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第172話:けものみち ガタガタ揺れて 尻跳ねる

「戻ったよー」


 山なだけあり肌寒い朝をマヤと一緒に、焚き火に当たって過ごしていると、ミリーさんが葉っぱ塗れになりながら帰って来た。


 本当に夜通しとは……お疲れ様である。


「お疲れ様です。何か温かい物をお淹れしましょうか?」

「……それはツッコミ待ちかなにかかな?」 

「私も何と言えば良いか分からず……」 


 疲れていてもキャラを忘れないミリーさんに、困惑したままのマヤが乗っかる。


 昨日の夜にライラを抱えて寝たわけだが、俺は前回ライラと一緒に寝た後に起きた事件を忘れていない。


 今回は頑張っているライラに対してのご褒美の意味もあって一緒に寝たが、それだけが理由というわけではない。


 まあライラと寝た結果、今みたいな状態になっている。


 簡単に言うと、子泣きシラキリである。


 流石に泣いてはいないが、両手両足でしっかりと俺に抱きついている。


 前回の様にライラへ敵意を向けてはいないので、進歩はしているのだが、寂しさが爆発してしまったのだろう。


 そんな様子のシラキリを見て、タリアは微笑ましいものを見る顔になり、マヤは困惑していたのだ。


 因みにライラは起きてから恥ずかしくなったのか、荷台に籠っている。


 何か起きれば直ぐに動けるだろうし、今はそっとしておいてあげている。


 一応この場にアーサーがいるので、襲撃があっても耐えられるしな。 


 とりあえずシラキリに抱き着かれたまま立ち上がり、昨日アーサーが作ってくれた窯でお湯を沸かす。


 ミリーさんならばホットワインなんかも良いかもしれないが、流石に朝から飲むのはあまり良くない。


 正確には俺達だけならばともかく、マヤの前で朝から酒を飲むのは大人として駄目だろう。


 昨日の夜の料理中に、こっそり酒を飲んでいた俺が言えた事ではないのだが。


 そんな訳で緑茶を淹れてミリーさんに渡す。

 

「どうぞ」

「どうもねー……はぁ、温まるわー」

「帰って来たか。首尾はどうだ?」


 ミリーさんが緑茶で温まったタイミングで、やっとライラが馬車から降りてきた。


 顔も赤くなく、平常心を取り戻せている。


 シラキリとだけは視線を合わせないようにしているけど。


「辺り一帯を見たけど、大きな獣道が一本だけあって、そこなら馬車でも通れそうだね。途中で山道にも合流できそうだから、ロスもほぼ無さそうだよ」

「魔物の気配はどうでしたか?」

「危険なのは多分いないね。大きなマーキングもなかったし」


 暗殺者達の心配もあるが、コングさんの言うと通り魔物の心配もある。


 街道ではそうそう出会わないが、こんな山の中ではたまに魔物が襲撃してくる。


 まだ人里近い場所ではあるので、そこまで強いのは現れない。


 なら何でコングが心配しているかだが、見通しが悪ければ奇襲される可能性があるからだ。


 向こうの馬車は普通の馬車なので、馬も俺達のとは違い普通である。


 音には敏感であり、血の匂いとかもストレスとなる。


 仮に怪我をした場合、治したからと元通り働いてくれるとも限らない。


 車ならばガソリンがなければ意味がない様に、馬車には馬が居なければ意味がない。


 なので、馬を守ると言うのは一番重要であると言っても過言ではない。


 最悪騎乗して移動も出来るからな。


「それなら安心出来そうですね」

「流石に疲れたから私は寝るよ。一時間したら起こして」

「分かりました」

 

 ミリーさんが帰って来たから即出発……とは流石にならない。

 

 流石に夜通し働かせておいて、そのまま道案内までさせるのは酷と言うものだ。


 一時間位ならば、片付けや準備をしていればあっという間に過ぎてしまうだろう。


 竈はアーサーが魔法で土へ戻し、料理器具を水で洗ってから馬車へとしまう。


 幸い食べ残しはないので、使った水はライラに蒸発してもらい、灰は全て埋める。


 文明の利器は地球に比べればまだまだだが、魔法があるおかげで楽が出来る。


 これはこれで良い文明だ。






1 




 

 

「いやー、待たせたね」

「いえいえ。それではよろしくお願いします」


 約束通り一時間でミリーさんを起こし、先導をお願いする。


 因みにシラキリは準備が終わったタイミングで降りてもらい、マヤ達の馬車に帰ってもらった。


 まだ少し耳が萎れていたが、シラキリは出来る子だから大丈夫だろう。


 向こうではそれなりに上手くやっているようだし。

 

