第202話:最終局面へ
さて、困ったことになったな……。
後少しで地下から脱出できると思ったのに、まさか完全に埋まっているとは……。
まああからさまに異様な揺れもあった事だし、揺れの強さを考えるに建物がタダで済むとは思っていなかった。
この地下は結構深く、最低でも十メートル位はある。
どこまで埋まっているか分からないが、十メートル丸々埋まっている場合、簡単に地上に戻ることは出来ないだろう。
こんな時にアーサーかライラが居れば、土の魔法で上手く処理してくれるのだろうが、無い物ねだりをしても意味は無い。
「埋まってしまっていますね。来た道も先程埋まってしまっていましたし……」
アオイの言う通り、引き返すという手段も取る事が出来ない。
八方塞がり。籠の中の鳥。
どうしたものか……。
いくら俺に力が有るとしても、流石にこれはどうしようもない。
重苦しい空気が漂い始めるが、俺ではどうしようもないだけなので、脱出する手段は一応ある。
「……少し特殊な方法で穴を開けますので、一度遠くまで離れて頂いても良いでしょうか?」
「どうにかできるのですか? かなり深くにこの地下牢はあるのですが……」
「我が神の奇跡を使えば、おそらく可能です。ですが、危険を伴うので、念のため離れて下さい」
「……分かりました」
不安そうにするタリアを宥め、全員に離れるように頼み、通路の角で見えなくなるまで待つ。
俺が取れる手段は無い。だが、俺は一人ではないのだ。
(頼んだぞ)
『やるのは構わぬが、運悪く崩壊する可能性もあるぞ?』
(閉じ込められている以上、お前に頼むしか方法がない。マヤならば爆薬の調合位できるだろうが、時間が無いからな)
ルシデルシアの魔法ならば、十メートル位の瓦礫や土を魔法で消滅させる事が出来る。
ダンジョンでは底の見えない大きな穴を開け、森でも巨大な爪痕を残している。
ルシデルシアの言う通り危険はあるかもしれないが、ルシデルシアならどうにかしてくれるだろう。
諸悪の根源だし。
『仕方なしか……一瞬で終わらせるとしよう』
(頼もしいねぇ……)
これまで味わってきた様に意識が落ち、次の瞬間には目の前に地上へと繋がる大穴が出来ていた。
登れるように斜めに空いているが、空には複数の天使が空を飛んでいるのが見える。
一部に穴が開いたような空白があるが、ルシデルシアの魔法に巻き込まれたのだろう。
(何秒位だ?)
『十秒も経っておらん。そちらも違和感は無いか?』
違和感……特に何も感じる事はないな。
中は勿論外も問題ない……が少し肌寒いな。
おそらくルシデルシアは氷の魔法を使ったのだろう。
土を操って穴を開けるより、氷の柱を作り出して瓦礫を押し出してしまった方が早く終わると考えたのだろう。
俺達が外に逃げ出すまでの時間を稼げれば良いだけなので、文句はないのだが、本当に規格外な奴だ……。
(大丈夫そうだ。違和感もなければ疲れとかも感じない)
『ならば良い。なるべく入り口の近くに穴を開けてある。天使が来る前に急げ』
(了解)
「皆さん! 道を作りましたので、行きましょう」
……おや? 反応が無いが……。
「これは……す、凄いですね」
「お、俺……こんな人に戦いを挑んでいたのか……」
少しだけ間が開いた後、アオイとユウトがやって来て、それからマヤとタリアもやって来た。
思ってたよりも離れていただけか。
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空へと氷の柱が聳え立ち、本当に一瞬だけ禍々しい魔力が広がる。
ライラは襲い掛かる天使を倒しながら、氷の柱が空へと散って行くのを眺めていた。
「敵……ではないとするとすると、おそらくシスターサレンか。敵の素性も気になるが、悪辣な手段を取る奴らだ……」
天使とは、信徒を生贄として召喚されている。
その現場を間近でみたライラは、苦々しい顔をしながら魔法で撃ち滅ぼした。
天使に姿を変えたのは、神殿内に居た者だけだが逃げようとしたり、他の一般人は天使に襲われたりして、殆どが死んでしまった。
アーサーの作り出した壁も一因だが、仮に壁が無ければ、天使達は街へと繰り出し、その被害は更に大きなものになっていただろう。
ライラはグローリアの火の剣を空へと放り投げ、辺りに炎の弾幕を張る。
少しだけ自由な時間を作り、僅かな休憩を取りながら考えを巡らせる。
氷柱の発生位置におそらくサレンは居るだろうが、なぜあんな事をしたのか……。
