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第141話:国境

「帰ったよー。何か作っているのかい?」

「お帰りなさい。ライラ用に夕飯を作っているんです。外に連れて行くわけにもいかないですからね」

 

 荷物の整理をし、軽く寝てからライラ用の夕飯を作っていると、ミリーさんが帰って来た。


 武器を買って来たのか、新しい剣を二本装備している。


 何となく高そうな感じがするが、どうなのだろうか?


「なるほど、流石サレンちゃんだ」

「もう直ぐ出来上がりますので、少しお待ちください」


 拡張鞄に残っている食料も後少しだったので、古いのは全て使い切り、この街で新たに買おうと思っている。


 後少しと言っても二日分くらいはあるので、直ぐに買いに行かなくても問題ない。


 とは言っても、念のため明日買い出しに行く予定だ。


 そんな訳で大きな肉を挟んだサンドイッチと、ポトフモドキを作って、ライラに一言伝えておく。


「すまぬな。それと、羽目を外さぬようにな」

「大丈夫ですよ。初めての街ですので、程々にしておきます」


 一言釘を刺されてしまったが、ホロウスティアの時みたいにただで酒が飲めないので、飲める量は限られてくる。


 旅の資金に余裕があるとはいえ、まだまだ旅は長いのだ。


 俺一人で湯水のように使うわけにもいかない。


 演奏をして酒代を稼ぐ事も出来るだろうが、今日は様子見をしておく。


 ヴァイオリンを拡張鞄に入れてあるが、俺のヴァイオリンの腕はピアノを十とすると六くらいだ。


 酒の対価としての演奏を、出来る気がしない。


 部屋で待っているシラキリを呼んでから一階に降りると、アーサーも帰って来ていてミリーさんと共に、ソファーに座っていた。

 

「戻って来ていたのですね。何か変わったことはありましたか?」

「今の所私達に関わる情報は流れていませんが、グローアイアス領の異変についての噂はやはり出回っていますね。早めに国境を越えなければ、更に足止めされるかもしれません」


 あれだけの大惨事だったので、国境を閉ざすとまでは行かないが、戒厳令みたいなものが出てもおかしくない。


 下手人であるライラについては、生き残りの証言で直ぐに知られる事となるだろうし、急げるならば急いだ方が良いだろう。


 まあ、本当の下手人はルシデルシアだが。


「その事についてだけど、国境を越えるまでは、やっぱり五日間位待たないといけないみたいだね。それどころか、更に伸びる可能性がなくもないね」

「そうですか……何事もなく越えられれば良いですが……」

「いざとなったら、アーロン君に無理をさせるから大丈夫さ」


 どう無理をさせるか分からないが、おそらく予約に割り込むのだろうな。


 あれだけの強面だし、何かしら伝手があってもおかしくない。


 なるべくルールを守りたい所だが、それで争いになっても仕方ないし、ミリーさんの言う通りいざと言う時はやるしかない。


「まあ辛気臭い話は後にするとして、さっさと行こうか」

「そうですね。お店までどれくらいかかるかも分かりませんからね」

「オススメの店を教えて貰ったから、今日はそこに行こうか」


 流石ミリーさんだ。


 適当に見つけた店に入って失敗するミスを、しなくても良さそうだ。


 世の中には地元民以外お断りの店や、ぼったくりしてくる店なんてのもある。


 特に旅行や出張で繁華街とかに行った時は、注意が必要だ。


 お上りさんってのが分かると、あの手この手で客を引こうと寄ってくる。


 客引きに付いて行かなければ大丈夫ではあるのだが、やはり出先ならば珍しい物を食べたいと思うのが人だ。


 結果的に人を見る目が鍛えられたが、失敗も何度かした。


 まあそんな過去の無駄は忘れるとして、ミリーさんの後を付いて行くとしよう。


 それと、初日位はシラキリが一緒でも問題無いだろう。







1







 家を出てから左に真っすぐと進み数回曲がると、屋台だったり定食屋だったりが見えてくる。 


 道の端の方にはゴミが散らかっている部分があり、汚い感じだが、ホロウスティアが異常なだけであり、これ位が普通なのだろう。


 アイリスの街の路地裏も結構汚かったからな。


 色んな匂いが混ざり合って少し辛いが、これ位ならばまだ問題ない。


「えーっと……多分あそこだね」


 ミリーさんが指差した先には大きな看板があり、そこには羊の雲と書かれている。


 羊雲なら分かるが、羊の雲ってどういうことだ?


 雛鳥の巣も似たよう感じだが、店の名前を一々気にするのは野暮か。

 

 羊の雲はミリーさんが選んだ事だけの事はあり、窓から見える店内は賑わっているように見える。


 これは期待が持てそうだ。


「いらっしゃい! 四名ですか?」


 店に入って直ぐに、女の店員が出迎えてくれる。


 店員の頭には大きな巻角が付いており、店の名前の由来が分かった気がする。


 だが、山羊と羊って別だったような気がするのだが、異世界なので気にしても仕方ないだろう。


 獣人がこんなところで、普通に働いていて大丈夫なのだろうか?


