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第175話:拠点の宿屋

「確認しましたので、どうぞお通り下さい」


 並び始めてから一夜明け、更におやつ時を過ぎた頃。


 やっと門を潜る事が出来た。


 人が居なければ色々と出来る事もあるが、こうも並んでいては下手なことは出来ず、だらだらと歩く事しかできなかった。


 大半は荷台の中に居たのだが、何とも肩が凝った。


 まあ聖都に入れば、これまで以上に窮屈な日々を過ごさなければならないのだがな。

 

 どうにか抜け道を考えたので、ライラみたいに一日中引きこもっていなくても大丈夫だと思う。


 個人的にこんな事件に巻き込まれてなければ、酒でも飲みながら一日部屋に閉じ籠っていたいけどな。


「やっと中に入れたね。門の近くだと危ないし、先ずは移動しちゃおうか。向こうはそのまま進むみたいだからね」

「そうですね。案内をお願いしますね」


 長々と並んで居るだけあり門の近くは物凄く混雑している。


 マヤ達とは昨日の内に別れを済ませ、そのまま正面にそびえる神殿へと向かって行った。


 これまでの護衛の報酬として、秘密裏にエリクサーを貰ったが、見た目は俺が作っている加護を込めたポーションとほとんど同じだ。


 ルシデルシアに確認した所、回復効果だけならば、俺の加護有りポーションはエリクサーと一緒だと教えてくれた。


 これはディアナがおかしいのか、エリクサーのもう片方の効果が凄いのか分かり難い。


 まあゲームで言えば、ポーションとエーテルの回復を一度で済ませる事が出来るのがエリクサーだ。


 更に万能薬の効果もあるのだから、三本の所を一本で済ます事が出来るのは大きい。


「聖都か……名前の通りの街並みだが……」

「なんか嫌な感じがします」


 ほとんどの建物が白で統一され、目に見える半分以上の人が神官服と思われるものを着ている。


 ホロウスティア程ではないが、地面も舗装されていて、砂埃もない。


 若干日本よりの感じだが、過去にも召喚されたり転移してきた奴が居るのだから、許容できる範囲だ。


 和洋で済んでいるので、落ち着いた雰囲気がする。


 しかし、サクナシャガナが居る関係なのか、何となく嫌な感じがする。


 アーサーとミリーさんは何も感じていないみたいだが、これはルシデルシアのせいだろう。


 正確には、ルシデルシアが居るのが悪いのだ。


 予想ではサクナシャガナは、ディアナに殺意を持っている。


 殺意を向けられれば、普通ならば嫌な感じとなるはずだ。


 そしてシラキリは勇者として繋がりがあり、ライラのグランソラスはルシデルシアが作ったものだ。


 辿っていくと、どれもディアナへと辿り着く。


 アーサーとミリーさんが何も感じないのは、繋がりが無いからだろう。


 サクナシャガナ側は俺達には気付いていないとしても、この聖都に張り巡られた、結界に込められた殺意が俺達に届いているのだ。


「三人揃ってとはまた妙だけど、体調とか大丈夫?」

「大丈夫です。あくまでも違和感程度ですから。そのうち慣れると思います」


 例えるならば、後ろから視線を感じる程度なので、無視しようとすれば出来る程度だ。


 問題はない。


 大通りの少し早い流れから抜け出し、脇道に逸れる。


 一応馬車が二台並んで通れるくらいの道幅だが、少し狭い感じがするな。


「えーっと、確か此処を曲がった先に……おっ、あの宿屋だね」 


 丁度神殿の側面辺りまで街を回った所で、ミリーさんが声を上げる。


 国境の街では黒翼の騎士が居たので、そのまま拠点として使う事が出来たが、聖都では協力者は居ても、流石に黒翼の人員は居ない。


 家を借りるのは流石に難しいので、此処では宿屋暮らしとなる。


 宿屋は他の建物よりかなり大きく、高級そうに見える。


 金は大丈夫……だったな。


 国境の町で稼いだ分は勿論、ライラとシラキリが稼いだ金がまだまだ沢山ある。


 ホロウスティアでも狭い土地であれば、建物付きで買えるだろう。


 宿屋の前でミリーさんが操る馬車を止めると、 店員が馬車に寄って来た。


「どうも。お泊りのお客様ですか?」

「そうだよ。ちょっと遠い所からきてね。夜中に出てきたから、クタクタでさあ。二人部屋を二つと、一人部屋が一つだけど、空いてる?」

「空いていますよ。夜という事でしたら、お隣の街からですか?」

「いや、山を一つ越えてだよ」

「承知しました。馬車置場に案内しますので、ゆっくりとついてきてください」


 ……多分今のやり取りが、暗号と言うか、符丁なのだろう。 


 門の状況を知っていれば夜中からなんて言葉は出てこないし、そこからの店員の返しはおかしくはないが、あの状況を知っているならば、不正に入ってきたのかを疑うレベルだ。


 そして仮に誰かがミリーさんと同じやり取りをしようとしても、符丁を完璧に合わせる事は出来ないはずだ。


 あの黒翼だから、色々と工夫を凝らしている筈だし。


 後でミリーさんに聞いて見るとしよう。 


 馬車を置いてから宿屋に入り、ミリーさんが簡単なやり取りをした後に、三つのカギを貰う。


 見た限りお金を払っていないようだが、経費か何かだろうか?


