表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/199

第114話:ドーガンの災難

 サレン達が最初に向かうのは、冒険者ギルド近くにある喫茶店である。


 そこで今日の予定を軽く話そうと思っているのだ。


 ライラ達とシラキリは喫茶店の裏手に周り、気付かれないように息を潜める。


 出来れば中に入って様子を見たいが、流石に気付かれてしまうので、シラキリの耳で会話だけでも聞く事にしたのだ。


「どうだ?」

「今日、これから行くところについて話しているみたい。それと、あいつの名前はミシェルっていうみたい」

「ミシェル……なるほどな」


 何となくライラは事情を察し、少しだけ安堵する。


 体験入団では色々と問題が起こり、サレンがミシェルを助け、そのお礼といったところだろう。


 或いはネグロにより、無理矢理付き合わされているのか……。


 何はともあれ自分達に内緒で逢引の様な事をしているのは気に食わない。


 その想いはシラキリも同じであり、いつも以上に目のハイライトが消えている。


「……ドーガンさんのお店に行って、それからダンジョンに行くみたい。ダンジョンはミシェルがもう選んでいるそう」

「最初から計画していたと言うわけか……ダンジョンの名前は?」


 ダンジョンは冒険者ギルドにより管理されており、完全予約制となっている。


 そのため、突発的にダンジョンに入るのは基本的に出来ない。


 だが、ライラ達は混雑していないダンジョンならば、予約しなくても入ることが出来る。


「ダンジョンは……青の庭園(ブルーガーデン)

「F級のダンジョンか。確かあそこはデートスポットとして有名だったな」


 ミシェルの思惑が分かり、二人はミシェルを排除するべき敵と定める。


 流石に殺す気はないが、どうにかして今回のデートを台無しにしてやろうと、二人は心に誓う。


「我はダンジョンの入場許可を取ってくる。シラキリは引き続き尾行を頼む。何かあれば実力行使しろ」

「言われなくても」


 シラキリは再び会話を盗聴するために集中し、ライラは東冒険者に居るマチルダへ会いに行く。


 話を聞いているシラキリの胸の中では徐々に暗い感情が増幅していくが、感情に任せて行動をするほどシラキリは子供ではない。


 しかし、ミシェルがサレンにあーんをしてもらったり、ミシェルのデレデレとしている声を聞いていると、暗い感情とは別にサレンへの怒りが湧いてくる。

 

(今度二人っきりで出掛けよう……絶対)


 もしもミシェルが、ここ最近毎日サレンと寝ているシラキリの事を知れば、逆にミシェルが嫉妬に駆られるだろう。








1







 喫茶店で話をした後、サレン達は馬車に乗ってドーガンの店へと向かった。


 シラキリと合流したライラは、サレン達よりも一足先にドーガンの店に向かい、店の中で待機しようとしていた。


「おっ、嬢ちゃん達か。武器の調子はどうだ?」

「今の所は問題ない。言い忘れていたが、これからしばらく留守にする予定だ」

「まあ代金は払って貰っているから良いが、どれ位で帰ってくる予定だ?」


 ライラとシラキリは暇を見てはダンジョンへと潜り、金を稼いでいた。


 そこにはミリーの手助けもあったが、ドーガンへの正規の支払いを終えていた。

 

 支払いとは別に素材の採取も続けているが、それは善意の物である。


「早くて二ヶ月位だな。折角だから、武器のメンテをしてくれ。明日までにな」

「構わないが、兎の嬢ちゃんのもか?」

「お願いします」

「分かった。予備の武器は、店の中にあるのを適当に使って良いぞ。」

 

 やれやれと頭を掻きながらドーガンは二人の武器を受け取り、店の裏手に持っていく。


 その間にライラとシラキリは適当に武器を選んで装備していた。

 

 丁度ドーガンが帰ってきた辺りでシラキリの耳が反応し、ライラへと視線を送る。


 もう直ぐ、サレン達がやってくるのだ。

 

