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第181話:ミリーへのお願い。ライラへのお願い

 大人として店での支払いを全て持ち、噴水のある広場でアオイと別れる。


 旅に出てからの俺の金は全てライラ達が稼いだ金なので、あまり誇れるものではないが、その事をアオイが知る術はない。


 それなりに長くアオイと話していたせいか、ほんの少しだけ空が赤くなり始めている。


 もうそろそろ戻らないと、俺が抜け出している事がバレてしまう。


 特に服は早く着替えて洗った方が良いだろう。


 シラキリは獣人で耳がとても良いが、鼻もそれなり……多分ディアナのせいでかなり良い。


 密室で二人きりだったので、多分匂いで俺が誰かと会っていたとわかってしまう。


 それに、俺もそろそろ次に進まなければならない。


 遠回りでミリーさんとの距離感を崩さないように、好感度上げを頑張っていたが、アオイと話した事で終わりを明確に認識した。


 後二週間。もしかしたらもっと短くなるかもしれない。


 ミリーさんが勝手に行動するかもしれないし、何かの拍子にサクナシャガナが動くかもしれない。


 何とかなるとあの時は思っていたが、流石に後回しにし過ぎていた。


 確か明日は、ライラとミリーさんは休みの日の予定だ。


 休みだからと休んでいる訳ではないが、この休みを利用してミリーさんをどうにかしようと思う。


 最悪の場合仲が拗れる可能性もあるが、そうなれば諦めるしかない。


 アオイと同じく剣で突き刺せばどうにかなるならばともかく、ミリーさんの場合はそれを出来ない理由がある。


 アオイの場合は加護さえ切り離せば問題ないが、ミリーさんの場合そのまま死んでしまう恐れがある。


 人としての寿命はとっくに過ぎており、無理やり加護を奪えてもその反動で骨と皮になるかもしれないのだ。


 キスをすることによってサクナシャガナとミリーさんの繋がりを一時的に断ち、その間にサクナシャガナを殺すことで、ミリーさんの加護だけを残す。


 加護だけが残っても駄目だが、加護の先をルシデルシアにすげ替えることにより、ミリーさんを生かすのだ。


 そのためにも今日は明日について約束を取り付ける必要がある。


 宿屋の部屋に戻り、シャワーを浴びてから部屋着に着替える。


 今日の出来事と、次に何をアオイと話すかを日記兼メモ帳に書いていると、扉が開く音がした。


「お帰りなさいませ。ダンジョンはどうでしたか?」

「ただいまー。少しアクシデントがあったけど、いつも通りだね」

「アクシデントですか?」


 今日ダンジョンに行ったのはライラとミリーさんだが、この二人が居て問題が起こるとはあまり考えられない。


 見た限りミリーさんの服に酷い汚れなどは見当たらないので、武力的な衝突はなかったと思うのだが……。


「帰りに質の良い聖酒が売っててさー。サレンちゃんのお土産に買おうとしたら、ライラちゃんが駄目だって怒ったんだよ」


 やれやれとしょうがなさそうな雰囲気を出しながら、ミリーさんは防具を外していく。


 どうやらミリーさんはミリーさんだったようだ。


 個人的には酒を貰うことが出来ずに少し悲しいが、ライラに文句を言うことは出来ない。


「気持ちはありがたいですが、ライラを怒らせると大変ですからね」

「この前酒盛りをしてたことを、どうやらまだ怒っているみたいでねー。最近の若い子は直ぐに手を出すから、怖い怖い」


 脱いだ防具を壁に追いやり、スポブラパンツ一丁になったミリーさんはベッドへとダイブする。


 そのまま枕へと顔を埋め、汚いおっさんの様なダミ声を出す。 


「あ~。ライラちゃんは人使いが荒いから疲れたよ。明日は休みだし、ゆっくりとお酒でも飲んで寛ぎたいよ」


 残業から帰ってきた社会人みたいだが、ここがチャンスだろう。


「お疲れ様です。良ければ、明日は私と一緒に出掛けませんか?」

「サレンちゃんと?」


 怠そうに顔を上げたミリーさんは首を傾げる。

 

