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第177話:第二回聖都滞在会議前編

「さてさて、全員で集まるのは一週間ぶりだね」


 一人寂しくニート生活を送る事一週間。


 飯を食べるために、食堂に行く以外は部屋でダラダラとしていたのだが、俺については何も問題は起こらなかった。


 宿屋で殺人事件が起こるとか、誰かの荷物が盗まれるとか、爆弾が仕掛けられたりなんて事は、一切起きなかった。


 強いて言えばミリーさんと部屋で酒を飲んでいたら、ライラが突撃してきた事位だろう。


 ちゃんと量を抑えて飲んでいたので、小言を少し言われただけで済んだ。


 ミリーさんが言っていた通り、聖都の酒は中々美味い。

 

「先ずは私から報告します」


 最初にアーサーが報告か。


 シラキリと商売をしていた訳だが、聖都内をあちこち動き回っていると聞いただけで、何を売っていたかをこれまで何も聞いていない。


 一体何を話してくれるのだろうか?


「商売をしながら街の中を見回ったのですが、妙な緊迫感があり、食品や武器などの商品の流れが活発化している様に感じました。まだ初期の段階ですが、戦争の準備をしていると思います」


 そう言えばマヤ達と会ってから訪れた街で、雰囲気が物々しいとか言っていた気がするな。

 

 元凶を辿って行けばこの聖都になるのだし、懸念していた通りということか。


 だが、おかしいと言えばおかしい話だ。


 神がその力を振るうならば、人間の兵力なんていらないはずだ。


 現に俺達もこんな少人数で動いて公爵に喧嘩を売ったのだし、国を挙げてなんて無駄でしかない。


 復讐相手がディアナだと考えるならば、ただ世界を崩壊させたいのではなく、ディアナが作り上げたものを無茶苦茶に壊したいから、態々戦争を起そうとしているのだろうか?


「また、軽く話を聞いた所、魔物の被害が出ているため、備えていると答えました。それ自体は嘘ではないみたいですが、どの宗教も備えているので、いささか過剰に見えました」

「なるほどねぇ。帝国でも事を起していたし、戦争を起こす可能性は確かにあるかもね」

「これまで見て来た感じですと、教国が帝国に勝てるとは思えないのですが、どうなのでしょうか?」


 何も知らない体でミリーさんに聞くと、見るからに嫌そうに顔を歪ませる。


 俺自身が宗教関係者なので、どれだけ宗教が厄介なのは分かっている。


 だが、一応ミリーさんに話してもらいたい。


「国民の数で言えば教国の方が少ないし、単純な兵力でも教国の方が低いんだけど、色々と厄介な事があるんだよねー。教国は国の生い立ち的に、侵略による戦争は一切出来ないんだけど、世界の危機だったり、聖地を手に入れるための聖戦だけは別なんだ。うんで、教国がやろうとしているのはこの聖戦だろうね。この場合、マーズディアズ教国に関係する全ての宗教に出征義務があるんだ」


 宗教の関係者って事は、他国に居る人間も戦争に赴かなければならないのか。


 これの嫌な所は、平和な期間が長ければ長いほど、聖戦の時の影響が大きい所だろう。


 どれだけの信徒が居るのか分からないが、他国では物流が滞り、食料の生産にも影響が出てくるはずだ。


 宗教を取るか、国を取るか。何ならば殺し合いに発展する可能性もあるだろう。

 

 まあ問題はこれだけではないのだが。


「烏合之衆なんて恐れる事はないのかもしれないけど、加護がある以上そうも言えないんだよね。宗教次第ではただの一般人ですら、騎士を殺せる手段を手に入れる事が出来る。そう考えれば、どれだけ厄介なのか分かるでしょ?」

「そうですね。イノセンス教も治療についてはかなりの物ですからね。それが聖戦だからと無闇に使う事になった場合、凄まじい事になると思います」

「うん。サレンちゃんの場合はそれだけじゃないんだけどね」 


 ふとミリーさんから真顔でマジレスを貰ってしまった。


 ミリーさんが言いたいのは、俺の中に居るルシデルシアの事だろう。


 SSSランクの魔物を片手間に倒し、俺は寝ていたので実際は分からないが、片手間に数千人規模の人間を殺している。


 何なら今のルシデルシアは昔よりも強いらしいので、多分本気になれば簡単に世界を滅ぼせるだろう。


 本当に心を入れ換えてくれて良かった。


「情勢的な事は分かったし、今度は私からの報告だよ。調べたのは召喚された勇者と聖女。それからマーズディアズ教についてだね」


 食堂で飯を食べている時に、勇者や聖女の話は軽く聞いたが、思っていた通り子供と呼べる年齢らしい。


 日本人ならば若く見られているだけかもしれないが、小説とかで召喚されるのは大体中学生や高校生だ。


 流石に大学生や大人ならば、自分達の置かれている立場のヤバさに逃げ出していると思う。


「先ずは名前だけど、聖女の方がアオイで勇者の方がユウトだね年齢は不明だけど、二十歳よりは間違いなく下だよ。見た目は二人とも黒髪で、民衆にも結構人気があるね。強さや能力については流石に不明かな」

