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第128話:偽りを騙る神

 ルシデルシアの名乗りを聞いて、ミリーは憎悪と歓喜の矛盾した感情を抱いた。


 会いたかった存在に、遂に会うことが出来たのだ。


 ミリーの目的としている神ではないが、足掛かりとなるかもしれない。


 けれども、押さえきれない程の殺意がミリーの中で渦巻く。

 

 それを表に出すのはまだ早い。そう自分に言い聞かせて、平静を保つ。


「余の事はよい。先ずはどうしてこうなっているかを話そう」


 ルシデルシアのカバーストーリーを瞬時に考え、その事を話す。


 サレンは突如身体の自由を奪われ、どこからか飛んできた剣に貫かれ、気を失ってしまった。


 流石にこれは不味いと思いサレンへと憑依し、剣が飛んできた方に報復として魔法を放った。


 サレンに戻ろうとしてみたが、サレンがまだ気を失ったままのため、ルシデルシア本人も途方に暮れている。


 そういった内容だ。


 ほぼ事実ではあるが、ワザと伏せている情報がある。


 それは相手の正体と、剣の正体の二つだ。


 その事を二人に話す訳にはいかず、ルシデルシアが激怒した理由である。


「怪我の方は見ての通り問題ないが、もっと注意するように言っておけ」

「我がこんな場所に連れ出したばかりに……」

「気にするでない。選んだのはサレンだ。幼子の道を示すのがサレンの役目であり、その結果もまたサレンのものだ」


 慰めなのか微妙な言葉を投げかけるが、ライラの顔が晴れる事は無い。


 だが、ここで時間を潰してもいられないので、気持ちを切り替える。


「大体の事は分かったけど、因みにサレンちゃんが記憶を失っている理由って知ってる?」

「知らん。個人の問題に余が関わる事はない」

「なるほど。サレンちゃんの事が聞ければと思ったけど、残念だね」

「命の危険があろうとも、本来ならば余が出張る事もないのだが、今回は訳あってな……」


 嘘か、それとも本当か。ミリーには判断できないが、憑依するほどの存在なのに何も知らないのかと、反論した所で反感を買うだけだ。


 それよりも、聞かなければならない事がある。


 出来ればライラの居ない所で聞けるのが理想だが、こんなチャンスがまた訪れるか分からないし、いつサレンが目覚めるかも分からない。


「ちょっと聞きたいんだけど、サクナシャガナって神を知らないかな?」

「……知ってはいるが、余が話せる事は何も無い」


 一瞬ルシデルシアは動揺しそうになるが、にべもなく話す事を拒む。


 サクナシャガナはルシデルシアの記憶だと豊穣の神である。


 そして、今ではサタニエル教の神とされている。


 ここまではサレンと共に集めた情報だが、此処に先程話さなかった情報が加わる。


 一つ目が、サクナシャガナが墜ちて邪神となっていたことだ。


 邪神と言っても、なる方法や定義は様々だが、その中でもサクナシャガナは、ルシデルシアが考える中でも最悪の方法を取っている可能性が高かった。


 正確には邪神と言う訳ではないが、その言葉が一番しっくりとくる。


 何せ、神の武器に呪詛を込めて放ってきたのだから。


 そしてサレンが気を失ったのも、呪詛に当てられたからだ。 


 もしも人があの剣を受けていれば、剣と同じく腐って死んでいただろう。


 王国の毒よりも強力であり、おそらくルシデルシアかディアナ以外は、抗うことも出来ないだろう。


 そんなサクナシャガナについて聞いてきたミリー。

 

 そして僅かに溢れ出た憎しみの感情。


 それだけでルシデルシアは大体の事を察することが出来た。何せ……。

 

(余だけの知識では判断出来ぬが、サレンの知識と合わせるに、こやつは……)


 ルシデルシアは目を細め、ミリーを憐れむように見る。


 今此処に居る三人は、誰一人として純粋な人ではない。


 特にミリーはライラと違い、人の腹から生まれてすらいない可能性がある。

 

 ルシデルシアは、その事が不憫でならなかった。

 

「ふーん。因みに敵だったりする?」

「一応な。詳しくは話せんが、貴様らが教国に行くのにも少なくない関りがある。万が一会う事があれば、死ぬ気で逃げろ」


 エデンの塔がなくなり、神は地上に降りる事が出来なくなった。


 だが、裏技がない事もない。


 現にサクナシャガナは現れ、ルシデルシアに自身の存在をひけらかし、嫌がらせをしてから逃げた。


 タイミング的にルシデルシアに気付いていない可能性もあるが、放たれた剣の凶悪さを考えると、その可能性は低い。


 人が神に勝てる道理はない。


 ルシデルシアなんてイレギュラーも居るが、敵対する神と会ってしまったら、逃げるしかない。


 弱い神でも人とは格が違い、下手な攻撃では傷を付ける事すら出来ないからだ。


「出来ればこの手で殺せたらなーなんて、考えてるんだけど?」

「無謀な事は止せ。人の身でいる限り、ただの自殺行為だ。殺したいならば、相応の格と武器が必要だろう」


 無理だと言いながらも、この場にはライラが存在している。


 神喰ならば名前の通り神を殺しうる力があり、ライラも神としての力は喰われてしまっているが、神喰の力を開放すれば、格としても足りる。


 問題としては、これから戦うであろうサクナシャガナとは相性が悪いという点だ。

 

