第163話:旅は道連れ世は情け
※ストックが溜まり始めましたので、月・金更新に変更します。
「いやー何とか間に合いそうだねー」
「そうですね。門も開いていますし、野宿をしなくても良さそうです」
あまりにも微妙な時間だが、立ち寄る予定をしていた街が見えてきた。
太陽はギリギリまだ見えているが、もう間もなく隠れようとしている。
本当ならばもっと余裕をもって街に着くか、いっそのこと途中で野宿になると思ったのだが、こうも中途半端になるとは……。
「いやー、まさかあんなことになるとは思わなかったね」
「シラキリの訓練と考えれば悪くなかったが、なんともタイミングが悪かったな」
旅をしていて魔物が襲ってくる事はこれまでもあったが、一回の襲撃で多くても三匹程度だった。
強さもEやG程度の弱い魔物だ。
しかし街へ向かう途中では、十匹以上の群れが三回も襲いかかってきた。
強さで言えばミリーさんやライラの敵ではないし、シラキリやアーサーでも負けるなんて事はない。
だが、戦いの際には馬車を止めなければならず、アーサーが死体を埋めてくれるとはいっても、使える素材の剥ぎ取りや血の処理。
埋めるにしても街道から離して、一ヶ所に纏めるなんて作業がある。
魔物を倒すまでの時間は一匹でも十匹でもあまり変わらないが、片付けや出発までにかかる時間はどんどん増えていく。
「魔物だけならば、もう少し早く来れたのですが……」
馬車を運転しているアーサーが、俺達にギリギリ聞こえる程度の声でぼやく。
間に合うかどうか程度ならば、馬車の速度を一時的に速めるとかすればなんとかなる。
「まあ私たちにとっては身分の保証になるし、聖都へ入る際に時間を取られないで済むだろうから、結果的にはプラスだよ。拡張鞄についても、馬車の中で取り出せば問題ないからね」
だが急ぐ事が出来るのは、俺達だけだった場合だけだ。
現在俺達の後ろには、一台の馬車が付いて来ている。
乗っているのは女性が二人と、男性が二人。
なぜそうなったかだが、道中で盗賊に襲われているのを助けた結果、護衛として雇われる事になったのだ。
正直断りたかったのだが、ミリーさんが待ったをかけた。
先ず女性二人は俺と同じ様に神官服を着ているので、何かしらの宗教の神官なのは見て分かった。
男の二人は安そうな鎧を着ていて、あまり強そうな風貌ではないが、その目は強い意志を秘めており、ただ者ではないのが窺えた。
戦っていた盗賊の人数や、思いの外手練れだったせいで苦戦していたようだが、それなりに強いのだろう。
強いと言っても、アーサーやシラキリ以下だけど。
人柄は悪くなく、俺やライラ。そして奴隷であるシラキリに対しても誠意ある態度を取っており、悪人ではないのは確かだ。
だからと言って一緒になんて嫌なのだが、ミリーさん曰くそれなりに大きな宗教の関係者なので、これから先の滞在や聖都へ入る際に、有利になるから受けた方が良いと言った。
因みに相手の女性の内片方は若く、もう片方は老齢という言葉が似合いそうなお年寄りで、若い女性の方が身分を偽っているらしい。
旅は道連れ世は情けとは言うが…………愚痴を言ったところで何も得られることはないし、ここら辺で区切っておくとしよう。
さて相手方についてだが、属してる宗教の名前はコノハミヤ教であり、薬草や調合といった薬関係の神であるイリヤナス神を崇めている。
若い女性はマヤと名乗っており、シスターだそうだ。
老齢の女性の方はタリアと名乗り、同じくシスターだ。
同じ神官服なのだからおかしくないが、マヤの方は少しばかり浮世離れ……天然な感じであり、四人の中では一番良心があると思う。
男二人の方は護衛兼従者らしく、直接的な名乗りをしなかったが、マヤからコングとロイと呼ばれていた。
相手方の情報としてこんなものだが、盗賊に襲われていた訳ありの集団って事は、一つ懸念事項がある。
「シラキリちゃん。何か話してる?」
「盗賊の裏に居る存在について話しています」
盗賊にしては手際が良いとライラが指摘し、ミリーさんが調査して不審点を幾つか上げていた時点で分かっていたが、相手は盗賊の皮を被った暗殺者だったのだ。
盗賊と言ったら寄せ集めの武器を使うのが普通であり、全員が銘の無い武器を装備しているのはおかしく、ついでに強力な毒物も隠し持っていたので、ただの盗賊ではないと直ぐに分かった。
向こうが俺達に声をかけたのは、盾代わりにしたいからってのが一番の理由なのは、簡単に察することが出来る。
敵の敵は味方って可能性もあるが、今のところはただの第三勢力と見ておいた方が良いだろう。
またシラキリによって話の内容は丸裸とされているので、向こうの内情も近い内に分かるだろう。