「補足だが、勇者の方は対魔物については申し分ないらしいが、対人については苦手なようだ。聖女の様子を見るからに、召喚される前の世界はかなり平和的な場所だったのだと思う」


 俺みたいに精神が変わってしまったならともかく、ただの日本人にとって殺人は禁忌みたいなものだ。


 大量の血とか、内蔵なんてのも平和な日本人にとってはかなり刺激が強い。


 今思えばシラキリと初めて会った時も、慌てずに対応できたのは、ルシデルシアとディアナのせいで精神性が変化していたからだろう。


 ナイフに刺された人を見れば、普通は慌てるはずだ。


「もしも戦うことになったら、油断を誘って、後ろから一撃が良いだろうね。正面からだと何をしてくるか分からないし」

「一応この世界の被害者なので、あまり敵対はしたくないですね」

「被害者でも、敵対したからには戦うしかなくて、立場的に生かすことは出来ないからね。加護が無くなれば話は別だけど、まずありえないからね」


 全くの赤の他人ならば俺も気にしないが、一応関係者だからな。


 おそらく戦うことは避けられず、立場的に殺すしかないだろう。


 サクナシャガナも裏切られないように、何かしらしているだろうし。


「一週間で集まった情報はこれ位だね。次はサレンちゃん関係だね」


 情勢や聖女達についてはここで一区切りか。


 もっと詳しく知らベているのだろうが、話す程でもない情報もあるのだと思う。


 あくまでも今回の報告は必要最低限の物なのだろう。


「ホロウスティアの現状にも関係があるんだけど、例の冷戦は枢機卿の一人が主導で動いているみたいだね。そしてイノセンス教の噂を聞いて、嫌がらせを始めたみたい」

「噂なのでまだ整合性は取れていないが、他の二ヵ国に根回しもしている可能性が高い。何故イノセンス教を狙ったかについてはまだ不明瞭だが、ホロウスティアでの地盤を整え、戦争の足掛かりにするために三つ巴の争いが起きているのだろう」

「マーズディアズ教国が戦争を始めた場合、他の二ヵ国も何かしらの反応を示さないといけなくなるから、マーズディアズ教国としてはどの勢力が勝ったとしても、そこまで損は無いんだろうね」

 

 一応三つとも別の国ではあるが、サタニエル教国はマーズディアズ教国と一緒だし、二対一になるならばアレスティアル教国も無視はできない。


 そういう事だろう。


 仮にマーズディアズ教国が帝国に攻め入る前に、サタニエル教国と一緒にアレスティアル教国へ攻め入って併合すれば、実質的に一国となるなんて事も起こり得る。


 仮に帝国が攻め入る場合も、三国は一緒になって帝国に抗うだろう。


 自分で作っておいてなんだが、宗教とは大きくなればなるほど厄介になるのだ。

 

「大まかな所はこんな感じだね。詳細は神殿に忍び込まないと分からないけど、中々難しそうなんだよねー」

「そんなにですか?」

「それが、衆人が入れる場所までは良いんだけど、一定より奥は結界だったり、鍵付きの扉があるみたいなんだよね」


 結界か。鍵位ならばミリーさんならどうにかなっても、流石に結界を誤魔化すのは難しいか……。

 

 壊すだけならばライラが居ればどうにかなるだろうが、壊せば間違いなく気付かれるし、警備が厳重になってしまっては街中で動くのにも支障をきたす事となる。


「結界とは、ホロウスティアに張られている様な奴ですか?」

「あれ程高度な物じゃないけど、面倒な物なのは確かだね。専門じゃないから解析はまだ終わってないけど、壊すならともかく、忍び込むために穴を開けるのは私とライラちゃんじゃあ難しいかな」

「教国なだけあり、加護を用いて作られた結界みたいだからな。見回りも居るため、調べるのも一苦労となる。いざとなれば壊して突入も選択肢に入るが、我等の目的を考えれば今の情報だけでも価値があると言えるだろう」


 今日の報告を纏めれば、教国が戦争の準備をしている可能性があり、勇者も魔物が相手とは言え、戦いの訓練をしている。


 断定的ではあるが、ホロウスティアの冷戦は戦争の準備をするための可能性が高い。


 更にエリクサーを作れるマヤを呼び寄せた事により、神力を回復できるようになれば、奇跡も魔法みたいに沢山使えるようになる。


 これだけあれば情報としては十分だろう。


 首謀者や黒幕については、俺とミリーさんは知っているし、表向きの情報はこの程度集まれば大丈夫だろう。


 

サレン「(話を聞くだけだし、暇だなー)」

サレン「(まだまだ飲んだ事の無い酒もあるし、部屋で飲みたいなー)」

ルシデルシア「真面目にしろ」

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