表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/199

第180話:アオイとの密議

 アオイに教えたのは、八割方ミリーさんに教えてもらった事である。


 とは言ってもサクナシャガナの関係や、王国であった虐殺については省いてある。


 なるべく纏めると、魔王は確かに居るが別大陸にいて、普通に人類と共存していること。


 そもそも召喚を行うことは禁忌であり、切羽詰まった状態でなければ許可されることではない。


 それもあり、マーズディアズ教国は他国から白い目で見られている。


 また、大規模な戦いの準備をしているが、それは対魔王ではなく、対人間のものである。


 話の途中でアオイが神敵についての質問があったが、詳しく聞いたところサクナシャガナから神託があったそうだ。


 勿論俺としては心当たりしかなく、神敵がミリーさんだということは考えるまでもない。


 この事については少しややこしいことになりそうなので、それとなく誤魔化したのだが、少し失敗してしまったかもしれない。


 何せ、アオイからしたら俺こそが神託にあった、神敵にしか見えないだろうからな。


 突然目の前に現れ、同じ日本を知る者なのに教国は悪だと言われれば、怪しむのも仕方のない事だろう。


 俺自身の顔もどちらかと言えば悪人顔なので、輪を掛けて怪しい。


「アオイさんの立場では調べるのは難しい事ですが、遠くない未来に、勇者と共に戦場に駆り出される可能性があります。神殿内でもその兆候は見られませんか?」

「見られ……ます」

「私の場合は見ての通りでして、一応帰る方法を調べはしたものの、この世界で生きていくしかありませんでした。これまでの召喚者が帰れなかったからと、アオイさん達も帰れないと決めつけるのは早計かもしれませんが、大人がどれだけ汚いのかは知っているでしょう?」


 俺の言葉が信じられないとしても、これまでアオイが見て来た物が覆る事はない。


 信じ込ませるのではなく、真実だと思わせるのが大事なのだ。


(ところで、サクナシャガナの聖女であるアオイって、サクナシャガナを殺した場合どうなるんだ?)


『ただサクナシャガナを殺すだけならば加護が切れるだけだと思うが、神喰で殺した場合は加護を通して魂を奪い取る可能性があるな。ただの信徒ならばともかく、聖女の加護とは特別なものだからな』

 

(その繋がりを切る事は出来るのか?)


『可能ではあるが、些か強引な手段だな。サクナシャガナが力を使い、アオイとサクナシャガナの繋がりが太くなったタイミングでアオイを神喰で刺せば、繋がりを切る事が出来るだろう』


(……それは剣先を刺すとかではなく、刀身までか?)


『勿論だ。多少痛いだろうが、直ぐに治せば問題あるまい』


 些かではなくてかなり強引な手段だと思うが、助けられない事もないのか。


 この事は黙っておいて、タイミングがあったら助けるとしよう。


 アオイには罪悪感を感じているが、アオイよりもミリーさんの方が大切なので、優先するのがミリーさんだ。

 

 アオイが俯いて絶望している間にルシデルシアとの会話を終えて、アオイに何を言ってやるか考える。


 そもそも赤の他人ならば、お節介を焼く必要は無いのだが、ルシデルシアやディアナの罪は一応三魂一体となっている俺の罪とも言える。


 ……訂正やっぱり言えない。


 悪いのはルシデルシアとディアナの二人だけだ。

 

「アオイさんは、どうしても元の世界に帰りたいのですか?」

「……はい。無理だと言われても、帰れるなら帰りたいです」


 今時珍しい子だが…………さて。


「教国に居ては帰る方法を調べるのは困難を極めるでしょう。教国から出るにしても、それが許される事はなく、外の世界に行くには厳しい現実が待っています。この世界は、子供だからと甘えられる程豊かではありませんので」

「……でも」


 帝国のホロウスティアだけはわりとしっかりしているが、それでもシラキリくらいの子供が働かなければ生きてはいけない。


 そして働いたからといって、腹一杯飯を食えるわけでもない。


 シラキリも最初の頃は、結構痩せ細っていた。


 発展途上国の骨と皮って程酷くはなく、健康に問題が出る程ではないと言っても、日本ではあまり見かけるものではない。


 生きていくだけでも、中々ハードだ。

 

「アオイさんの境遇には同情します。しかし、変わってしまった現実を受け入れ、現状をしっかりと把握してみてはどうでしょうか? 今のアオイさんはとても疲れているように見えます。あまり寝られていないのでは?」

