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第197話:崩壊の序曲

 予定通り神殿に入り、人気のない所でルシデルシアに代わり、軽く暴れてもらうはずだったのだが…………目が覚めたら目の前の壁に大穴が開いていた。


 ついでに神秘的な様子を呈していた廊下はボロボロになり、ミリーさんが既に来ていた。


(説明をくれ)


『万事予定通りだ。それと、マヤとアオイの居場所は把握した。状況が終わり次第教えてやろう』


 間違いなく楽しんでいるであろう声質だな。


 まあ少々思っていたよりも大事になっているが、人目が無いならばとりあえず良いか。


 そう言えば一緒にいたサイモンが見当たらないが……まあそういう事だろう。


「一応上手くいったようですね」

「この状況でそう言える辺り、流石サレンちゃんだね」


 ルシデルシアに身体を渡す前は静かだったが、今は遠くから悲鳴やら戦闘音やらが聞こえてくる。


 ついでに、壁の穴から大きな土の壁が生えてくるのが見えた。

 

 既にライラ達も動き出したようだな。


 この後はキスをするのだが、ミリーさんは微妙な距離を保ち、俺に近づこうとしてこない。

 

「えーっと、で、サレンちゃん」

「はい」


 まるで付き合いたての中坊みたいだが、あまり悠長にしている時間は無いと考えて良いだろう。


「その、結構長く生きてるんだけど、実はファーストキスでさ……」

「はい」


 じれったいからといって、俺から手を出しては意味がない。


 これはミリーさんからすることに意味がある……ってルシデルシアが言っていた。


 ついでにもじもじしながら、顔を赤らめるミリーさんは見ていて面白い。


「あの時言った通り、サレンちゃんの事は好きだよ? でも……その……初めてだから、下手でも許してね?」

 

 近寄って来たミリーさんが背伸びをして顔を近づけてきたので、軽く屈んで受け入れる。


 ルシデルシアの時は蹂躙される様な感じだったが、ミリーさんのはどこかよそよそしく、優しい感じだ。


『ふむ。繋がったな。後は任せておけ』


 胸から温かい物が溢れ、ミリーさんへと流れていくのを感じる。


 十秒程で顔を離そうとすると、少しだけミリーさんが嫌がるが、しっかりと繋がったのを確認済なので、引き剥がす。


 少しだけ橋が繋がるが、指で切って舌で拭っておく。


「何か流れてきた様な感覚はありましたか?」

「…………あ、うん。何かが繋がったような感覚があるよ」


 赤くなって惚けた顔をしていミリーさんだが、何とか答えてくれた。


 うん。流石に俺も恥ずかしいから、そろそろ正気に戻ってほしい。


 ルシデルシアとディアナにそっちの気が有ったとしても、俺にはそういった感情はあまりない。


「それなら良かったです。私はマヤさんと聖女に会いに行ってきますので、それまでサクナシャガナの事はお願いします」

「任せてよ。殺せそうなら殺すけど、無理そうならサレンちゃんが来るのを待つよ。少し離れて貰って良いかな?」

「はい」


 やっと顔から赤みが引いたミリーさんは、俺から距離を取って目を閉じる。


 すると全身が光に包まれ、その姿を変えていく。


 スラリと伸びた長い脚に、引き締まった身体。


 身長も百七十程あり、胸も……胸も……少しだけ大きくなったな。


 髪もかなり長くなり、腰ほどまで伸びている。


「ふぅ。サレンちゃんと視線が一緒だと違和感があるね」

「それが奥の手でしょうか?」

「そうだよ。貯めていた生命力を解放して、最も肉体が成熟している状態に変化させる技だよ。美人でしょ?」

 

 いつものミリーさんも蠱惑的な魅力があるが、成長した姿もこれはこれで需要がありそうだ。


 個人的に胸は邪魔なので、ミリーさん位慎ましい方が良かった。


 多分この話をディアナにすると怒られるのかもしれないが、こればかりは仕方ない。


 男の頃は巨乳の女性は好物だったが、いざ自分の身となると、小さい方が良かったと思ってしまう。


「はい。私が男性でしたら惚れていたかもしれません」 

「もう……サレンちゃんったら……それじゃあ先に行ってるよ。どうなるか分からないけど、建物の崩壊には気を付けてね」


 微笑んだミリーさんの周りに風が吹いたと思ったら、あっという間にミリーさんは見えなくなってしまった。


 あれがミリーさんの本気モードか……。


 さて、俺も動くとしよう。

 

(それじゃあ道案内を頼む)


