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第159話:待たされた五日間

 たかが五日間。されど五日間。


 俺が調べた限り何故そんなに掛かるか分からなかった。


 チラッとアーロンさんが、いつもは二日くらいで越えられると言っていたのを思い出したが、俺に情報収集は向いていないのだろう。


 ついでに五日以上掛かるかもしれないと言っていたが、五日で国境を越えるための審査を受ける事が出来る事になった。


 それにしても、たった数日だと言うのにとても濃い日々だった。


 羊の雲や白銀の狼。


 急に落ちてきた看板や、高価なグランドピアノ。


 ……本当に濃いな。


 今日でこの街ともお別れとなるが、酒を飲みにまた来たいものだ。


 今日はシラキリの耳が鼻を擽る前に目が覚めたので、現在布団の中でゴロゴロとしている。


 もうそろそろ起きて朝食を作らないとならない。


 別に作らなくても良いのだが、台所を使う機会は当分来ない。


 店や屋台で食べる方が楽で良いのだが、俺と言うよりシラキリやライラのためだ。

 

 二人共よく頑張っているので、褒美としてご飯を食べさせているのだ。


 特にシラキリはライラばかり俺の手料理を食べていたせいか、少しだけ不機嫌になったりしていた。


 面倒だが、メンタルケアをするのは俺の役目なので、少しだけ面倒に感じながらも作っている。


 まあ五日間の内、シラキリが食べた回数は三回だけだが。


 お、シラキリの耳に力が入り始めたな。


 顔を突かれる前に起き上がるとしよう。

 

「……おはようございます。サレンさん」

「おはようございます。私は朝食を作ってきますので、後三十分位はゆっくりしていて大丈夫ですよ」

「はい……」


 ぽけーとしているシラキリをベッドに放置したまま、拡張鞄から食材を取り出してキッチンへ向かう。


 今回の食材で、ホロウスティアと道中の街で買った食材を全て使い切る形になる。


 賞味期限自体はまだまだ問題ないが、やはり古い食材から使っていくのが生活の知恵と言うものだ。


 まあ残っている食材のほとんどは、ホロウスティアでシラキリが買ったパンなのだがな。


 つまり、朝食として作るのはサンドイッチとなる。


 大量に作って、余った分は道中で食べれば良い。


 挟む具材は肉だったりジャムだったりだが、この作業が案外面倒だ。


 パンを裂いてバターで焼き、具材を挟んで更に乗せる。


 無心でやっていくとしよう。 


「おはよー。また沢山作ってるねー」

「おはようございます。道中にも食べられるようにと思いまして。鞄もあまり時間が進まないとは言え、いつまでも入れたままに出来ませんから」

「最低でも一ヵ月は大丈夫って試験はしてあるけど、それもそうだね。一個貰うよー」


 サンドイッチを一個取ってミリーさんはキッチンを出て行く。


 いつも通り自由な人だが、折角なら手伝いを頼めば良かったな。


 既にいないので遅いけど。






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「お待ちどう様です。余った分は鞄に入れておきますので、食べられるだけ食べて下さい」


 作り終わったサンドイッチを持ってダイニングに行くと、三人共しっかりと起きて来ていた。


 ついでに今日は珍しく。アーロンさんも一緒に座っている。

 

 軽い打ち合わせは既に済ませてあるが、見送りか何かだろうか?


「俺も食べて良いかい?」

「はい。沢山有りますので、遠慮なくお食べ下さい」


 椅子に座って祈りを捧げてから、サンドイッチを食べる。


 サンドイッチは卵とハムレタスの二種類を作っており、どちらもそれなりに腹に溜まるし、栄養も悪くない。


 使っているパンが美味し奴なので、何を挟んでも美味しい。


「短い間だったが、もうお別れか」

「そうだね。部屋を貸してくれてありがとうね」

「同じ黒翼だからな。助け合ってなんぼだろう?」

「うんうん。そうだね。分かってるじゃないか」


 アーロンさんと話しているミリーさんだが、とても悪い笑みを浮かべている。

 

 何やら良からぬ事を考えていそうだが、アーロンさんは気付いていないようだ。

  