「こんな……こんな所に突然連れて来られて、聖女だ何だって言われて……普通にしていられるわけないじゃない……」


 声が震え、今にも叫びだしそうな想いを何とか押し殺して、アオイが俺を睨む。


 身体の事はともかく、元の世界についてはキッパリと諦めがついているので、アオイのどうしても帰りたいって思いにはあまり共感できない。


 大人として情けないのかも知れないが、諦めることも必要なのだと理解してしまっている。


 上司から振られる無茶な仕事や、部下の失敗を残業して挽回する。


 怒ったところで仕事がなくなるわけでもなく、無駄なことに思考を割くくらいなら、ありのままを受け入れる方が建設的である。


 ポジティブに言えば、立ち止まる暇があるなら前を向いて歩けって事だ。


「そうですね。未知とは恐ろしいものであり、受け入れろと言われても、受け入れられるものではありません」

「……サレンさんはどうして受け入れられたんですか?」

「あまり知り合いが居なかったのもありますが、この世界での出会いにも、恵まれたのが大きいですね」


 ゆっくりと、相手の心に寄り添う様にして話しかけることで、アオイが持ち直すように仕向ける。


 自棄になられても困るので、少しずつ俺は味方だと刷り込んでいく。


 怪しい人物から、自分を心配してくれる優しい人までランクを上げてしまいたい。

 

「出会い……」

「はい。それと、この世界は過去に転移者がそれなりに居たので、日本に似ている部分も結構あります。そのおかげで、最初こそ辛い生活でしたが、今は楽しく過ごさせていただいています」


 現在進行形で世界の危機だったり、ミリーさんの命がかかっているので、楽しい状態では全くないのだが、ここで不安にさせる必要はない。 


 それに、最初の頃は本当に大変だった。


 金はないし、家も不法占拠した廃教会。


 ミリーさんには疑われ、ダンジョンではミノタウロスやペインレスディメンションアーマーに襲われたり。


 そして大体の事件の真相を辿っていくと、ルシデルシアに辿り着くおまけ付きだ。


 何度結局ルシデルシアが悪いって言ったのか、もう覚えていない。


 多分これから先も言う事になるだろう。


 世界を巻き込んだ自殺をしようとしたのだから、まだまだ前科が沢山あってもおかしくない。


「今日はこの辺にしておきましょう。アオイさんも色々と考える事があるでしょうし、直ぐに答えが出るような問題ではありませんから」

「あの……いつまで聖都に居るんですか?」

「予定では後二週間くらいですね」

「そう……ですか」 


 今も一週間が十日ってのには慣れないが、日にちと曜日を覚えるのはこの世界の方が楽だろう。


 曜日については完全に覚えきれていないが、ルシデルシアに聞けば答えてくれるので問題ない。


 日にちの事はおいといて、アオイには考える時間を与える事で、選択を自分でさせる。


 人に与られた選択は裏切りや不和を呼ぶ物となるが、自ら選んだ選択は選んだ本人の糧となる。


 アニメとかで四天王が裏切った後に、主人公たちと何やかんや仲良くなれるのも、裏切った本人が自分で選び、後悔していないからだ。

 

「また三日後に、同じ場所。同じ時間でどうでしょうか? 何でしたら、勇者の方も一緒で構いませんよ。それと、ここでの会話を外で話すことはオススメしません。どうやら、私が来た時期は悪かったみたいですからね」


 最後に神敵の件で釘を刺しておく。


 下手に神託でサクナシャガナや、教皇などに情報が洩れると、ややこしくなる可能性がある。

 

 いや、サクナシャガナにだけは知られるのはありかもしれないな。


 今回の場合、俺達がアクションを起こすより、先にサクナシャガナが行動を始めてくれた方が、動きやすくなる。

 

 一種の国家転覆。或いは神殺し。


 なるべく目撃者は少ない方が良い。


 最後に残っていたココアを飲み干し、しっかりと料理も平らげておく。


 油物ばかりだと少しだけ胃が心配になるが、若いこの身体ならば問題ない。

 

「はい。また三日後に……」

 

 落ち込んだままのアオイだが、それでもまた俺と会う事を約束してくれる。


 出来れば次会う時も勇者なんて呼ばずに、二人で話し合いたいものだ。


 勇者……帰りたいと思ってくれているのならば、上手く聖女を誘導して馴染ませることも出来るかもしれないが、俺ツエー系だったらこの上なく厄介だ。


 もし三日後に勇者が来なければ、そっち方面も色々と探りを入れてみるとしよう。


 既に種は蒔いてあるからな。

 

ルシデルシア「余が悪いのではなく、一々反抗してくる奴が悪いのだ」

サレン「いや、どれだけ説明を聞いても、お前が悪いだろ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