「しばし裏手を借りるぞ。それと、もう直ぐシスターサレンがやってくると思うが、我らの事は黙っておけ。良いな?」

「分かったからそう殺気を向けるな。まったく、最近のガキは可愛げがない……」


 ライラ達が店の奥に入った所で、丁度サレンとミシェルが店へと入ってきた。


「いらっしゃい。人を連れてくるとは珍しいな」

「色々とありまして。先日買わせて頂いた、棒の様な武器ってありませんか?」

「武器ね……売るたんびに壊されているこっちとしては武器屋冥利に尽きるんだが、良い武器はその分値段が高くなるってのが相場だ。それでも良いか?」

「見せて貰ってから考えます」

「分かった。そっちの嬢ちゃんは見た所素人くせぇが、何か買う気か?」

「素人とは酷いですね。これでもそれなりに戦えるつもりです! 武器はお父さんから貰ったのがあるので大丈夫です」

「そうかい」


 素人臭いとドーガンは言うが、同世代で見ればミシェルはかなり優秀である。


 だが此処にはシラキリとライラが居る。


 どちらもミシェルが十人居ても勝てない相手であり、ライラが本気ならば千人居ても勝てないだろう。


 ミシェルはぶつくさ文句を良いながら店内にある武器を見て回り、武器の完成度に目を見開く。


 ただの武器屋かと思っていたが、サレンが選ぶだけあり、素晴らしい武器が多い。


 柄の部分が古いのが多いが、飾ってあるのは売り物ではないのだろうと納得する。


 あくまでもどんな武器が良いか、どれくらいの重心が良いか確認させるためにあるのだと、実際に握ってみて理解した。


「待たせたな。倉庫に試作品が幾つかあったから持ってきたぞ。先ずは見てくれ」


 戻ってきたドーガンは大きな箱をテーブルの上に置き、その中には様々な種類の武器が雑多に入っていた。


 手当たり次第持ってきたのだろうが、どれもこれもしっかりと手入れされており、錆や埃は一切ついていない。


「おすすめはこの鉄扇とこの打身棒だ。鉄扇は見た目に拘り、武器の所持の出来ない場所でも持ち込めるように工夫してある。それと魔力を打ち消す効果のある鉱石を使っているから、多少の魔法なら打ち消せるだろう。問題は……まあお前さんなら問題あるまい」


 ドーガンが勧めた鉄扇は持っていると、魔法が使い難くなるデメリットがある。


 何よりも見た目に反してかなり重く、女性向けに開発したのだが、女性には向かない代物となった。


 もう片方の打身棒は、サレンが前にドーガンから買った棒を片手に収まるサイズに改造したものである。


 強度は下がるが携帯性を向上させ、最低限魔物と戦える程度の長さまで伸ばせる。


 問題点らしい問題点は無いが、ギミックの関係で材料費が嵩張ってしまっている点だろう。


 鉄扇のおよそ五十倍。値段で言えば五十万ダリアとなる。


 そんな金額をサレンが払える訳もなく、他に紹介される武器も、ほとんどが高価なものとなる。


 結局サレンは悩んだ末に鉄扇を買った。


 ダンジョンに行く時は武器を借りれば良く、王国に行く際にはそもそもサレンは戦わない予定である。


 最低限護身出来れば良いと思い、選んだのだ。

 

「毎度あり。次は壊さないでくれよ」

「善処させていただきます」


 サレンも壊したくて壊しているわけではない。

 

 だがこれまでサレンが手にした武器の中で、壊れなかったものは一つしかない。


 それもギルドからの借り物であり、あくまでも下見の戦闘だったからだ。


 一応手袋も持っているが、あれは武器と言うより防具なので、数に含まない。

 

 鉄扇は畳まれた状態で腕よりも少し短く、隠し持つ事が可能だが、重量はおよそ三十キロある。


 前衛の戦闘職でも、ずっと持っているのは辛いだろう。


 サレンはドーガンから腕に括りつけるためのアタッチメントをサービスで貰い、腕に括りつける。


「わー。なんだかカッコいいですね!」

「ありがとうございます」


 サレンは苦笑いしながらミシェルへ返し、軽く腕を振って確認する。


 特に重さを感じることなく、見た目も不自然ではない。


 腕を振って滑らせるように手で持つが、アタッチメントの動作も問題なさそうであった。

 

「それじゃあこの後は二人っきりでダンジョンに行きましょう!」

「はい」


 ミシリ。


 ドーガンの店の一部から、何かが軋む音が響いた。


 音自体は小さい物だったが、裏手の入り口に近いドーガンは背後から感じるプレッシャーに、ジワリと汗を滲ませる。


 大体の事をさっしたドーガンは、早く帰ってくれないだろうかと、こっそり愚痴る。


「それでは失礼します」

「おう。今度は嬢ちゃん達も連れてきな。武器のメンテナンスもあるからな」


 サレンが頭を下げ、店を出ようとする頃にはドーガンが感じていたプレッシャーは消えていた。


「はあ……まったく。女ってのは怖い奴しかいねぇなぁ……」


 サレンが出て行った後、ドーガンは店を閉めてからライラ達の武器のメンテナンスを始める。


 ミリーから始まり、ドーガンへ会いに来る女性は、強かな者しかいないのだ。

ドーガン「まったく…どいつもこいつも……」

ライラ「あんなに腕を絡めおってからに……」

シラキリ「月夜ばかりと思うなよ……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
どんどん嫉妬が酷くなってるな 相手が何やっても無事に済むサレンだから加減を覚えないってのもあるだろうけど、今のまま大岡裁きやったら双方延々引かなさそうな感じ
恩人の行動を縛りたくなり自分たち以外の排斥思考が過激になってきてるけど 2人とも大丈夫なんやろかこれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