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なんちゃってシスターは神を騙る  作者: ココア


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第142話:出された酒を飲むのは礼儀

 シープビギニング。それは白濁色をした酒であった。


 テーブルに置かれた時に表面がほとんど揺れなかったので、おそらくとろみがあるのだろう。


 白濁の酒と言えばマッコリやにごり酒が出てくるが、その二つならばジョッキで出ても別におかしくない。


 どちらも蒸留なんてしないので、度数は高くても二十そこいらだ。


 こんな反応になるのはおかしい。


 つまりこの酒は、どちらでもないのだろう。


 ミリーさんを見ると、サムズアップをされた。


 店員の言う通り全部飲めばタダになるのはありがたいが、なるべく騒ぎを起こさないで国境を越えようって話だったはず……だ。


 後でミリーさんが騒ぎを起こしたと報告するとして、この酒はホロウスティアでも見たことがない。


 考えても仕方ないし、とりあえず飲んでみるとするか。


 下でシラキリがオレンジジュースをくぴくぴと飲むなか、ジョッキを片手で持ち上げる。


 何故か店員は去らずに、じっと俺を見たままである。


 先ずは口に少し含んでみるが……ほう。


 何かの乳だと思うが、トロリとしていて仄かに甘い。


 しかしレッドドライ程ではないが度数が高く、口の中をアルコールが蹂躙する。

 

 シープビギニングと言う銘柄だから、羊の乳から作っているのだろうが、どうやって作っているのか気になるな……。


 これまで飲んできた酒とはまた一風変わってるが、中々美味い。


 レッドドライの様なキレは無いので、何杯も飲むってのは難しいが、とりあえず飲んでしまおう。


 少しずつジョッキを傾けていき、顔を上げていく。


 そのまま一気に飲み干して、そっとテーブルの上にジョッキを戻す。


「うっそー……」


 ジョッキを置いたタイミングで、店員がボソッと呟く。


 これだけ度数が高いものをジョッキで飲めるのは、かなり限られてくるだろう。


 店員も俺なんかでは無理だと思ってミリーさんの口車に乗ったのかもしれないが、運が悪かったな。


「御馳走様でした。大変美味しかったです」

「あっ……えっと、料理も美味しいので、良かったら味わって下さい」


 ひきつった笑みを浮かべてから、店員は下がっていく。


 多分だが、このシープビギニング分はあの店員が払うのだろうな……。


「流石サレンちゃんだね。味はどうだった?」

「ミルクの様な味ですが、中々珍しい風味で美味しかったです。先程店員に何と言っていたのですか?」

「ちょっと賭けの話をね。もしもサレンちゃんが飲めなかったら、二倍の金額を払い、全部飲めたらタダにするってね」


 案の定だが、とりあえず一杯飲めたので、文句も言い難い。


 怒るのはライラに任せるとして、夕食を食べるとしよう。


 出された肉は匂い的にラム肉だと思われるが、俺はラム肉が結構好きだ。


 独特の臭いがあるものの、それが結構癖になる。


 ……そうか。シープビギニングはラム肉と一緒に、飲むのに適した酒だったのか。

 

 匂い的にラム肉だと思っているが、シープビギニングの甘味はラム肉と合いそうである。


 ふむ……シープビギニングは珍しい酒なだけあり、少々値段が高い。


 ショットとならばそうでもないが、出来れば酒は豪快に飲みたいものだ。


 この場で一番面倒なのは、アーサーだろう。


 一応ライラの部下的な立ち位置であり、俺への忠誠を誓っているみたいだが、俺が良からぬ事をすれば間違いなく報告する。


 先程の一杯はミリーさんのせいにすれば良いが、自主的に動けば俺も悪者となってしまう。


 一気飲みなんて馬鹿なことをしなければ良かったのたが、駆けつけ一杯は大人の嗜みである。


 間違いなく間違いだが。


 どうにかして酒を、怒られること無く飲むかを考えながら、料理を食べる。


 やはり羊独特の味がするので、間違いなくラム肉だ。

 

「おう姉ちゃんさっきは……いえ、何でもありません。失礼しました」

「はい?」


 どうしたものかと悩んでいると、酔っ払いの男が話しかけてきたが、俺の顔を見ると顔を青くし、自分の席へと帰って行ってしまった。


 何やら周りからなじられているが、俺と視線が合うと、サッと逸らされてしまう。


 ……諦めて、一般常識程度の酒を飲むしかないか……。


「いやー久々のミードはいいね! 生き返るよ」

「そうですね。ここ最近はワインばかりでしたからね」

「お二人とも、羽目を外さないようにお願いしますね」


 おかしい。少しミリーさんとお酒の話をしただけなのに、何故アーサーに注意されているのだろうか?


 料理を摘まみながら何を飲もうか悩んでいると、先程の店員が俺達の方に歩いて来た。


 手には先程俺に出したジョッキと同じものを持っており、中には赤い色をした液体がギリギリまで注がれている。


「お客さんお酒に強いんですね。こちらサービスになります。――残さないで下さいね」


 俺のせいで賭けに負けた腹いせだろうが、だからってこれを持ってくるか……。


 俺としてはありがたいが、周りからの反応は驚愕の一言だろう。


「おいおいマリアンちゃん、それは流石に酷くないかい? しかも相手は神官様だろ?」

「さっきのだってどうせ、無理して飲んでるんだぜ? そんな物のんじゃあ倒れちまうよ」

「煩いわよ! 何ならあんたたちが代わりに飲む?」


 巻角の店員は俺達に向けるお客用の笑顔から、知り合いに向ける容赦のない顔で怒鳴る。


 怒られた男達はすごすごと引き下がり、こちらを窺いながら酒を飲む。


 あちこちから笑い声も漏れるが、この提案に乗る以外の選択は無い。

 

 乗るしかない――このビックウェーブ(タダ酒)に!