「私一人では外に出られないので、折角ならと思いまして。それに、あの夜と同じように、もう一度ミリーさんと話し合いたいので」

「ふーん。サレンちゃん的には、やっぱり反対なの?」

「ミリーさんの意思を、尊重したいとは思っています」


 あの夜にミリーさんにも言った言葉だが、これはイノセンス教の教義を汲んでのところが大きい。


 ミリーさんという存在は、世間一般的に言えば化け物の類だろう。


 それは本人も自覚している。


 そして俺はそんなミリーさん以上に化け物というか、まともとは程遠い存在なのだが、流石に全てを話せば頭を疑われることになるので、上手く誤魔化していく必要がある。


 まあお互いが化け物な事は一旦おいておくとして、ミリーさんの様な気心の知れた存在は俺には必要だ。


 だから、今回はもう少し踏み込んでいく。


「ですが、あの日から色々と考えましたが、やはりミリーさんには私達の傍に居て欲しいと思っています」

「こんな中身がおかしい女の何所がそんなに良いのかねー?」


 ……この反応は、悪くないな。


 多分ミリーさんも無意識なのだろうが、言葉のイントネーションがいつもと変わってしまっている。


 黒翼騎士団のミリーさんとしてではなく、素としてのミリーさんの反応なのかもしれない。


 詰めるか。或いは一旦引くか……。

 

「そのお話はまた明日にしましょう。今話すよりも、その方がきっと良いでしょうから」

「まだ一言も明日一緒に行くなんて言ってないのに、サレンちゃんは図太いねー」

「ですが、明日は一緒に来てくれるんでしょう?」

「はいはい。シスターさんの護衛はこのミリーさんにお任せをー」


 やる気無さそうに投げやりに言い放ってから、ミリーさんは再び枕に顔を埋めて寝始めた。


 やれやれだが、ライラを誘って食堂に夕飯を食べに行くとしよう。


 それと、明日ミリーさんと一緒に出掛けることを納得させておかなければならない。


 ふて寝を始めたミリーさんに一応一言だけ声をかけてから部屋を出て、ライラとシラキリの部屋の扉を叩く。


 因みにシラキリとアーサーは商売のついでに、情報のため夜の酒場を転々としているため、帰りが少し遅い。


 よって、まだ帰ってきていない。 


「むっ、シスターサレンか。どうした?」

「良ければ夕食を一緒にどうかと思いまして」

「構わぬが、ミリーさんはどうした?」

「ふて寝してしまっています」


 ため息をついたライラは「馬鹿者が」と一言言ってから、準備をするから少し待ってくれと言った。


 ライラは酒の件でふて寝していると思ったのだろうが、本当は俺に言い包められてふて寝している事は話さなくて良いだろう。


 これ以上ライラからミリーさんへの好感度が下がる事はないだろうし。


「待たせたな。それでは行こう」

「はい」


 部屋から出てきたライラは、グローリアの中で一番小振りの剣を携えていた。

 

 宿屋とは言え、武器を持たない何て選択肢は無い。


 いや、これが安全な場所ならば一々持たないのだろうが、一応俺達はお尋ね者なので、念には念を入れた方が良い。


 一応俺も、ポーションと鉄扇を一振り隠し持っているし。


 そう言えば、グローリアの中で一番小さいのは風の魔導剣だったな。


 風の魔法ならば火力は低いが殺傷能力は低く、いざとなれば逃げることも出来る。

 

