第120話:しばしの別れ
山では山賊と遭遇した後、何回か魔物と遭遇しただけで問題なく越す事が出来た。
道中シラキリに、投げた武器について聞いたのだが、やはりドーガンさんの所で作った武器だった。
名称こそ無いものの、見た目はどう見てもクナイである。
強いて俺の知っているクナイと違う点があるとすれば、魔石が埋め込まれて魔導具となっている点だろう。
魔力を通す事でクナイは闇の属性を纏い、視認性が悪くなる。
更に外部からの魔力を吸収する作用もあるらしく、魔力を感知して防ぐのも難しい。
人ならば喉を狙えば必殺となり、関節を狙えば動きを阻害する事が出来る。
魔物相手には決定打とはならないが、牽制程度には使えるらしい。
遠距離手段に乏しいという事で装備しているらしいが、もうシラキリはくノ一や忍者と呼べるんじゃないですかね?
まあ下手な事を言えばミリーさんに出身を探られる事となるので言わないが、今度忍び装束でも作ってみるかな。
ドーガンさんに頼めば防具として良い物が作れるだろうし、少し楽しみである。
そして装備ついでに知ったのだが、シラキリとライラは武器を買った時の、元の金額をドーガンさんに払い終えていた。
たった数ヶ月で数百万を稼ぐ少女達。
異世界だからってやりすぎではないだろうか?
オーレン達なんて数十万の支払いに困窮していた位なのに、その十倍をサクッと稼いでいる。
ミリーさんの助けがあったのだろうが、戦闘能力が高すぎる。
ライラはまだ分かるが、シラキリは間違いなく俺のせいなのだろうな……。
初めての治療でもあったし、何かしら不具合が有ってもおかしくない。
(そこの所どうなんでしょうか?)
『分らんと言いたいが、心当たりはある』
あったかー。あっちゃったかー。
(それは聞いても問題ないやつか?)
『うむ。サレンならば分かると思うが、聖女と勇者とは魔王とは違う意味でセットの様なものだ。そして勇者を選定するのは聖女の役目だ』
……ああ。ルシデルシアが言わんとしていることが分かってしまった。
(前にルシデルシアが言った通りならば、俺はそんなこと出来ないはずだが?)
『我はその時寝ていたから不確かだが、僅かにディアナの鼓動を感じた。おそらくだが、サレンを助けるために最後の力を振り絞ったのだろう』
そう言えばライラの時よりも、シラキリを助けた時の方が、光が強かった気がするな。
目を閉じていたので少々あやふやだが、それならば説明がつく。
(因みにその選定とやらの効果は? シラキリを見る限りとんでもなさそうだが?)
『サレンが思っている程凄いものではない。身体が少し頑丈になるのと、信頼度によって全体的な性能が上がるだけだ…………上限は無いがな』
(つまり、シラキリの感情。或いは想い次第ではどこまでも強くなると?)
『人の枠を脱する事は無いが、そんな所だろう。しかし、ここまで急成長するとは、きっとディアナも想定外であろうな……』
珍しくルシデルシアが弱気だが、少し前までただの孤児だったのに、先程は一投一殺で山賊を殺し、音もなく姿を消すなんて技を披露していた。
戦い方は勇者というより暗殺者よりだし、たまに見せる暗い表情は勇者と呼ぶには程遠い。
『因みに選定をしたかどうかはディアナに聞かなければ分らぬし、解除もディアナでなければ出来ん。余も良く分からぬ魔法故、どんな影響があるか分からぬが……まあ大丈夫だろう』
何が大丈夫か分からないが、強い味方がいて困る事は無い。
情緒だけが少々不安だが、頭さえ撫でておけどうにかなるだろう。
しかし、ルシデルシアの能力も脅威だが、ディアナの能力も色々と凶悪だな。
もしかしたらシラキリが特別な可能性もあるが、生い立ちを聞いた限り、ライラの様な特殊なものはなかった。
だとすれば、シラキリの想いが成した強さ……そう言う事だろう。
(因みに、ミリーさんも異様に強いと思うんだが、あれは?)
『暇つぶしに少し調べているのだが、妙な気配を持っているみたいだ。かなり陰気で、僅かながら神気を感じさせる。可能性の域は出ないが、純粋な人ではないのかもしれんな』
……はっ?
(それはどう意味なんだ? 他種族とのハーフとかって訳ではないんだろう?)
