第130話:復讐の終わりに
宝物庫でルシデルシアと会話していると、出て行ったライラが帰って来たのだが、雰囲気が妙だった。
何と言うか、オーネストさんの様な覇気と言うか覚悟が決まっている様に見える。
……のだが、俺の顔をじっと見つめた後は全て四散した。
とりあえずライラの用事は済んだと言うことなので、一階へと戻ってミリーさんと合流するべく行動する。
一部消失しているとはいえ、公爵家はとても広い。
警戒して無言でいる必要ももう無いため、さっきの事をライラに聞いてみるか。
「用事ですが、何をしてきたのですか?」
「今は言えぬが、少し物拾いをな……」
拡張鞄を持って出ていったので、何かを取りに行ったのは分かる、その残念なものを見る目はなんですかね?
「きっとシスターサレンならば喜ぶとは思うが……まあ楽しみにしておけ」
「そうですか?」
俺が喜ぶものなら既に、宝物庫で手に入れていれているのだが、一体なんだろうか?
後で教えてくれるのだし、楽しみに待っておくとするか。
「おっ、そっちはもう良い感じ?」
「ああ。回収したいものは回収した。良さそうな証拠は残ってたか?」
「そこそこね。よほど慌てて逃げたんだろうね」
エントランス辺りまで戻って来ると、書類を抱えたミリーさんと合流する。
見るからにホクホク顔であり、気分が良いみたいだ。
「ふんぞり返っている時にこうもなれば、誰だって逃げ出すだろう」
「見事にもぬけの殻だしね。これよろしくね」
「分かりました」
ミリーさんから受け取った書類を拡張鞄に入れ、もう用は無いので屋敷から出る。
次はシラキリとアーサーと合流だが、予定通りにコネリーを捕まえているだろうか……。
返り討ちに遭うことはないと思うが、やり過ぎていないか心配である。
「それでは合流しに行こう」
「そうですね」
「さっさと終わらせて、祝杯といこうか!」
ライラの言葉と共に人気が無くなり、一部が消失している領都から出ていく。
この後王国がどう行動するか俺には分からないが、後の事はミリーさんがどうにかしてくれるだろう。
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グローアイアス家の屋敷を出てから王国方面に一時間程歩くと、壊れた馬車が道の端に放置されていた。
馬車は見るからに豪華であり、これにコネリーが乗っていたのだろう。
「お待ちしておりました。首尾通り、本人だけを捕えてあります」
アーサーがスッと飛び出てきて、予定通りの結果になったことを報告する。
RPGの雑魚敵みたいな現れ方だったが、見た目が見た目なので様になっている。
「案内しろ。殺したら、さっさと此処から出て行くぞ」
「承知しました」
茂みの中に入り五分位歩くと、シラキリと木に縛り付けらた豚……太った男が居た。
「待たせたな。問題は無かったか?」
「余裕でした」
ライラと立ち位置を代わったシラキリは、俺の腹へと突撃して来て、頭を擦り付けてくる。
話しかけてやりたいが、ライラの行動を見届ける方が先だろう。
ライラとは全く似ていないが、こいつがコネリーか……。
猿轡をされ話せないようにされているが、憎々し気にライラを睨みつけている。
後姿だから分からないが、おそらくライラも睨んでいるのだろう。
「久しいな。最後に顔を合わせたのは……ふむ、記憶に無いな。どうやら屑との記憶は無くなってしまったようだ」
「ん-! んー!」
猿轡のせいで何を言っているのか分からないが、コネリーが激怒しているのは顔の色を見れば分かる。
「貴様には随分と、苦汁を嘗めさせられてきたな。祖父様の息子が貴様とは……情けない限りだ」
ライラはグランソラスを抜き、コネリーへと見せ付ける。
本当に殺されると思ったのか、コネリーはジタバタと暴れだすが、しっかりと縛られているみたいで、身動きを取れない。
「これが欲しかったのだろう? 相手だけではなく、使い手すら喰らう邪剣。貴様の事だ、祖父様の話を嘘だと思ったのだろう? たかが剣……なんてな」
グランソラスをコネリーの腕へと刺し、後ろの木に固定する。
怯え、乞うような仕草をコネリーはするが、ライラは全く意に反さない。
「最後だ。グランソラスに喰わし、魂すらも葬ってやろう」
「や、止めてくれ! 俺が悪かった! 謝る! 謝るから!」
運悪く猿轡が外れ、コネリーの汚らしい声が響く。
だが……。
「――喰らえグランソラス」
「あ……ああ……メー……テル」
コネリーは瞬く間に干からびていき、灰へと変わって風に流されていく。
流石ルシデルシアが造っただけの事はあり、えげつない機能を持っている。
