだろう。


 中々可愛げがあって俺としては良かったが、この話を続けて拗ねられても困るので、言われた通りに辞めておこう。


 三人の内、ライラの機嫌を損ねるのが一番怖いからな。


 例のワインをまた飲みたいし。


 あの味を一度味わってしまうと、忘れることが出来ない。


「……いや、シスターサレンにならば、覚えていて欲しい。あの日、我は逃げぬと決めたのだ。他の誰かならばまだしも、シスターサレンには我の覚悟を忘れないで欲しい」

「それがライラの望みでしたら、私は覚えておきましょう」

 

 中々カッコいい事を言ってくれる。


 これで十四歳なのだから、頼もしいものだ。


 軽く整理が終わったら、明日の朝までは時間となる。

 

 アーサーとミリーさん。おまけのシラキリは情報収集のために、早々に出かけてしまっている。


 勿論シラキリはまた例の奴隷服でだ。

 

 もう大丈夫だとは思うが、念には念にとミリーさんが言っていた。


 アオイやマヤ達も自由であり、それなりのお金をミリーさんが渡してあるので、おそらく出かけているだろう。


 この街はスラムとかが無い位の小ささであり、それなりに平和らしいので、襲われる事は無いだろう。


 ギルドもあるので粗暴な冒険者とかが居る可能性はあるが、流石に自分から襲われに行くような事はしないはずだと信じたい。

 

 まあ何か起こればミリーさん達の誰かが対処してくれるだろう。


 念のため全員マヤ謹製のハイポーションを持っているし。


 店での値引き交渉を見ていて思ったが、マヤはかなり強かだ。


 神殿では納品用のエリクサーとは別のエリクサーをこっそりと作り、逃げる時には貴重な材料を大量に持ち出したり。


 あの夜の話し合いが終わり、マヤから事情を聞いたミリーさんはマヤの持っていた鞄の中を見ていたが、かなり驚いていた。


 おそらく普通にあの鞄の中身を売り払うだけで、マヤは自立して生きていける程度の金が手に入るのだろう。


 聖職者として盗みはどうかと思うのだが、あの部屋にあるのは便宜上マヤの物となるので、盗みではないと本人は言っていた。


 これにはタリアも苦笑いをしていたが、特に怒るようなことはしていなかったので、向こうの宗教的に問題はないのだろう。


 聖職者にとって規律とは、法律よりも大事にしなければならないものだ。

 

 規律的に問題なく、そもそも法律なんて糞喰らえな世界なので、俺達からとやかく言える事は無いのだ。


 なんなら王国で俺達がやった事を考えれば、間違いなく死罪だろうし。


「この程度で良いだろう。この後はどうする? まだ夜まで時間はあるが?」


 流石にシャワーがあるような宿ではないので、タオルで身体を拭いて、新しい服に着替えた事で、自由時間となる。


 出来るか分からないが、ホロウスティアに帰ったら、携帯式のシャワーとか作れないか聞いてみよう。


 将来的には必要になるだろうからな。


「そうですね。折角だから街を見て回りに行きませんか? あまり目立つのは良くないですが、少し位なら問題ないでしょうから」

 

 マーズディアス教が機能不全に陥っているため、俺を狙ってくるような奴はもう現れないだろうし、王国についてもこの街は国境と反対側になるので、王国の人が居る可能性は低いと見て良い。


 なので、観光のために外へ出ても、もう問題ないと見て良い。

 

「……そうだな。他の人達も出ているだろうし、我らも倣うとしよう」

「はい」

 

 いつもは皮鎧のライラも、今回は普通に私服であり、髪を隠すために帽子を被っている。


 グローリアはボロボロのため、グランソラスだけを装備している。

 

 何も起きないだろうと考え、武器も無しで出掛けるなんて事をライラがする訳がないのだ。

 

 無論俺も、鉄扇をしっかりと装備している。


 気を抜いたら身体の動き止められ、剣が飛んでくるのがこの世界だ。


 用心をしておいて損は無い。


 準備が整ったら宿から出て外を歩く。

 

 屋台の様なのは無いが、フリーマーケットの様な広場があり、色々と売られている。


 結構賑わっているが、既に午後も半ばを過ぎているため、売り物が少なかったり、既に店仕舞している所もある。

 

 昔外国へ行った際に見た、民族工芸の様なものが多く、中々面白い。


「色々とあるものだな。アクセサリーや雑貨が多いが、見ていて飽きない」

「そうですね。……そう言えば、教会ではライラの部屋に行った事がありませんでしたが、何かインテリアとか置いているのですか?」

 

 初期ならばともかく、王国へ行くとなった時には、ライラ達は安定した収入があったので、部屋を整える事位は出来たはずだろう。

 

 俺の部屋も多少は小綺麗になっていたし、ちょっとした物やイスをシラキリやミリーさんが運び込んでいた。


 なので、ライラの部屋もそれなりに整っていたのではないかと思う。


「……あまり物を置いていなかったな。元の生活が生活ゆえ、必要最低限の物で暮らす癖がついてしまっている」


 それを言われてしまうと、何て返せば良いのか迷うな……。


 グローアイアス家に居た頃は相当酷い生活送っていて、ホロウスティアまで来るまではサバイバル生活を送ってきた。


 ホロウスティアで俺と出会ってからは食事はまともに取れていても、それ以外は微妙な状況だったし、何ならライラは着飾ったり、煌びやかな生活を嫌悪している節がある。

 

 仕方ないと言えば仕方ないが……ふむ、折角だし少しライラに贈り物をするのもありだな。


 だがただあげるだけではライラも気にするだろうし、ここはあの手を使うとしよう。

 

「そうなんですね。折角ですから、お互いに小物を一つ買って交換するなんてどうでしょうか? 私の部屋もまだまだ寂しいですからね」

「ほぅ。それは面白そうではないか。大きさはどれくらいまでだ?」


 特に疑うことなく、ライラは俺の誘いに乗ってくれた。


 後はライラの好きそうな物を探すのが大変だが、あまりにも変な物を選ばなければ、失敗は無いだろう。


「手の上に乗る程度で、制限時間は一時間で良いでしょうか?」

「よかろう。それではまた一時間後に。集合は……そこの木の下で良いだろか」

「分かりました。それではまた後で」


 ライラと別れて、フラフラと周りを見ながら歩く。


 ライラの好きな物は年相応の物ではなく、実用性がある物か、シックな物だ。


 宝石よりも武器。金よりも鉄。素材よりポーション。


 なので、見栄え重視で選ぶのは良くない。

 

『止まれ。そこの店を見よ』

 

 考えていると、ルシデルシアに声をかけられたので、足を止める。


 言われた通り店を見ると、そこはグラスを売っている店だった。



 

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― 新着の感想 ―
サレンさんの周囲がどんどん重くなっていく……まあサレンさんの手管は中々の物だからきっと上手くいくでしょう南無南無
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