 ミリーさんと出会ってしまったばっかりに、何かしら仕事を振られる事になるんだろうな……。


 今のミリーさんは、自分が死んだ後の事も考えて行動しているのだろう。


 ホロウスティアでミリーさんが抜ける穴は物凄く大きい。


 その補填要因として馬車馬の如く働かされる事になりそうだ。


 まあ俺には、ミリーさんを死なす気は無いのだがな。


 まだ方法と言うか、ミリーさんの好感度は上げられていないけども。


「馬車は既に用意してあるから、好きに出て行ってもらって構わねぇ。一応見張りを立たせているから、声をかけておいてくれ。それと、これが手形だから向こうに着いたら渡してくれ」

「どうも。因みに教国はやっぱりだんまり?」

「正確にはいつも通りって感じだな。まあホロウスティアへの行き来は盛んに行われ、勇者や聖女の話題で盛り上がっているけどな」


 ホロウスティアで行われていた代理戦争がどうなったのか知らないが、スフィーリア達は上手くやっているだろうか?


 直接的な手出しすらしてくる可能性もあるし、ダンジョン内で暗殺なんてこともあり得る。


 それなりに手練れも居るし、スフィーリアも加護によりかなり強くなっているから大丈夫だと思うが、通信機器が無いこの世界では確かめる術がない。


 スマホとは言わないが、せめてポケベルクラスでも良いので、やり取りが出来ないものか…………ポケベルとか使った事無いけど。


 懺悔室に飛び込んできてとある宗教の不正を暴く事になり、色々とあってマイケルの所のパーティーへ入る事になったチエルも上手くやっているだろうか……。


 元気があり、少し頭が足りない感じがあるものの、良い子なので悪い大人に騙されずに育って欲しい。

 

 それにライラの事を師匠として慕ってもいるし、半身内みたいなものだ。


 そして、勇者と聖女……。


 俺と同じ世界から来ている異世界の人間だが、ほぼ間違いなく敵対する事になる存在だ。


 傀儡として操られているのか、自分の意思で従っているのか。それとも元の世界に帰してやるからと甘言に惑わされているのか。


 ルシデルシアから聞いた話が本当ならば、元の世界に帰る方法はない。


 俺達の話を聞く事はないだろうが、敵だからと殺したい相手ではない。


 悪いのはサクナシャガナであり、召喚された二人はただ巻き込まれただけだ。


 どんな生活を送っているか分からないが…………まあ態度次第だろうな。


 殺したい相手ではないが、場合によっては殺すしかない。

 

「それじゃあ準備が出来次第、出発しようっか」

「分かりました」


 大量に作ったサンドイッチは半分くらい残ったので、梱包してから拡張鞄の中へ入れる。


 拡張鞄は国境を越えるまでは馬車に隠しておく予定なので、一部の物資は普通の鞄に移しておく。


 部屋も綺麗に片づけ、キッチンも同じく綺麗に掃除をする。


 家を貸してくれたアーロンさんにも朝食の時に礼を言ってあるので、これでもう出て行く事が出来る。


「準備終わりました」

「うし、じゃあ行こっか。アーロン君も頑張ってねー」

「おう。あんた達が何しに行くかは聞かないが、達者でな」


 最後に軽く挨拶をして、馬車の前に立っている人に一言言ってから馬車へと乗り込む。


 国境まではアーサーが運転するらしく、御者席に座る。


 そして……。


「それじゃあさっさと箱に入ってもらいたい所だけど、流石にどれ位待たされるか分からないし、着いてからで良いか」

「そうか。門を越えるまでどれ位掛かるのだ?」

「早ければ一時間くらいで、遅ければ夕方位かな」

「……なるほど。流石に今から入るのは早いな」

 

 国境について直ぐに審査が始まれば、直ぐに越えられるだろうが、そうもいかない。


 先日見た限りでは、かなりの人数が国境に押し寄せていた。


 一応予約しているので、今日行って越えられないなんて事は起きないが、どれくらい待たされるかは向こう次第となる。


 整理券なんて文化は無いみたいだからな。


 だからと言って、来た順に処理しているわけでもない。


 そして選ばれる順番が分からないから、早めに行って待っていなければならない。

 

 異世界クオリティらしく、雑である。


 まあこれは普通に越える場合であり、貴族だったりそれなりの金を積めば待つ必要は無いのだが、今回はあまり目立たないためにそんな方法は取れない。

 

 ミリーさんは念のためと言って馬車の幕を下ろし、中を見られないようにし、それから馬車を出発させた。


 

アーロン「やっと出て行ってくれたか……」

子分A(酒場に居た人)「ヤバい人たちでしたね」

アーロン「全くだ。お前も良く死ななかったな」

子分A「冗談抜きでその通りですよ……」



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