「出された物を拒むのは教義に反しますので、ありがたく頂きます」

「えっ、そ、そう? お客さんは流石ね」


 何故か店員に引かれながらもジョッキを持ち上げ、ゆっくりと飲んでいく。


 シープビギニングの様な口に残る感じではなく、ラム肉の油を洗い流すような、辛口の口触り。


 喉を焼く様に高いアルコール度数。


 僅かな甘みが最後に広がり、余韻を残す。


 そう、それは……お馴染みのレッドドライである。


 半分程飲んだ辺りで一度テーブルに戻し、ほっと一息つく。


 すっと辺りを見ると、沢山の目が見開かれている。


 ミリーさんは笑い出すのを我慢していて、店員は頬がひきつっている。


「お、お客さん……大丈夫?」

「はい。この程度は飲み慣れているので、問題ありません」

「うっそ……」

「ぐふ」


 店員の驚きの声を聞き、ミリーさんから少し笑いが漏れる。


 徹夜でピアノを弾きながら酒を飲んでいた俺にとって、この程度の酒は水……とまではいかないが、ジュースみたいなものだ。


 このまま残りを飲み干しても良いが、料理を味わいながら飲むとしよう。


 おっと、その前に礼を言っておくか。

 

「サービスありがとうございます。出されたものは飲みますので、良ければまたサービスをしてください」

「……はい」


 ガックリと肩を落とした店員は、キッチンへと下がっていく。


 二杯もタダ酒を頂けるなんて、本当に運が良い。


 これくらいならば目くじらを立てる程でもないし、イノセンス教の教示の範囲内と言い訳も出来る。


 出来ればもう一杯シープビギニングを飲みたいが、誰かくれないだろうか?

 

 外野が少し煩いが、俺と店員のちょっとした戦いは、俺の勝ちとなった。

 

「流石サレンちゃんだね。普通なら無理だって断る所なのに、普通に飲んじゃうんだから」

「似たようなことが前にもありましたからね。分かっていれば問題ありません」


 初めてミリーさん行きつけの、今はほぼイノセンス教第二支部となってしまっている酒場だが、あの時もレッドドライをジョッキで出された。


 今となっては懐かしい記憶だが、こればかりは酒に強い、この身体に感謝である。


 ただ、まるで罰ゲームみたいにレッドドライが使われているが、下手な酒よりもレッドドライの方が美味しい。


 アイリスの街で買ったワインを二十点だとすれば、レッドドライは六十五点位ある。


 ついでに決して高くはないが、安いと言う程でもない。


 二杯飲んで、一食分位だろう。


「いやー、神官様なのに、良い飲みっぷりだな。惚れ惚れするぜ」

「ありがとうございます。食事も美味しくて、良い酒場ですね」


 さっきの回れ右した客とは違う奴が、話しかけてくる。


 アーロンさん程ではないが、大きな体格をしており、厳つい風貌をしている。


 武器も持っているので、おそらく冒険者だろう。


「ああ。結構賑やかで気に入っているんだ。それも悪気があって出した訳じゃなくて、飲めなかったら飲めなかったで、ちゃんと処理してくれただろうさ」


 店員を庇うとは、中々良い客だな。


 まったく怒っていないし、何なら感謝をしているのだが、これはチャンスではないだろうか?

 

「大丈夫ですよ。店の雰囲気を見れば、あの方が慕われているのが分かります。それに、この程度のお酒はジュースみたいなものです」

「へぇ、言うじゃねえか。そこまで豪語出来るってなら……」


 男は残っていた自分の酒を飲み干し、空になったコップを見せてくる。


 俺も残っている料理を摘まんでから、残りのレッドドライを飲み干す。


 向こうの考えは丸分かりだが、この程度は想定の範囲内だ。


「……野郎共! 今から俺とこの女で飲み比べをする。どっちが勝つか賭けの時間だ!」


 あちこちから声が上がり、囃し立ててくる。


 シラキリが男の物言いによって不機嫌になるので、再び頭を撫でて機嫌をとっておく。


 気付いたら相手が死んでいた……なんてなっても困るからな。


 俺にサービスサービス(二杯の酒)してくれた店員がニコニコとテーブルを用意し、ついでに男の方に金を賭けている。


 ミリーさんもいつの間にか席を離れて賭けをしに行っているし、アーサーは天を仰いでいる。


「ライラには内緒にしてくださいね」

「分かっているのでしたら、自重してください」

「折角のお誘いですから。イノセンス教のシスターとして、断わるわけにもいきません」


 俺は今回何もしていない。


 売られた喧嘩……誘いに乗っただけだ。


 もしも悪者がいるとすれば、それは最初の切っ掛けを作ったミリーさんだろう。

客D「おいおいあのシスターさんやべぇよ」

客E「だが、あれだけ飲んでから飲み比べに乗るなんて……ただ者じゃあない」

客F「俺はシスターさんに賭けるかな……」

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― 新着の感想 ―
〉イノセンス教のシスターとして、断わるわけにもいきません なんでや!
誘い受けお美事にございまする 挑まれたからにはお相手しなければ無作法というもの……
レッドドライでの飲み比べですね、分かりますwww
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