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第157話:知らない事の幸せ

「それで第三部隊についてだが、黒翼の中でも色物……我が……癖が強い奴が多くてな。それもあってか一番実績がある。それもあってホロウスティアを任されたらしいが、最初の頃は中々上手くいっていなかったらしい」


 文字通りブラックな騎士団のブラックな内情をそれとなく聞き、コーヒーを飲んで中和する。


「ホロウスティアの内情についてはシスターさんの方が詳しいから省くが、どうしたもんかと手をこまねいていた時に、ミリーさんが第三部隊に異動する事になった。それから色々とあったらしいが、上手くスラムを利用して今の形までもっていったらしい」


 つまり、アランさんも凄いが、それと同じくらいミリーさんも凄いって事だな。


 まあ公爵家の件でミリーさんが有能を通り越して、ヤバい人だってのは知っていたがな。


 それに赤翼騎士団の体験入団の時も、俺とジェイルさんの会話を隠れて聞いていたし。


 ミリーさんが本気になれば、王族の暗殺とかも普通に出来るのではないだろうか?


 何なら正面から喧嘩を売って、勝ちそうな気もする。


「ライラもホロウスティアのスラムは他と違うと言っていましたね」

「ホロウスティアには行ったことがないが、表に気付かれないように上手くやっているらしい」


 そりゃあ普通に暮らしている分には噂すら流れてこなかったので、しっかりと情報操作されていたのはよく分かる。


 色々とあってミリーさんの行動を怪しむようにはなったが、カミングアウトがあるまで尻尾を掴むことが出来なかった。


 今だから思えるが、もしかしたらライラは最初から気づいていたのかもしれないな。


 今もそうだが、ライラからミリーさんへの態度はかなり強い。


 ライラが強い態度を取るのは、大体俺が関係している時だ。


 親を殺すと決めた時もわりと淡々としており、感情の変化は見られない。


 が、俺関係だと結構色々とやっている。


 そこら辺を踏まえると、知っていたと考えて良いだろう。


「そうですね。私も本人から聞くまで存在を知りませんでした」

「……今更だが、シスターさんって何をやらかしたんだ?」 

「はい? 何とは?」

「俺の話を聞いて分かっていると思うが、黒翼が動くってのは相当重要な案件って事だ」


 俺のやらかしと言うか、ルシデルシアとディアナのやらかしを上げればキリがない。


 正直国と言うか世界の命運がかかっているので、黒翼が動くのは妥当と言えば妥当だ。


 ついでに他国の公爵家を滅ぼしてるし。

 

 アーロンさんが気にするのも分かるが、ここで答えることは出来ない。


 ライラの事だけならば教えても良いが、ミリーさんと一緒に居る手前、ミリーさんを通して貰った方が良い。

 

「私の口からは何とも。ミリーさんから聞いてください。色々とあるものですので」

「……まあそうなるわな。俺が知っているだけでも、公爵家の滅亡ってレベルだからな。ああ、やっぱりなしにしてくれ。知らない方が良さそうだ」


 聞き出そうと圧をかけ始めたが、直ぐに事の重大さに気付いてアーロンさんはひよってしまった。


 情けないと思うかもしれないが、この反応は素晴らしいものだ。


 引き際ってのは、そう簡単に選べるものではない。


 可能性の一つだが、これ以上アーロンさんが突っ込んだ事を聞こうとした場合、ミリーさんに消される可能性もある。


 これは俺の勘だが、今もミリーさんはこの会話を聞いている気がする。


「その方が宜しいかと。知らない事が幸せな事は結構多いですから」


 シラキリが実は勇者になっていたり、ライラが神の転生体だったり、ミリーさんがロリババアとかな。


 本当に知らない方が良かったよ。


 おかげで俺のスローライフはまだまだ先だ。 

  

「シスターさんに言われると重みがあるな」

「それ程でもありません。位で言えば一番下ですからね」


 アーロンさんは苦笑するが、悪い雰囲気ではない。


 大人の対応って奴だな。


 コーヒーも飲み終わり、これからまた仕事があるからとアーロンさん出掛けて行った。


 結局情報らしい情報を得ることは出来なかったが、時間を潰すには丁度良かった。






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 アーロンさんがいなくなったので、もう片方の鉄扇もバラして綺麗にしてから組み立てる。



 この作業が、中々時間が掛かるのだ。


 武器として使った中では初めて壊れずにいるので、これからも長く愛用していきたい。


 整備を終える頃には、日の光が僅かにオレンジ色になり始めていた。


 日記を書いたり武器の整備をしたりしたので、全く何もしていなかったわけではないが、休日らしい休日を過ごす事が出来た。


 鉄扇を袖の下にセットし、夕飯の準備に取り掛かる。

 

 シラキリ達も食べるか分からないので、もしもの事を考えておこう。


 唐揚げ用の肉を大量に作り、タレに付け込んでおく。


 余った分はこれから先の食事で使ってもいいし、酒の肴としても唐揚げは有りだ。


 個人的に軟骨の唐揚げが結構好きなのだが、流石に売っていなかったので買っていない。


 唐揚げとは関係ないが、豚トロをカリカリになるまで焼いたのも好きだ。


 鶏皮とは違いしっかりと肉の弾力が残るので、ハイボールとかとよく合うのだ。


 さて、唐揚げだけではバランスが悪いので、甘い卵焼きも作るとしよう。


 小学生のお弁当みたいなラインナップだが、大人でも嫌いな人は少ないだろう。


 長方形型のフライパンはないが、丸くてもわりと結構どうにかなる。


 これで味噌汁があれば良いのだが、流石にないので諦める。


 下拵えが全て終わったところで、米を炊き始める。


 ……我ながら完璧な手際だな。


 慣れとは恐ろしいものだ。


「帰ったよー」

「帰りました……」


 最後の蒸らしをしていると、ミリーさんとシラキリが帰ってきた。


 声に張りがないが、どれだけ訓練をしていたのだろうか?