『任せろ。……その前に数体天使が迫っている故に、対処した方が良いだろう』


 来た道の方を見ると、白い翼の生えた変な生き物が何体か飛んでくるのが見えた。


 天使と言うにはあまりにも見た目があれだが、実際の天使は見目麗しい姿よりも、気持ち悪い姿らしいので、あれも別段おかしい姿ではないのだろう。


 ルシデルシアに代わって貰うのが一番良いのかもしれないが、一々切り替わるのもルシデルシアに悪い。


 これまで代わった回数はそんなに多くなく、一日に何度も代わるなんて事はしたことが無い。


 魂が混ざり合っているだけでもおかしいのに、一つの身体をそう何度も変えれば、副作用があってもおかしくない。


 夢の中でルシデルシアに詳しく聞いてみたところ、ルシデルシアが表面に出ている時は、俺の身体は過去のルシデルシアと同じものになっているらしい。


 ミリーさんの場合は奥の手としてだが、俺の場合は意識一つで変わるのだ。


 今の所問題無くても、短期間で繰り返せば何かしら起こると考えてしまう。


 無論大丈夫な可能性もあるだろうが、石橋を叩いて渡るのが日本人の特性だ。


 だから、最初にサクナシャガナをおびき寄せる為に変身した以外は、俺自身が対応した方が良い。


 ヴァイオリンを床に置き、隠していたグランソラスを取り出し、鞘から抜き取る。


『魔力を神喰に通せ。そうすれば後は神喰が示してくれよう』

 

(了解)


 神喰……じゃなくてグランソラスに魔力を込めながら、意識を切り替える。


 天使達が攻撃態勢に入り、そして世界が遅くなる。


 俺の身体に瞬発力はないのだが、グランソラスが導くままに、身体に力を込めて踏み込む。


 遅い世界の中、俺だけが速く動く。


 一番近い天使を両断し、そのまま残りの天使も同様にグランソラスで斬っていく。


 天使達が行動するよりも、俺の方が速いため、一方的に蹂躙して戦いが終わる。


 最後にグランソラスを振ってから鞘に戻し、意識を元に戻す。


 五体居た天使は塵へと変わっていき、戦いが終わった。


 グランソラスが示すと言ったが、確かにルシデルシアが言った通りだった。 


 もしもグランソラスではなく、ガイアセイバーを持ってきていれば、俺ではもっと大変な事になっていただろう。


 いくら身体能力が高くても、俺にまともな戦いが出来るはずがないのだから。


『生前は作ったきり使う事は無かったが、馴染むものだな。面白い機能だろう?』


(終わったならさっさと道案内をしてくれ)

 

 今の戦いは確かに凄い物であったが、俺とルシデルシアが同一人物だからグランソラスが従ってくれただけであり、もしもルシデルシアが居なければ魂を食われていただろう。


 ライラが飼い主ならばルシデルシアは生みの親であり、俺は赤の他人だ。


 使ってみて分かったが、グランソラスは本当にヤバい剣だ。


『つまらん奴だな。そのまま進み、分かれ道を右に進んだ後に見える階段を上がれ。そこまで進んだらまた案内しよう』


(了解……おっと)


 歩き出そうとすると、神殿が大きく揺れた。

 

 おそらくミリーさんが戦い始めたのだろう。

 

 更に壁の大穴に天使が見えたと思ったら、闇の魔法が通り過ぎて天使が消滅した。


 おそらくライラの魔法だろうな。


 皆頑張っているようだし、俺も急いだ方が良さそうだ。


 置いておいたヴァイオリンを拾い、ボロボロの廊下を走る。


 先程グランソラスを使っていた時と比べればかなり遅いが、それでも歩くよりは断然早い。


 途中壁や廊下を突き破って現れる天使をグランソラスで斬り伏せ、落ちないように気を付けながら進む。


 俺の予想通りならば、サクナシャガナにルシデルシアを殺す気は無い筈なのだが、普通に殺す気で来ている感じがする。


 俺の予想が外れたのか、それともサクナシャガナからすれば、この程度は小手調べ程度なのか……。


 若しくはルシデルシアの神気を、本物だと認識していないのかもしれない。

 

『もう直ぐ進むと螺旋階段がある。それを登った後に廊下を真っ直ぐ進めば、そこにアオイが居る筈だ』

  

(分かったけど、天使は何故俺を襲ってくるんだ?)


『単純に目に付いた相手を殺せと命令されているのだろう。下位の天使に自意識などないのだからな』


(……それって大丈夫なのか?)


『奴にとって人間とは、替えの利く道具程度でしかないのだろう。それに計画が崩れたとしても、神にとって百年程度は年末年始の休みと変わらん』


 始まった直後は長いと感じても、気付けば終わっている程度の時間って事か。


 ルシデルシアが言った百年とは、百年もあればやり直せるという意味だろう。

 

 それにしても例えが生々しいが、これが現代社会を学んだ魔王って事か……。

 

 

ミリー「(キスってあんな感じなんだな……)」

ミリ「(幸せなんて二度と感じることは無いと思っていたけど……)」

ミリー「(…………決着を着けないとね)」

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ロリミリーさん状態でキスとは背徳的ですばらですわ~ 
シラキリ「濃厚な匂いがする・・・」
人名混ざってる混ざってる
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