 帝国と言えば悪名高いと相場だが、今のところ一番好感が持てている。


「とりあえず部屋に行こうか。集まるのはアーサー君の部屋で」


 ミリーさんから渡されたカギと、案内板を照らし合わせた所、最上階となる三階の一番端となっていた。


 もう一室はその隣で、アーサーの部屋は階段の隣となっているが、一人部屋にしては少し広そうな感じに見える。


 まあ間取りはともかく、部屋は間違いなく作為的な物だな。


「部屋割りはどうします?」

「そうだね……出来ればシラキリちゃんの意を汲みたい所だけど、今回は私とサレンちゃんが一緒で宜しく」

「はい?」


 シラキリがミリーさんにちょっと危ない目を向けるので、頭を撫でて落ち着かせる。


 ミリーさんからの提案だが、無論裏がある。


 正確にはシラキリのためだと言って、俺と部屋を分けるように協力をお願いしたのだ。


 分けたと言っても隣の部屋だし、時間がある時は一緒に居るだろうが、ミリーさんと少しでも二人きりになれる時間を増やすには、この方法しかなかった。


 部屋も家族用の大部屋もあるのだが、わざわざミリーさんに打診をしておいた。


 シラキリのためというのも噓ではないが、それ以上にミリーさんのためというのが大きい。


「確認だが、二人で隠れて酒を飲むためなんて理由ではないだろうな?」

「勿論さ。今回はどちらかと言えば、サレンちゃんが主体の仕事だし、宗教関係はサレンちゃんと話し合うのが一番話が早いからね。ついでに言えば、基本的にほとぼりが冷めるまで隠れているのが此処に来た理由だし、ライラちゃんは私とずっと部屋に居たい? ついでにシラキリちゃんも?」

「……」

「……」


 ミリーさんの質問に二人揃って無言となり、そっと目を逸らす。


 個人的にはミリーさんとずっと一緒に居ても苦ではないのだが、やはり二人はホロウスティアに居た頃に色々とあったのだろう。


「その反応は酷くない?」

「自分の胸に聞いてみろ」

「強いことは認めます。強いことは」


 百歳以上のおばあちゃんに対しての十代の発言がこれか……人望とは得るのは難しいのに、失うのは簡単なようだな。


 日本でも痴漢の冤罪で失ったものは、基本的に返ってこないとニュースで見た記憶がある。


 ミリーさんも出会い自体は問題なかったが、きっとダンジョンで頭上からスライムを落としてきた時点で、全ては決まったのだろう。


 正直、ミリーさんの味方をすることは出来ない。


 だがさっさと話を進めたいので、割って入るとしよう。

 

「ここで話すのは一旦止めて、先ずは部屋に向かいましょう。荷物も置きたいですし、汗も流したいですから」


 ロビーでダラダラとしているが、一応此処は敵地だ。


 あまり情報を、不特定多数が居る場所で話すのは馬鹿のやる事だ。


「そうだな。此処では、他の客にも迷惑になる。シラキリ、良いな?」

「……はい」


 渋々と返事をしたシラキリと手を繋ぎ、三階にある部屋へと向かう。


 ミリーさんと部屋に入ると、部屋はとてもシンプルであり、日本のホテルによく似ている。


 電化製品ではなくて、魔石を使った家電が置かれているが。いや、家電って呼び名はあっていないが。


 大きな宿屋なだけあり、部屋にはお風呂やトイレは勿論、小型ながら冷蔵庫もある。


「結構広いでしょ?」

「そうですね。広々としていて、過ごしやすそうです」

「貴族のスイートルームには負けるけど、色々と揃っているから長期間の滞在でもゆっくりと出来るのさ」


 廃教会の自室に比べれば、どこだってスイートルームみたいなものなので、最低限布団が柔らかければあまり文句はない。


 いや、出来れば清潔な方が良いな。


 廃教会はあんなんでも、しっかりと掃除をしているため、ボロくても汚いわけではない。


 ベッドはいまだに固いけど。


「快適そうで良かったです。それでは荷物を置いて、アーサーの部屋に行きましょう」

「りょうかーい」


 



タリア「良かったのですか?」

マヤ「はい。私はサレンさんを信じますす、ですから、タリヤも……」

タリア「心得ています。諦めるなと言いたいのでしょう?」

マヤ「はい。ロイとコングも、無理をしないで下さい」

ロイ「はい」

コング「勿論です」

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― 新着の感想 ―
ついにミリーさん籠絡タイムが始まる??
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