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第124話:夜の語らい

「それはきっと神も変わらないのでしょうね。信仰が無ければ神は弱くなり、神が居なければ人は生きる事が出来ないのですから」

「……どういう事?」


 おや? ルシデルシアが言っていた神の存在意義を知らないのか?


 この世界は火や水と言ったものから始まり、様々なものを司る神が居る。


 司るとは呼んで字の如くであり、水関係を司る神が全員消滅すれば、この世界から水が無くなってしまう。


 そんな感じだ。


 まあ消滅して直ぐにどうこうなるわけではないらしいが、それでも立て直すなんて事は先ず無理だろう。


 ……この事は軽くミリーさんに話しておいた方が良いか。


「この世界には様々な神が居り、様々な事柄を司っています」

「うん」

「神が居るから世界は成り立ち、人の信仰があるから世界は成り立っています」

「……ふむふむ」

「どちらか一方が消滅すれば、もう片方も生きていけない、相互扶助の様な関係となっています」


 ミリーさんは少しの間黙り込み、真剣な表情で俺を見てくる。


 頭の良いミリーさんなら、俺が言いたい事を理解してくれているだろう。


「もしかしてさ……教国の件って、わりと世界の危機だったりする?」

「記憶の無い私の知識があっていればですが、その可能性があります」

「……私が集めた情報と当て嵌めると、サレンちゃんの言葉は信用できちゃうんだよね」


 何やら出回っていないルシデルシアとかの情報を集めていたのだし、そこに付随する神の情報を持っていてもおかしくない。


 頭を抱えだしたミリーさんは酒を一気飲みし、それから項垂れる。


「因みにだけど、サレンちゃんはどう思っているわけ?」

「どうとは?」

「相手方の目的について」

「分かりませんが、最終的には世界が滅びる可能性があるので、それかと」 

 

 ルシデルシアと話しても、相手のしたい事が見えてこない。


 最終的な結果が分かっていても、どうしてこんな馬鹿な事をしているのかが分からない。


 ルシデルシアみたいに神の力を取り込むなんて…………おや?


(仮に何だが、もしもその神がルシデルシアみたいに他の神を取り込むなんて出来るならどうなんだ?)


『不可能なはずだが、出来るならば唯一神なんてモノを、目指す事も出来るやもしれん』


(その不可能ってのは?)


『神は核の大きさに限りがあり、どれだけ信仰が集まろうとも上限があるのだ。多少なら上限を上げられるらしいが、神が神である以上唯一神にはなれん』


 何かしらの法則があるって事か……。


(それなら何でルシデルシアは神を取り込めたんだ?)


『余は言わば、人造の神みたいなものだ。余が耐えられるならば幾らでも取り込むことが出来る』


 若干答えになっていないが、要はルシデルシアが特別だからって事だろう。


「世界の破滅ね……確たる証拠でもあれば他の騎士も動かせるんだけど、現状じゃあ無理だしなー……何でそんな大事な事を教えてくれなかったのさ?」

「てっきり知っているものかと思いまして……」

「記憶……無いんだもんね」


 頷いてから、黄昏ているミリーさんのコップにワインを注ぐ。 


 それから自分のコップに注いだら丁度空になったので、新しいのを取り出して置く。


 これまでミリーさんには世話になって来たが、同時に色々と虐められもしてきた。


 その意趣返しには丁度良い内容だろう。


 俺が味わった苦しみを味わってほしい。


「はぁ……アルコールが沁みるね」

「はい」


 多分ミリーさんの頭の中に、王国の事は殆どないだろう。  

 

 事は人と人との戦いではなく、神が関わっているのだ。


 エデンの塔が無いので直接対峙することは無いだろうが、勇者や聖女と呼ばれる連中が居る。


 行って偵察して終わり…………なんて事は無い。


 ほぼ間違いなく、戦いに発展するだろう。


 ホロウスティアでの教国の動きを見るに、結構危ない領域に入っていそうだし。


 何となくなりふり構わずって感じもするし、思いの外大それた目的があるわけではないのかもしれないな。


「もしもだけどさ、勇者を相手になんてすることになれば、ライラちゃんでも勝てないかもよ?」

「個人的に武力でどうこうで出来るとは思っていませんし、逃げるだけならばアーサーの剣があれば出来るかと。それに、どうなるかはミリーさん次第でしょう?」


 教国はミリーさんが、一緒に来るから寄るようなものである。 


 ついでに何が起きたとしても奥の手があるので、誰かが死ぬなんて事はまず起こらない。


「……まあサレンちゃん達だけなら、観光して終わりで済むことでもあるしね」

「そうですね。そしてこの事を話さなければ、ミリーさんもその様な予定だったのでは?」

「あそこっていけすかないけど、お酒が美味しいんだよね……」


 それはありがたい情報だな。楽しみが増えるってものだ。


 国に対応するのは国って訳で、ライラの件はちゃんと頑張るが、教国への対応は帝国に任せる。


 それにしても、外で飲む酒と言うのも風情があるな。


 追手も山を下りてからはいないようだし、街では問題もあったが、気楽なものだ。


 学生の頃に行った、林間学校を思い出す。

 

