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第164話:美味しいスパイス

 宿屋と言うよりは、ホテルと呼んだ方が適切な宿屋へと入り、部屋を手配してもらう。


 所謂スイートルームクラスの部屋を用意してもらったおかげで、俺達の方は女性で一部屋。アーサーだけで一部屋とたったの二部屋で済んだ。


 こんな部屋を用意できる時点で……いや、本人たちが白状するまでは、何も知らない振りをしておこう。


 それが大人としての優しさだ。


 荷物だけ置いてからロビーに戻り、マヤ達と合流する。


「お待たせしました」

「いえ、お願いしているのは私ですから。それでは行きましょう」


 護衛の二人の姿は見えないが、部屋で寛いでいるなんてことはないだろう。


 おそらく、外で馬車の点検や見回りをしているのかもしれない。


 命を狙われた後なんだしな。


 ロビーの隣にある食堂では丁度夕飯時という事も有り、結構な人が食事をしている。


 教国なだけあり神官の数は多いが、ホロウスティアの時ほどの敵意は感じられない。


 流石に何も知らない人の方が多いか。


 宗教によってはホロウスティアに進出していなかったり、国に従う気がない宗教も有ったりするだろうからな。

 

 大きなテーブルが運良く空いていたため、そこに全員で座る。


 シラキリだけは少々あれだが、マヤに聞いたところ一緒でも問題ないと


「サレンさんの宗教は、何か食べてはいけない物とかありますか?」

「何も無いですね。強いて言えば暴飲暴食を禁忌としています」

「そうなんですね。問題ないようでしたら、オススメがあるので私が料理を選んでも宜しいでしょうか?」


 オススメか……任せてみるのも一興か。


 何がなんだか分からないメニューが多いだろうし、下手に自分で選ぶよりは良いだろう。


 ミリーさん達に確認をすると、任せると言われたので、マヤに任せることにしよう。


「それではお願いします」

「分かりました」


 マヤが手を上げると店員が近寄ってきて、注文を聞いてくる。


 マヤは俺達に見えない様にメニューを指差し、全員の分を注文する。


 店員も何やら察したのか、復唱せずに頭を下げてから下がっていく。

  

「サレンさんって何歳なのですか? とても大人びいて見えるのですが?」

「十七歳になります」

「おや、そんなに若いんですね。てっきり二十代かと思っていました」

「タリアったら……その、私もてっきりそのくらいかと……」

「まあサレンちゃんの見た目じゃあ、十代に見えないよね」


 唐突に見た目と年齢ディスが始まったが、女性の見た目から年齢を察するのは困難だ。


 キャバクラ歴五年の俺でも、基本的に若いと思われる年齢を言って煽てるくらいしか出来ない。


 因みに年齢を指摘する時は相手が三十代だろうが何だろうが、とりあえず二十代位と言っておけば安牌だ。


 この場は軽く笑って誤魔化しておく。


「マヤさんのご年齢は?」

「私は十五歳になります。因みにタリアは私の四倍以上の年齢です」

「見た目はヨボヨボですが、中身はまだまだ若いつもりよ」


 マヤのボケに、タリアが柔らかい笑みを浮かべて乗っかる。


 こんな会話が出来るので、決して二人の事は嫌いではない。


 だが、それはそれこれはこれだ。


「つかぬことをお聞きするが、教国に属していない我々と一緒に居ても良いのか?」


 ライラのあまりにもストレートな質問を受けても、マヤとタリアは笑みを崩さない。


「属してないからと無下にするのは、コノハミヤ教の教義に反しますから。少しだけお話ししましたが、私達の宗教の加護は戦いに向いていません。そして、私達は人を助けることを日々の糧としています。それに、命の恩人に対して失礼な態度を取ることは出来ません」

「そうか。何とも崇高な宗教だな」


 納得するようにライラは頷き、少しだけ笑みを浮かべる。


 自然に笑っている様に見えるが、これは作られたものだ。


 相手の油断を誘うために、理解してますって態度を取っているのだ。


 俺でなければ、気づけなかっただろう。


「コノハミヤ教の事をお話ししましたので、良ければイノセンス教の事も教えていただけませんか? あまり他の宗教の方とお話しなんて出来ないので、お願いします」

「構いませんよ。お互いの事を知ろうとする事は、イノセンス教の教義にあることですから」


 さて、俺が話している間に料理も届くとは思うが、ここら辺で探りの結果を聞いてみるとしよう。


 俺と相手の距離が近ければっていう制約はあるが、ルシデルシアは色々と調べることが出来る。


 シラキリが勇者って事に気付くのにはかなりの時間が掛かったが、あれは元がディアナの能力のせいだ。


 自分の匂いは自分では分からないのと同じ理論で、違和感を感じなかったのだ。


(調査は終わったか?)


『勿論だ。手始めにだが、そやつは聖女で間違いないな。神の名も余が知っているのと同じであり、偽りはない』


 どうせそんなことだろうとは思ったが、やはり訳ありか。


 考えるのは後にするとして、続きを聞くとしよう。


(タリアの方は?) 