最後に何か言っているような気がしたが、きっと気のせいだろう。
しかし、悪党の最後とは呆気ないものだな。
あれだけの兵が居て、あれだけの豪邸に住んでいても、最後はこの様だ。
俺もこうはならないように、誠実に生きないとな。
「やはり、なんの感慨もないな……」
「大丈夫ですか、ライラ?」
「ああ。こんな屑に人生を狂わされていたと思うと、怒りが引かないだけだ」
ライラはグランソラスを鞘に納め、そっぽを向く。
ライラの暮らしは相当悲惨だったらしいからな……。
殺しって結構な事だと思うが、それでも怒りが引かないとは……人はだれでも残忍になれると言うことだろう。
「終わったなら、さっさとお宝を回収して逃げようか。情報を操作しているとはいえ、完璧じゃあないからね」
「財宝が積んであった馬車は土魔法で囲って隔離してあります。直ぐに回収しますか?」
「そうですね。いつまでも此処にいるのは憚られますからね」
かなり凄い事をしたはずなのに、なんだか盗賊をしている気分になって来たな。
シラキリは我関せずだし、元々裏の存在であるアーサーはコネリーの死を何とも思っていない様に見える。
ミリーさんは……うん。顔に早く酒が飲みたいと書いてあるだけだ。
本当に人の命が軽いなぁ……。
『サレンの世界と違い、幼子の命は金貨よりも軽い。世界が違うのも理由だろうが、奪い奪われが当たり前に根付いている』
(それは元の世界だって一緒さ。時代の流れによって平和そうに見えるが、他の国によってはこの世界より悲惨な場所がある)
平和とは他を落とす事から始まる。
皆が皆勤勉ならともかく、誰だって楽をして暮らしたい。
要因なんてのは他もあるが、人類皆平等なんてのは不可能だろう。
『それでも……だ。見せかけとは言え、規律の上で維持できているのならば、平和だろう』
(そんなもんかね)
ルシデルシアと他愛も無いとは良い難い話をしている内に、アーサーが言っていた馬車の所に着く。
中には宝物庫の中よりも高価そうなものが大量に積まれており、一体いくらになる事やら……。
「うーん流石にこれを全部持ち帰るのは無理だね。かと言ってみすみすここに置いてって、王国に奪われるのも嫌だし……ライラちゃんライラちゃん」
「なんだ?」
それなりの量を収納できる拡張鞄だが、既に色々と詰め込んであるので、馬車に積まれている物を全て入れる事は不可能だ。
なので、ミリーさんはくねくねと動きながら、ライラの事を呼んだ。
「六割で輸送と現金化をしてあげても良いけど、どうする?」
「我らが集めている分もやってくれるなら考えよう。無論両方とも税をかけるなよ?」
「それ位は構わないさ。これだけあれば、多少は私の所まで降ってくるかもしれないしね」
あれよあれよと話は進み、馬車の財宝と拡張鞄に入っている財宝の処遇が決まる。
六割も持っていかれるのはどうかと思うが、税金を引かれないならば結構残るはずだ。
どれ位の金になるかは、ホロウスティアに帰ってからの楽しみにしておこう。
「一応言っておくが、リストと価格を書いた紙を用意しておけよ?」
「流石に誤魔化しはしないさ。次の街に着いたら、早速連絡を入れておくよ。袋は地面に埋めておけば大丈夫だから、よろしくね」
「承知しました」
財宝の入った袋を地面へと下ろし、アーサーがガイアセイバーを抜いて魔法を使うと、地面へと沈んでいく。
これなら埋めたとは分からないが、掘り起こす時は分かるのだろうか?
「これで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。後はうちの黒翼に頑張ってもらうから」
「馬車は燃やしておくぞ」
ミリーさんが近くの木に傷をつけ、ライラが一瞬にして馬車を灰にする。
手際の良い人達だ。
これで、本当に終わりだ。
そして、始まりでもある。
しばらくの間はライラの様子を見るとして、教国は王国よりも距離がある。
流石にずっと徒歩とはいかないので、国境付近から馬車で行く予定だ。
パスポートなんてものは無いし、ライラは髪が髪なのだが、そこはミリーさんが上手く運んでくれると言ってくれた。
流石に、また山を越えて国境を越えるのは大変だからな。
森と山では野宿の難易度が違う。
「では、出発しましょうか」
「ああ。これで憂いは無い……ない」
一瞬ライラが遠くを見るような素振りをするが、まだ何かあるのだろうか?
……いや、今はそっとしておくか。
ライラよりも、気にしなければいけない事があるからな。
ライラ「アーサー。骨を埋めておけ。誰のも見つからないようにな」
アーサー「承知しました」
シラキリ「(臭いおじさんだったな)」