『まあな。推測の域を出ないが、おそらく人工的に作られた存在なのだろう。そして神や宗教を良く思っていない辺りから思うに、おそらくどこかの馬鹿が人工聖女でも造ろうとしたのだろう。過去に似たような事もあったから、可能性としては高いだろう』
ルシデルシアの言っている事は可能性の話ではあるが、わりと信憑性はあるんだよな。
いつもはニコニコしているミリーさんだが、宗教関係の話となるとたまに顔色が悪くなる。
声音は変わらないが、あのミリーさんが顔に出すのだ。
かなり酷い過去なのだろう。
(それ以外の可能性はあるか?)
『後は生まれた後に何かしら改造されたなんて可能性もあるが、秘めたるものを考えれば、最初からデザインされたのだろうと余は考える。年齢の割に幼い見た目なのも、それならば納得できる』
そんな遺伝子操作なんて高度な事が出来るのか疑問だが、魔法があれば可能なのかも知れないな。
内臓が飛び出た瀕死の人間をその場で治すなんて、現代では不可能だが、この世界では可能である。
科学からとはまた違ったアプローチがあってもおかしくない。
個性豊かと言えばそれまでだが、この面子にまともな奴は誰も居ないのだろうな……。
どうせアーサーも、それなりに暗い過去を持っているのだろう。
(まともなのは俺だけなのだろうか?)
『元の世界ならともかく、この世界では貴様は異物そのものだ。望むならば、世界征服でもしてみるか? どうせまともな定命ではないのだからな』
(やる気もないのにそんな事を言うな。そんな事をするくらいならば、適当に旅をするさ)
身体の素材は普通だが、そこに色々と混ざったせいで俺の寿命は相当長いらしい。
老いるかすら分からないし、折を見て真実を告げるか、人知れず消えなければならない。
それにしても、よくミリーさんはルシデルシアやサレンディアナの事を調べたな。
推理はほぼニアピンだったし、俺が調べた限りホロウスティア内で、ルシデルシアなどの名前は見つからなかった。
おそらく他国まで調べに行ったのだろう。
黒翼騎士団……本当に恐ろしい所だな。
「もうそろそろ立ち寄る予定の街だね。ライラちゃんは駄目だとして、誰が行く?」
ルシデルシアの雑談に付き合っている内に、目的の街の近くまで来たみたいだな。
ここまでで人に出会ったのは山賊の一件だけであり、ライラも念のため外装で髪を隠しているので、問題は起きていない。
だからと言って街での補給にライラを連れていく理由は無いので、ライラはお留守番である。
スッとシラキリが手を上げるが、ライラが腕を掴んで下ろす。
どうみても少女のシラキリが、戦支度している街に行くのは不自然だ。
しかも装備が装備なので、孤児なんて言い訳は出来ない。
残されるのは大人の三人だが……。
「私は行かない方が良いでしょうね。顔を知っている者はいないと思いますが、ゼロとは言い切れませんから」
そんな訳でアーサーも駄目となり、俺とミリーさんが向かう事となる。
もしも公爵家を襲ってホロウスティアへ帰るならば、ここで補給をしなくても良いのだが、教国に向かうとなると如何しても物資が足りなくなる。
だからどうしても街で補給しなければならない。
「それでしたら私とミリーさんで行ってこようと思います。シラキリとアーサーは先に行きますか?」
「……そうですね。ライラが指定した日まであと三日なので、先に行って準備しておこうと思います」
此処まで順調であり、日程にも予定はあるが、アーサーとシラキリの役割を考えると、早めに移動しておいた方が良い。
シラキリの耳がペタンと萎れていくが、こればかりは仕方がない。
拡張鞄からシラキリとアーサーの荷物を取り出し、必要となるだろう食料を渡す。
それと例のポーションも念のため渡しておく。
結局ライラだけを外で待たせる形となってしまうので、なるべく早く帰ってくるとしよう。
「それじゃあ私とサレンちゃんは行ってくるね」
「我はそこに見える森の中で待機していよう。帰ってきたら適当に魔法を放ってくれ」
「了解。そっちの二人もへまをしないようにねー」
別れ間際にシラキリの頭を撫でてから、ミリーさんと一緒に街の方を目指して歩き始める。
ホロウスティア以外の街に初めて行くが、一体どんな感じなのだろうか?
アーサー「しっかりと任務をこなして、サレン様の役に立ちましょう」
シラキリ「……コク」頷く
アーサー「相手は間違いなく格上となるので、確実に殺して下さいね」
シラキリ「大丈夫……フンス」耳ピン