「りょうかーい。それじゃあ行ってくるね」


 ぴょんという言葉が似合いそうなジャンプで、ミリーさんはマヤ達の馬車まで跳んで行く。


 それからしばらくしてから馬車が動き出し、俺達の馬車も後ろをついて行く。


 山なので結構凸凹しているが、揺れはあまりない。


 流石に文字を掛ける程ではないが、本を読む程度ならば問題ない揺れだ。


 もしかしたら、下手な車よりも振動がないかも知れない。


 科学力は下でも、技術力まで下ではないと言える。


 まあドワーフがいるのだし、ライラの魔導剣を作れたりするので、技術力については疑っていないが。


 それなりに快適な揺れを堪能していると、急に揺れが酷くなってきた。


 どうやら、ミリーさんの言っていた獣道に入ったのだろう。


「揺れるとは思っていたが、かなり酷いな」

「そうですね。此方でこの揺れですから、向こうはもっと酷いのでしょう」


 床に毛布を敷いたので一応座っていられるが、この揺れでは尻の割れ目が更に増えてもおかしくない。


 昔のサスペンションがまったく無い軽トラックに乗っている気分だ。

 

 流石にこの揺れでは何もすることは出来ず、寝るなんて事も出来ない。


「ミリーさんと訓練をしていますが、調子は戻りましたか?」

「調子自体は問題ない。それどころか、ホロウスティアに居た頃より良くなっているな。グランソラスも前以上によく馴染むように感じる」

「グランソラスの事を聞いていたので心配でしたが、何もないなら良かったです」

「一時は魔力の巡りが悪くて四苦八苦していたがな。グランソラス自体あまり使う気は無いが、これからも問題なく使えるだろう」


 過去のルシデルシアは普通に使っていただろうが、グランソラスの火力を考えれば日常的に使って良い物ではない。


 あの解放をしなければ一応ただの剣なのだろうが、ルシデルシアの言っていた通りなら魔力やら魂やらを奪う魔剣である。


 そしてそんな剣が勇者の使っていた剣である。


 勇者の剣と言えば神やら精霊の加護を受けた剣ってのが相場だが、まさかの魔王から貰った剣である。


 強力な事この上ないとは言え、勇者の使う剣として如何なものだろうか?


 それにしても……。

 

(ライラはグランソラスが馴染んだと言っているが、問題ないのか?)


『さてな。神喰が主として定めたのならば、問題ないだろうとしか言えん。まあ最悪の場合は死ぬだろうが、身体さえ無事ならば手段があるから気にしなくても良かろう』


 最悪の場合が本当に最悪だが、何とかなるって言うならばそれを信じるとしよう。


 どうせ俺では何もできないし。


「体調が悪くなったりしたら直ぐに言って下さいね。出来る限り治せるように努めますので」

「ふっ。その時は頼むとしよう。まあ、今も少々辛いものがあるがな」


 木箱が倒れる程ではないが、獣道に入ってからずっと馬車はガタガタと揺れたり跳ねたりしている。


 三半規管が丈夫だとしても、辛いものは辛いだろう。


 俺も気持ち悪くはないが、単純に辛いものがある。


「良かったら木箱で横になってください。私は大丈夫ですので」

「……そうだな。アーサーやシラキリも居るし、我が無理をする必要もないな」


 ミリーさんだけ名前を呼ばれていないが、ダンジョンの下層にでも行かない限り、護衛は一人居れば事足りる。


 多分一番劣っているであろうアーサーも、ガイアセイバーがある今ならば、ドラコンゾンビ程度軽く倒せるだろう…………いや、あいつは普通には倒せないんだった。


 でもアーサーならば、魔法で圧殺とか出来るかもしれない。


 ともかく、ライラが欠けたとしても戦力としては十分だ。


 それにいざとなれば俺が回復させてやればいい。


 車酔いも一種の状態異常の様なものだし、治す事は出来るはずだ。


 そんな訳でライラは例の木箱へと横になり、目を閉じる。


 あの中ならば揺れなんてあってないようなものだろう。


 さて、こんな揺れの中では演奏も出来ないし、日記を書く事も出来ない。


 ルシデルシアに頼めば寝る事も出来るだろうが、あいつの相手をするのは疲れるので、今はまだ寝たくない。


 折角だし、この揺れを利用して筋トレでもするとしよう。


 いくら身体能力が高いとは言え、身体を動かさなければ動かし方を忘れてしまう。


 しっかりと戦闘訓練を積んでいれば、もしかしたらペインレスディメンションアーマーの居る部屋へと落ちる穴を避けられたかもしれない。

 

 ……タラレバについては忘れるとして、揺れが収まるまでは暇なので、休憩まで身体を鍛えるとするか。

 

マヤ「シラキリちゃん。大丈夫ですか?」

シラキリ「はい、大丈夫です」

マヤ「寂しかったら言って下さいね」

シラキリ「はい、大丈夫です」

マヤ「……サレンさんから頂いたお菓子がありますが、食べますか?」

シラキリ「食べます!」耳がピーン


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うさぎはストレスかけると死んじまうでよ
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