  

「お帰りなさい。夕飯は食べますか?」

「食べる食べる。出来れば沢山食べたいね」

「私もお腹が空きました」


 リビングで二人を見ると、そこそこ汚れており、汗もかなり流したのか、匂いがする。

 

 ……もしかして、昼飯を食べていないのだろうか?


「直ぐに作りますので、シャワーを浴びてきて下さい。それと、ライラが部屋に居ますので、呼んできてください」

「シラキリちゃんよろしくー」

「……はい」


 シラキリの返事までに微妙な間があったが、シラキリもライラと同じく、そこまでミリーさんの事を好きではないのだろう。


 この前もミノムシにされていたミリーさんを、受け止めないで態々地面に落としていたし。


 昔はそうでもなかったのだが……これも一つの成長の形だろう。


 アーサーだけは帰ってきていないが、四人分のご飯を準備して唐揚げを揚げながら、卵焼きを焼き始める。

 

「良い匂いがするな」

「夕飯は直ぐできますので、飲み物と食べる為の食器は自分で準備をお願いします」


 ライラが顔を出したので、使う食器と飲み物の用意を頼んでおく。


 俺は基本的に箸で食べるが、ライラとミリーさんは基本的にフォークやスプーン等を使う。


 俺は日本人らしく箸の方が楽なので、基本的に箸を使う。


 因みにシラキリはマナーとしてフォークとかでの食べ方を教わっているが、基本的に俺と一緒の方法で食べる。


 会った頃は食べ方も知らない孤児だったのに……成長とは早いものだ。


 いかんな。歳を取ってくると、ついつい感傷に浸りたくなってしまう。


 山盛りに揚げた唐揚げの皿を持ってダイニングに行くと、三人が座って待っていた。


「夕飯は唐揚げと甘い味付けをした玉子焼きになります。玉子は直ぐに持ってきますので、先にお祈りをして食べていてください」

「いや、待たせてもらおう」 

「えー、先に食べちゃおうよー」

「私も待ちます」


 ミリーさんだけが文句を垂れるが、さっさと玉子焼きが乗った皿も持ってきた。


 ついでに、お代わり用のご飯も一緒に忘れずにな。


「お待たせしました。それでは、レイネシアナ様に感謝を捧げ、いただきます」


 俺の後に三人が一緒にいただきますと言ってから、夕飯を食べ始める。


 味見をしたので問題ないことは分かっているが、我ながらしかっかりと揚げられている。


 玉子焼きがおかずになる程度の甘さなので、丁度良い感じだ。


「美味しいねー。サレンちゃんは今日何をしていたの?」

「日記を書いたり、鉄扇の整備とかですね。一度分解して磨いたりしたのですが、結構時間がかかりました」

「確かにあれを磨くとなれば、時間がかかりそうだね。ライラちゃんは……まあ良いか」

「よほど殴られたいらしいな?」


 ライラがいつもの様にミリーさんを睨み付けるが、笑って誤魔化している。


 どうせライラは家から出ないから、聞いても無駄だと判断したのだろうが、もう少し言い方をどうにかした方が良いと思う。


 まあ分かっていてやっているのだろうが。


「シラキリとミリーさんは訓練をしていたと聞いたんですが、今日はどんな訓練をしていたのですか?」


 話を聞くと、シラキリは不機嫌そうにそっぽを向き、ミリーさんは笑みを深くする。


 訓練は訓練でも、良いように遊ばれてしまったのかな?

 

「軽く鬼ごっこをした後に、ちょっと山まで競争してきたのさ。シラキリちゃんは瞬発力はあるけど、まだまだ体力が少ないからね」

「なるほど。因みに勝ったのは?」

「魔法無しならともかく、魔法ありで私が負けるわけないでしょ」


 ですよねーとしか言えないので、笑って誤魔化しておく。


 肉体的に言えば獣人であるシラキリの方が上かもしれないが、魔法を含めれば百年以上生きているミリーさんの方に分がある。


 しかも使えるのが風の魔法なので、身体強化以外にも速く走る方法とか持っているだろう。


「……次は勝ちます」

「期待しないで待ってるよ。はは!」

「食事の席で大声を出すではない」

「ごめんごめん」


 大人気ないとしか言いようがないが、まあ食事なんて楽しんでなんぼだ。

 

 将来的には孤児院も運営しようと思っているし、この位の騒がしさなんて気にしていられない。


 因みにアーサーがこの場に居る場合、大体外野でニコニコとしている。

 

 アーサーには裏方として、色々として貰っているが給料を払っていない。


 ……今度何かプレゼントでも送っておくかな。


 あいつもライラにこき使われているわけだし。

 

 

修行中のシラキリとミリー。


ミリー「ハハ! 鬼さんこちら、ての鳴る方へ」煽りながらシラキリから逃げる。

シラキリ「むー」殺す勢いで小太刀を振るう。

ミリー「ざんねんでしたー」魔法で残像を出す。

シラキリ「むー!」小太刀だけではなくクナイも使い始める。

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