 消灯の時間の後に遊んでいたのがバレて、教師に怒られたっけな。


 大抵の物はモバイルバッテリーが有れば動かせるし、電波もテザリングやモバイルWi-Fiがある時代だ。


 それに、消灯の時間が早すぎるのがいけない。


 せめて二十二時じゃなくて、二十四時なら普通に寝ていただろう。

 

 ふと空を見上げると、綺麗な星空が木々の合間から覗いている。

 

 星座についてはほとんど知らないが、地球で見えていたのとは別なのは分かる。

 

 ……星が見えるって事は、この星は惑星なのか……。


 まあそれが分かった所で、どうこう出来るわけではないが、この星空がいつでも見られる様な世界であって欲しいものだ。

 

「あらら、ワインなくなっちゃったね」

「そうですね。まだ買ったのはありますが、今日はここまでにしておきましょう」


 二本目のワインが無くなり、今日の飲み会は終わりとなる。


 俺の方の気分は良いが、ミリーさんは気が重いだろうな。


 何せ、知らなければ増えなかった仕事が増えてしまったのだからな。


「あれを使ってもらって良い? このままだとライラちゃんにバレちゃうし」

「はい」


 酒場でいつも使ってる酔いが醒める奇跡を使い、俺とミリーさんから酒を抜く。


 これがなかったら、いくら隠れて飲んだとしても、ライラにバレてしまうだろうからな。


 使い勝手の良い奇跡である。


「次は私が寝るねー」


 よっこらせと、年より臭いことを言いながらミリーさんは立ち上がり、寝ているライラを起こしにいく。


 見張りをする時に、最後に寝るのは俺かシラキリである。


 理由は、一番休むことが出来るからだ。


 俺としては年下であるライラにこそ休んで欲しいのだが、一番体力が無い筈である俺に休んで欲しいと言われてしまった。


 多分この中で一番体力や身体の強度があるのは俺なのだが、ライラ以外からも言われてしまったので、渋々受け入れた。


 ミリーさんだけは俺が体験入団でやらかした事を知っているので、苦笑いをしていた。


 焚き火の火が弱まってきたので、木の枝を追加していると、隣にライラが腰を下ろす。


 寝起きなのに寝ぼけている様子は無く、申し訳なさそうにしている。


 俺がミリーさんに、怒られていた事を気にしているのだろう。

 

「昼間の件は、我の頼みのせいですまなかったな」

「気にしないで下さい。あれは事故みたいなものだったのです」

「そうか……ホロウスティアに比べれば……いや、酷い街だったろう? 我はあまり知らないが、昔に比べると酷い暮らしになっているらしい」


 ライラは髪のせいで、人前にほとんど姿を現すことが出来ないと言っていたな。


 出たとしても石を投げられ、まともに歩く事すら出来なかった。


 今日俺の演奏を聴いてくれていた人々も、ライラを前にすれば狂変するのだろう。


 根付いた風習と言うモノは、ちょっとやそっとでなくせるものではない。


 無くすための種まきをしたが、芽吹くのは相当先だろう。


 イノセンス教は、悪人以外は差別しない。


 平等を謳うわけではないが、不当な扱いをしてはいけないと聖書に書いてある。


 少女が復讐のために剣を手にするなんて、現代では考えられない事だ。


 俺から苦言を呈したり、復讐は止めろなんて言うことは出来ない。

 

 一般人の俺には、寄り添うくらいが精一杯だ。


「そうですね。ミリーさんが言うには物価も相当高くなり、品質も下がっているとか」

「……グローアイアス領はワインが有名でな。我も祖父からよく飲まされていたのだが……シスターサレンにも飲んでほしかったが、叶わなそうだな」

 

 溜息と共に吐き出される言葉に少しドキリとしたが、先程まで俺とミリーさんが酒を飲んでいた事に、気付いたわけではなさそうだな。

 

 今日飲んだワインだが、侯爵家で貰ったワインが十万円と仮定すると、約五千円位のものだった。


 その癖値段は三万円程であり、通常時なら多分買わないでいただろう。


 オススメ……泣きながら土下座され、ミリーさんも確認のためと買ったがあまり美味しい物ではなかった。


 ライラがいつもワインを飲んでいるのは、祖父の影響なのだろう。


 そして、思い出でもあるのだろう。


 ライラが言う美味しいワインを飲んでみたいが、それは将来の楽しみに取っておこう。


 ライラが大人になる頃には、きっとグローアイアス領も復興しているだろうからな。


 まあ名前は変わっていると思うけど。

 

ライラ「そう言えば町ではバイオリンを演奏したらしいが、いつ練習していたのだ?」

サレン「寝る前にですね。興味を引く程度と考えていたので、ちょっぴり弾ける程度の腕前です」

サレン「(やべ、咄嗟だったせいで、良い言い訳が思い浮かばなかった)」

ライラ「そうか。機会があれば、バイオリンも聴いてみたいものだな」

サレン「王国から教国までは距離があるので、その時にでも」

サレン「(信じて貰えたようで何よりだ)」

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