ライラの居た位置からは正確には見えなかったが、大量の瓦礫を吹き飛ばしていたので、おそらく地下から出るために放ったのだと考える。
遠くでは異様な雰囲気を放っている存在と、まるでミリーが成長した様な姿の女性が戦っているが、これには流石のライラも踏み込む事が出来ないでいる。
破壊力もさることながら、その速さも相当な物であり、もしも戦いに混ざろうものなら、瞬く間に死ぬ事になるだろう。
現にミリーの方はライラ達の方に流れ弾が行かないように動いており、流れ弾で神殿をほぼ全て倒壊している。
(待つよりは、助けに動いた方が良さそうだが……)
現在ライラは遊撃を行っており、アーサーとシラキリは僅かに残った生存者を守りながら戦っている。
ライラからすれば決して強い相手ではないが、天使の数は多く、そのほとんどは空を飛んで攻撃を仕掛けてくる。
流石に空を飛んでいる相手は戦い難く、倒すのに苦労している。
もしもグランソラスがライラの手に有れば、グランソラスから配給される魔力で魔法を使えるが、今はそうもいかない。
グランソラスが無くてもライラの魔力は相当なものなのだが、天使達は魔法の効き目が弱く、下手な魔法では避けられてしまうので、基本的にグローリアで斬り殺す方が効率が良い。
ライラは降って来た剣を合体させ、一気に空へと跳んだ。
同時に四方八方から襲い掛かってくる魔法を迎撃し、襲い掛かってくる天使を斬り殺す。
空から氷柱が発生した地点を見ると、ポッカリと穴が開いており、そこに向かって数人の天使が向かって行く。
「ヘルフレイム!」
火と闇の混合魔法を放ち、向かって行っている天使を倒し、穴の近くへと着地する。
「ようやく戻ってきたようだな。シスターサレン。何やら連れが居るようだが――無事か?」
「おかげ様で見ての通りです。彼らをお願いしても宜しいですか?」
穴を登って来たサレンへと背を向け、襲い掛かってくる魔法を防ぎながら話す。
そして、サレンの後ろから地上の様子を見た、四人は驚きのあまり声を失う。
あれだけ壮大な神殿が瓦礫となり、見る影も無くなっていたのだ。
見上げる程の高い塔も、目を奪われるステンドグラスも全てだ。
「承った。シスターサレンはどうするのだ?」
「ミリーさんの助けを。約束がありますので」
出来ればサレンに危険なことをしてほしくないライラだが、それが無理なのをグランソラスを貸してほしいと言われた時から理解している。
だから、ここで足を止めさせるようなことを言うつもりはない。
「そうか……気を付けてな」
「はい、ライラも。それと此方をどうぞ」
サレンは腰から奇跡を込めたポーションを二本取り出し、ライラへと渡す。
既にライラはサレンから渡されていた物は、見つけた怪我人に使っており、自身が負った小さな怪我は無視していた。
ライラは一本を直ぐに飲み干し、近くまで来ていた天使に風の剣と火の剣の合体剣をブーメランの要領で投げ、周囲の天使を一掃する。
「感謝する。そこの四人。死にたくなければ遅れずに着いてこい」
「分かりました。よろしくお願いします」
ライラが空へと跳び、その後ろをサレンを残して着いていく。
見送ったサレンは、一直線に飛んでくる天使の魔法を斬り裂き、戦いの最中に居るミリーを見つめる。
四対八枚の白い翼をはためかした少女。
それがサクナシャガナだった。
サクナシャガナの身体は生け贄となった少女の物であり、ミリーの親友だった存在である。
戦況は完全にミリーが押されており、今も四肢を吹き飛ばされながらも、瞬時に再生して戦っている。
サレンとキスをした時に持っていた剣は既になく、腕に魔法を纏って戦っている。
その姿は痛々しく、無駄なように見える。
サクナシャガナは全く意に介している様には見えず、神と人の差をありありと示されていた。
たが……ミリーには諦めの色は全く見えない。
「後はお願いします」
いつもは心の中で思うだけの言葉を、しっかりと声として出す。
サレンの髪が瞬く間に黒く染まり、周囲に黒風を巻き起こし、グランソラス――神喰が脈動する。
本当の意味で母の下に帰ってきたことを喜び、その真の力を余すことなく解放する。
サレンを……ルシデルシアの反応を捉えたサクナシャガナは大きな隙を晒し、その隙をミリーは見逃さず、サクナシャガナを殴り飛ばす。
戦いは最終局面へと差し掛かる……。
ミリー「(剣が無いなら、拳で殴る!)」
サレン「(歌でも歌いだしそうだなー)」