 首輪を着けていないし、普通に一般の人なのだろうが…………まあ、様子見だな。


 此方はまだ王国側だし、問題はないのだろう。


 シラキリの場合は問題が起きないように、先手を打っているだけだし。


「そうだよ。テーブルでお願いねー。あっ、椅子は三つでね」

「……はい。此方にどうぞ」


 一瞬店員の顔が曇ったが、ミリーさんはわざと言葉を抜いて話したな。


 どうしてか店員が聞くわけにもいかないし、普通に考えれば、奴隷を床に座らせる気なのだと思うだろう。


 案内された席に俺とミリーさんとアーサーが座り、シラキリは……。 

 

「クス……メニューをどうぞ」


 なんの躊躇いもなくシラキリは俺の膝の上に座り、店員は目を真ん丸と開いてから笑う。


 色々と思うこともあるが、先ずは飲み物を選ぶとしよう。


 とは思ったものの、国が変われば、多少なかれメニューも変わる。

 

 酒類や料理の中には見慣れない名前のものがあり、興味をそそられる。


 料理はともかく、酒ならば全種類いけるかもしれないが、そんな金は無いし、後々ライラからお叱りを受ける事となるだろう。


 近くに例のワインもメニューに載っているが、ここ最近はワインしか飲んでいないので、他の酒が飲みたい。


 ホロウスティアでお馴染みのレッドドライもあるが、あの店以外ではショットグラスで出されるのが普通である。


 値段も高いわけではないが、ボトルとなるとそれなりの値段となってしまう。


 悩ましいが、ここは今まで飲んだことが無い奴を選ぶのが無難か……。

 

「サレンちゃんサレンちゃん」

「どうかなさいましたか?」


 悩んでいると、ミリーさんが声を掛けてきた。


 何やら悪い笑みを浮かべているようだが……。


「悩んでるなら、私が選んであげようか? 損はさせないよ?」


 まるでマルチの勧誘だが、ミリーさんの好感度を考えると、ここは素直に誘いを受けておこう。


 最悪、アルコールが入っているならばそれで良いし。


「それでしたらお願いします。何分知らない事が多い物でして」

「了解。料理はどうする?」

「私はミリーさんに合わせます。ミリーさんと一緒ならば大丈夫でしょうから」

「またまたー。おだてるのが上手いねー」


 おばさんみたいな感じでミリーさんは手招きみたいな仕草をして、アーサーにどうするかを聞く。

 

 何故か不服そうに下から突き上げてくる耳を軽く避けてから、頭を撫でて落ち着かせる。


「シラキリはどうしますか?」

「オレンジジュースが良いです」

「ミリーさん」

「はいはい。おーい、注文おねがーい!」

 

 ミリーさんの声を聞いて、先程案内してくれた店員がトコトコと寄ってくる。


 チラリと俺の膝の上を見るが、先程の様な陰のある顔をする事は無い。


「ご注文をどうぞ」

「羊の雲セットを四つと、オレンジジュースが一つ。それから特濃ミードと、ミルクカクテル。後シープビギニングね」

「分かりました。シープビギニングはショットで宜しいですか?」

「ジョッキで」


 店員がおやっ? と首を傾げるが、ミリーさんが耳打ちするとニッコリと頷く。


 ショットからのジョッキへの変更は、どう考えてもダメな奴だと思うのだが、何が出てくるのやら……。


 折角なので軽く店内を見回し、店員や客の様子を見る。


 ほとんどが労働者や冒険者っぽく、奴隷と思われるのもチラホラと居る。


 店員は四人中二人が羊の……山羊の獣人っぽい。


 遠目から見ても立派な巻角であり、少し触ってみたいな。


 俺の頭にも角の断面があるが、触っても楽しいものではない。


 触るならば他人のだ。


 周りのテーブルを見ると、見た事の無い料理もあるが、ポテトやソーセージなど見知った料理もある。


 流石にピアノはないが、一部開けた空間があるので、何かイベントやったりしているのだろう。


「結構いい雰囲気ですね」

「そうだね。念のためにシラキリちゃんにはその恰好をさせたけど、教国に入ってからでも良かったかもね」

「むう」


 シラキリが頬を膨らませて、ミリーさんに抗議をする。

 

 店に着くまでも少しだが、異種族と思われる人が歩いているのを見た。


 そして奴隷はその異種族だけではなく、人の場合もあったりした。


 地球でも過去には奴隷の文化があった訳だし、直接的な表現はしないが、現代の日本にも似たよう者が居る。


 社畜とか。


 これが物語の主人公なら、奴隷なんて駄目と言うかもしれないが、これでも社会の荒波に揉まれた大人だ。


 国が違えば文化が違い、一方的な押し付けをするわけにはいかない。


 流石に虐待をしているのを見れば対応したいが……今はあまり目立つわけにはいかない。


「お待たせしましたー」


 店員の声と共に、酒と料理が運ばれて来るのだが、一つだけ異様と言うか、中々珍しいものがある。


「こちらシープビギニングになります。全て飲めましたら、無料とさせていただきます」


 ただでさえ騒がしい店内で、どよめきが起こる。


 これって、ライラに怒られる案件じゃないんですかね?

 

客A「おいおいおいあれをジョッキかよ」

客B「相変わらずやる事やってんねー」

客C「あんな酒をジョッキでのむのは無理だろ」(フラグ)


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山羊が巻角で羊が直線角って前提で書かれてますが逆じゃ無いですか?
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