 

『それなりの神力を持っているのを感じるな。位で言えば司教辺りだろうな。腕もそれなりに立つだろう』


(戦いには向いていないと言っていたが?)


『奇跡などに頼らなくても、戦うことは出来るだろう?』


 それを言われればそうだな。


 あくまでも加護が向いていないだけであり、地力は関係ない。


(襲われた理由とか心当たりはあるか?)


『流石にあれだけでは判断出来んな。呼んでおいて殺そうとしている辺り、何やら思惑があるのは確かだろう』

 

 時間で言えばマヤと話した時間は二十分も無いから、流石のルシデルシアも分からないか。


 態々偽装しておいて相手にバレているのに、今もシスターと名乗っているので、色々と呼べるような裏事情があるのは間違いない。


(因みに神の方に会った事はあるのか?)


『ないな。加護が戦いに向いていない通り、本人も戦いに意欲を示していなかった。だが、後方支援として薬の調合を行っていたと聞いている。確かエリクサーと呼ばれる神薬を作っていたはずだ』


(……そのエリクサーとやらの効果ってなんだ?) 


『神力と魔力の回復と、状態異常の回復。それから怪我や欠損の回復だな』


 ……とりあえず目的は分かったな。


 つか、何故それを分かっていてルシデルシアは分からないのだろうか?


(そのエリクサーを求めて、マヤを狙っているんだろうな。サクナシャガナはマヤを通して神の力を取り込むため呼んだんだろう)

 

『…………そうか。奴が居るだけで神の延命は可能になるし、その逆も然り。そして取り込む事が出来れば、多少厄介になるな』


(ついでに、サクナシャガナ以外にも色々と動いているのだろう。殺そうと画策する奴や、拉致しようする者とかな)


 ゲームや漫画等でも エリクサーってのは争いの元になるケースがある。


 これでマヤがただのシスターならば、襲われる事もなかったのだろうが、聖女ならば仕方ない。


(それと聖女って事は、マヤもエリクサーを作れるのか?)


『素材があれば可能だろうな。まあ、余も似た物ならば作れるがな』


 ルシデルシアの自慢は無視するとして、ミリーさんはマヤが聖女なのと、エリクサーの存在を知っていそうだな。


 もしもマヤ達が教国に反旗を翻し、帝国側に付いてくれれば大きな力となるだろう。


 これから先間違いなく俺達は襲われ、その度に恩を売る事になる。


 更に結末を考えれば、今恩を売っておくことは無駄ではない。


 だから多少不自然と分かっていても、マヤの同行を認めたのだろう。


 ならば、少しミリーさんの肝を冷やすとしよう。


「お待たせしました」

 

 イノセンス教の事をほぼほぼ話し終えた所で、料理が運ばれて来た。


 肉と野菜とスープ。それとバケットに入ったパン。


 普通と言えば普通だが、肉には調味料らしきものが何も振りかけられておらず、肉特有の香ばしい匂いしかしない。

 

「ふふ。間違えとかではないので、安心してください。此方のスパイスを使って下さい」


 シラキリが首をかしげたのを見て、マヤは軽く笑ってから小瓶を取り出す。


 白と緑を基調とした粉が入っているので、本人の言う通りスパイスなのだろう。


 自信があるようだが、味の方はどうだろうか?


 小瓶を順番に回して、焼肉へと振りかけていく。


 毒見役というわけではないのだろうが、先にマヤが一口食べて安全である事を証明する。


 一応お祈りを済ませて、先にシラキリが焼肉を食べると、耳がピンと立ち上がった。


 これは美味しいものを食べた時の反応だな。


 ならば、俺も食べてみるとしよう。

 

「……おいしいですね」

「ありがとうございます。薬の調合とスパイスの調合は、同じやり方なので得意なんです」


 肉はデイラッシュ……牛肉であり、脂身からロースだと思うのだが、スパイスにより味は勿論、デイラッシュ本来のうま味を引き出している。


 これは焼き加減が素晴らしいのもあるが、マヤのスパイスの素晴らしさが一番の要因だな。


 俺が使っている市販の奴なんてカス……とまでは言わないが、ゴミみたいなものだ。


 これだけ美味しいと、調合についてもっと学びたくなるな。


 少しだけポーションの作り方をオーレンから教わったが、多分単純な腕だけでもマヤの方が上な気がする。


 よし、マヤとはこれから何があっても仲良くしよう。


 ルシデルシアが居るし、この面子ならば大抵のことは解決できる。


 

サレン「(うめぇ……)」

ミリー「これが黄金のスパイス!」(適当)


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― 新着の感想 ―
サレンさんが一瞬で懐柔されちゃった… 聖女恐るべし!
マヤさん、正解です。失うのは惜しい、それも消え物系の価値を示すのはデカいですわよ。 要は胃袋を掴むってコトなんですけど。
胃袋掴まれちゃったwww
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