「なるほど。なら街に着くことを知らせるついでに、邪魔してくるよ」
とても良い笑顔でミリーさんは馬車から跳ぶように降りていき、そのまま後の馬車に近寄っていく。
いつもの事だが、嫌がらせをする時のミリーさんはとても生き生きとしている。
「何を知っているのか知らんが、敵になることはない……か」
「そうだと良いですね」
ライラはマヤ達に対して特に思うところはなく、使えるなら使うスタンスだ。
まあ戦力で言えばこちらが圧倒的に上だし、グランソラスやガイアセイバーなんてチート武器もあるので、数千人の敵が現れても戦うことが出来る。
毒殺も俺のポーションならば無効化出来るので、ライラからしても心配する事はない。
「奴らはシスターサレンの事を知っている反応を示していたが、ホロウスティアに居た有象無象とは違い、排他するような仕草を見せなかった。問題はあるまい」
ライラの言う通りなのだが、お忍びの相手と仲良くなった後にして待ち受けているのは面倒事だけだ。
こればかりは、人生経験の浅いライラには分からないだろう。
「戻ったよ。どうやら宿の伝手があるらしいから、この時間でも泊まれるってさ」
門から街の中が見えるくらい近くまでくると、ミリーさんが戻ってきた。
遅くなればなるほど、宿に泊まれる確率は下がる。
しかも九人が一緒にとなれば、難しいだろう。
「それはありがたいですね」
「夕食も多分大丈夫らしいから、楽が出来るよ」
あれこれといった手間が省けるのは良かった。
門のところで一度馬車を止めて、コングが門番と少し話すと、門番は頭を下げてから街の中に帰っていった。
それから街の中では宿まで向こうの馬車が先導するとの事で、先に進んでもらい、検査すらされずに街の中へと進んで行く。
あからさまに普通では無いとアピールしてしまっているのだが、隠さなくて良いのだろうか?
俺が言えた義理ではないが、少し心配にもなる。
街に入ってからは宿屋まで真っ直ぐに向かうが、街並みが王国とはまた違っていて、中々面白い。
国が変われば文化が変わり、文化が変われば街が変わる。
こういった風情を感じるのも、旅の醍醐味だろう。
「うーむ」
「どうかしましたか?」
「いんや、少しだけ武装している人が、多い気がしただけだよ」
「そうなんですか?」
「初めての街だから勘になるけどね。それと、雰囲気もなんかねー。ライラちゃんはどう?」
「日常的な往来ではなさそうだな。あくまでも備え。そんなところだろう」
仲が悪いはずだが、割りと以心伝心しているのが、ミリーさんとライラの面白いところだ。
此方としては主語をしっかりと話して欲しいのだが、俺のキャラ的にそんなことを堂々と聞くことは出来ないので、成り行きに任せておく。
「まあどうせ明日には出るんだし、気にしなくても良いか。それよりも、早く夕飯が食べたいね」
「そうですね。道中も色々とありましたから、私もお腹が空きました」
「お肉が食べたいです」
「だねー。私も一杯やりたい気分だよ」
「連れが居るのだ。節度を忘れるなよ?」
毎度お馴染みにのライラのお小言をミリーさんが貰うと、馬車がゆっくり止まる。
宿に着いたのだろう。
馬車から顔を出すと、これまでの街で見かけた宿屋の中でも、かなり大きな部類に入る宿屋が見えた。
……マヤ達は本当の本当に隠す気があるのだろうか?
「着いたみたいだね。それじゃあ降りよっか」
よっこらしょと年寄り臭い言葉が出ないように注意しながら馬車を降りると、マヤとタリアさんが馬車の外で待っていた。
マヤの方は俺と同程度の年齢……俺が偽っている側の年齢に近いのだろうが、年齢を聞くのは女性には厳禁だろう。
明るい緑色の髪は夜でも焦る事はなく、俺よりも立派な神官服に合っている。
タリアさんの髪は真っ白になっているが、柔らかい雰囲気を纏っている。
だがその瞳には強い意志を宿しているので、あまり油断はできる人ではない。
「改めて護衛ありがとうございます。本日の料金は此方で持ちますので、ゆっくりと休んでください。それと、宜しければ夕飯を一緒にいかがでしょうか?」
「私どもで良ければ喜んで。先ずは宿の案内をお願いできますか?」
誘われるとは思っていたので、マヤからの申し出を承諾しておく。
これ位の大きさの宿屋ならば、食堂も併設されているだろうから、この人数でも問題なく食べる事が出来るだろう。
まあ食事をするその前に、一度部屋の確認と荷物を置いてからだがな。
アーサー「穴を掘って埋めるだけ」
シラキリ「首を落として殺すだけ」
ライラ「炭にするだけ」
ミリー「(基本)見てるだけ」
サレン「魔物の死体を運ぶだけ」