 短いと言ってもショートソード程はあるので、ライラならば問題無いだろう。


 三階から一階のロビーに降りて、隣接している食堂に入る。


 此処の食堂はバイキング方式ではなく注文式となるので、いつでも出来立てを食べる事が出来る。


 メニューも結構豊富であり、なんとミリーさんのおかげでタダである。


 正確には経費となって後々アランさんに請求されるらしいが、俺の知る事ではない。


 生きて帰ったら、散々怒られてもらうとしよう。


「ほう。今日はワインを頼むのだな。てっきりまた聖酒をのむと思ったんだがな」

「先日ミリーさんから沢山戴きましたから、たまにはライラに付き合おうと思いまして」


 部屋でミリーさんと酒盛りした後に、一人でこっそりと街に出掛けて聖酒をそれなりに飲んだので、今日は久々のワインを選んだのだ。


 因みに聖酒とは、清酒……日本酒となる。


 一口に聖酒と一緒くたにしてしまっているが、結構種類がある。


 アオイと出会った酒場でも五種類ほどあったので、色んな飲み方を試していた。


 最後のお代わりをする前の奴は、アオイがいきなり現れたせいで、お代わりをしてから味わって飲んだ。


「そうか。流石に大丈夫だとは思うが、飲み過ぎぬようにな」

「ライラと同じく、今日は一杯だけにする予定なので、大丈夫ですよ」

「なら良いが、薬も取り過ぎれば毒となるものだ。あまり飲み過ぎぬようにな」


 身体の事を心配してくれているのだろうが、アルコールによって身体を壊すことはない。


 仮に壊したとしても、治すのは容易い事だ。


「それはいつも気を付けています。現にこれまで一度も、二日酔いになっていませんから」

「我としては、その事が不思議でならんのだがな……」


 少し遠い目をしながら、ライラはカツ丼を食べる。


 正直カツ丼とワインが合うとは思えないのだが、案外合うらしい。


 俺も焼き魚定食でワインを飲んでいるので、あまりライラの事は言えないのだが。


「ライラ。少しお願いがあるのですが?」

「何だ?」


 ミリーさんの件で動くと決めた以上、ライラにはお願いしなければならないことがある。


「この都市を離れる前に、一度大きな騒動が起こります。その時に、ライラの剣を貸していただきたいのです」

「……それは、これではない方か?」


 ライラは腰にある剣を俺に示し、それに対して俺は頷く。


 残っていたカツ丼をがっつかない程度に一気に食べたライラは、少しの間目を閉じる。  


 サクナシャガナを倒すだけならば、ルシデルシアの力だけで十分だろう。


 態々ライラの反感を買うようなお願いする必要は無い。


 だが、ミリーさんを助け、アオイ達を助けるためにはどうしてもグランソラスが必要となる。


「――分かった。我はシスターサレンを信じよう」

「ありがとうございます」

「なに。我が人として生きていけるのは、全てシスターサレンのおかげだ。理由は気になるが、どうせ話す事は出来ぬのだろう?」

「神託となるので、私自身も何ともで……ですが、悪い結果にはならないと思います」


 これから現れる神に対抗し、聖女であるミリーさんとアオイとついでにマヤを解放するため。


 改めて文として起こすと、中々インパクトがある。

 

 神から直接加護を貰った存在を聖女や教皇と呼ぶが、役職としての聖女や教皇も居るので少しややこしい。


 まあ役職持ちの方は関係ないが、この三人の聖女は揃いも揃って訳ありな連中だ。


「それだけ分かれば良い。何をするつもりかは知らぬが、我と同じく助けられる事を祈っておく」


 グラスに残っていたワインを統べて飲んだライラは、最後に口元を拭いてから「ご馳走様」とイノセンス教の祈りを捧げる。


 流石ルシデルシアの作ったグランソラスに認められるだけあって、カッコイイ奴だ。


 夕食を食べ終えた後も少しだけライラを雑談をして、折を見て部屋へと戻る。


 これで準備の内の一つが用意できた。

 

 明日から。明日からが勝負所だ。


 将来的に俺が楽をして過ごせるよう、頑張るとしよう。

 

 

 

ライラ「ところでデザートは食べるのか?」

サレン「聖酒のパフェを頼もうかと」

ライラ「シスターサレン?」(呆れた目)

サレン「冗談です。サバランを頼もうかと」

ライラ「シスターサレン?」(悲しい目)

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― 新着の感想 ―
サレンさんにとって友人と言っていい関係ってミリーさんだもんねえ シラキリちゃんやライラちゃんにはお世話になってるけど立ち位置的には保護者感あるし 色々片付いた後も是非美味い酒を酌み交わしてほしいもので…
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