 戦うことは出来ても、倒すことは出来ないだろう。

 

 そしてルシデルシアの物言いに、ミリーは自分の事が気付かれたのかと、少なくない動揺をした。


 ……いや、相手は神なのだ。人が思いもよらない方法で、相手を知る事が出来てもおかしくない。


 あまり人に知られたくはない過去だが、ライラには分からないように遠回しな表現をしているので、漏らす気は無いのだろう。


 話し方は尊大だが、サレンが信奉する神なだけはあり、優しさを感じる事が出来た。


 自分の手で始末をつける事は叶わないかもしれないが、サレンと居ればサクナシャガナが死ぬ場面に、居合わす事が出来るかもしれない。


 それだけでも十分な収穫だ。


「む。ようやくか。余の事はサレンには内緒にしておいてくれ。心配を掛けたくないからな。折を見て本人には余から伝えておく」

「シスターサレンのためならば、その提案を受けよう」

「それ位はお安い御用さ。その代わり、サクナシャガナを殺すなら私に一声かけてね」 

 

 ルシデルシアが目を閉じると、角が空中に溶ける様に消え、髪が赤く染まっていく。


 サレンやルシデルシアについて気になる事が、ミリーはまだまだあるが、最低限知りたい事は知れた。


 後はライラの手により、最後の後始末をすれば、王国での用事も終わりとなる。





1







 ふと意識が覚醒すると、目の前にライラとミリーさんが居た。


 それと、草原の一部……大部分がくり抜かれた様になっており、領都も一部消失している。


 腹に突き刺さった筈の剣は無く、傷口も塞がっていて痛みも感じない。


 ……何が何だか訳が分からんが、多分ルシデルシアがどうにかしてくれたのだろう。


(すまんな)


『気にするでない。それと、余の事をサレンに話すなと言ってある。しらばっくれて、何も覚えていないとしらを切れば問題無いだろう』

 

 後処理も完璧とは流石魔王様だ。


 ここからは俺次第だな。

 

「……少しお腹がすーすーしますが、どうなっているのでしょうか?」

「サレンちゃんは偶然飛んできた矢が刺さって気を失ってたんよ。怪我は勝手に治ってたよ」

「ああ。奴らがあんな手段を持っているとは思わなかった。身体に異常は無いか?」


 雑な理由だが、これに乗っておけば良いだろう。


 後は適当に流せばいい。


「そうなのですか……身体には異常はないと思います」

「それは何よりだ。見ての通り、雑魚共は全員いなくなった。後はコネリーの首を落とせば終わりだ」

「そっちはシラキリちゃん達が如何にかしているでしょう…………えーうん。両方とも生きていればだけど」


 ミリーさんは綺麗にカットされている方を見て、ぽつりと呟く。


 俺の語彙力でこの惨状を表すのは難しいが、分かりやすく言えば、山が綺麗に半分にカットされ、カットされた側は何もない地面だけが残っている。


 そんな感じだ。


 ライラが殺しただろう死体が大量に転がっているが、どうせルシデルシアの仕業だろう。


(シラキリ達は大丈夫なのか?)


『余が本気なら、全てを闇に葬っている。しっかりと当たらないように調整した結果だ』 


 死体も建物も、草木すら無くなり剥き出しとなった大地。


 ミリーさんが途方に暮れるレベルだが、これでも本気では無いとは恐れ入る。


 ペインレスディメンションアーマーの時も大穴を開けていたし、 ルインプルートネスとの戦いも、結構な自然破壊をしていた。


 魔王らしく、派手な破壊の跡だな。


 一体何があったか聞いても良いが、藪蛇なので聞かないでおこう。


 見て見ぬふりをすればいい。


「先ずは向かうとしよう。雑兵はいないが、皆殺しできたわけではない。シラキリ達も戦っている可能性があるからな」

「奴隷を従えているくらいだし、面倒な相手は向こうに固めているかもしれないしね。ゴーゴー」


 さっさと空気を切り替えたいのか、二人揃ってここから離れようとするが、腹部に穴が開き血に濡れている今の俺をシラキリが見れば、二次被害が出る可能性がある。


「その前に、着替えをしても宜しいでしょうか? 流石にこの格好で出歩くのも……」

「……そうだな。騎士達が使っていたテントを借りるとしようどうせ最後は纏めて焼き払うからな」


 死体なんて放置していれば魔物をおびき寄せるし、疫病の元となる。


 ライラだから言える事だろうが、この量の死体を焼くなんて普通の魔法では難しいだろう。


 とりあえず、さっさと移動して着替えてしまうとしよう。

 

ルシデルシア「(まったく、油断しおってからに)」

サレン「(動こうにも動けなかったんだから、仕方ないだろう)」

ルシデルシア「(しっかりと防具を装備しておけば、もしかしたら何とかなったかもしれないだろう?)」

サレン「(お前は昔防具とか装備してたのかよ?)」

ルシデルシア「(当たり前だ。まあ、物理的というよりは魔法用の物だがな)」

サレン「(なら今度見せてくれよ)」

ルシデルシア「(構わぬが、これからは武器だけではなく、防具の事にも気を遣えよ?)」

サレン「(分かったよ……)」

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― 新着の感想 ―
これでフルフェイスヘルメットみたいなの付け出したら危ない人感ばり増えるけど、サレンさんレベルの目つきだとフルフェイス逆にありよね。
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