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第102話:宗教問題

「来てくれたか。とりあえず座ってくれ」


 執務室に入ると、威圧感を出すネグロさんが待ち構えていた。


 少し頬がこけているようにも見えるが眼光は鋭く、何か覚悟を決めているように見える。


 とりあえず、アーサー以外でソファーへと座る。

 

「先ずはお疲れ様と言っておこう。詳しくは聞いていないが、どうやら想定外の事が起きたようだね」

「はい。一応箝口令を出されているので話せませんが、死者が出る位の騒動となりました」


 いつに間にかシラキリがお茶を用意し、全員に配る。


 そのお茶をネグロさんは一口飲み、目を閉じる。

 

「公爵家からの依頼だが、その騒動に関係しているんだな?」

「はい。良ければ公爵家からの手紙を持ってきていますが、読みますか?」


 手紙の内容的に、見られて困る事は書かれていない。


 体験入団で起きた事は勿論、公爵家の弱みになる事もな。


 一応箝口令が出ているが、ネグロさんは聞けるだけの地位に居る。


 俺が話したとして問題ないだろう。


「いや。遠慮しておこう。それよりも、私の娘が何かにつけてサレンさんサレンさんと話していたのだが、何かしらないかね?」

「私からは何も。あくまでも依頼通り行動していただけです」 

 

 本当に、あの子は困った存在である。


 何とかこのまま会わなければ問題ないが、ミシェルちゃんが本気を出してネグロさんに掛け合えば、ネグロさんは堕ちるだろう。


 そして、俺を売る。


「そうか。助けて貰ったとか、治療してもらったとかと言っていたが、あくまでも依頼だったからと?」

「はい。話せる範囲ですと、両腕の筋を痛めたり、転んだ拍子に鎧を着た人間が頭に倒れてきたり、ついでに寝坊も……」


 徐々にネグロさんの気迫が薄れ、今度は顔を顰めて青筋を浮かべる。


 ついでにシラキリとライラからの圧が増していく。


 どうせミシェルちゃんから詳しく話を聞く前に、俺の事を聞かされてしまって、何が起きたのか詳しく聞かなかったのだろう。

 

「……そう言えば、ネグロさんはどの程度まで話を聞いていますか?」

「話かね? 都市外へ出た際に、非常事態が起きた事位だ。それに伴い死人も出たとな。後で権限を使って詳しく聞こうと思っているが……まあ、なんだ。娘が迷惑をかけたようだな」


 迷惑と言うか、勝手に大怪我を負って、勝手に死にそうになって、一緒に死にそうになっただけだ。


 どうして一緒に死にそうになったのかを、ネグロさんに話すことは出来ないが、知れば何をするか分からない。

 

 それと、シラキリさん? じーと俺を見るのを止めてくれませんかね?

 ライラもそっと俺の手に手を重ねるのを止めくれ。


「いえ。元気のある娘さんでした。つかぬ事をお聞きしますが、ミシェルちゃんはこれからどうすると言っていましたか?」

「……絶対騎士になると奮起していたよ。誰かがお節介を焼いたおかげでな」

「そうですか。ただ、私は依頼以上の事をしていませんので、分かりかねます。ただ、一緒になったことで、数度治療をしましたけどね」

 

 これ以上ネチネチ責めるならば、治療費を請求するぞと軽く脅す。


 治療の回数を考えれば、それなりの額となるだろう。

 

 俺の言わんとしている事はネグロさんも分かっているので、ミシェルちゃんの事についてはこれ以上何も言わず、口を閉ざす。


「まあなんにせよ、無事に事が終わって良かった。改めてお礼を言わせてもらおう」

「私としても優遇して頂いてるので、問題ありません。また何かありましたら、お手伝いさせてください」


 報告も終わり、これで依頼が終了となる。

 

 後はミシェルちゃんの襲撃に、備えておくとしよう。


 シラキリとライラに会わせるのは、不味そうだからな。


 結局一時間以上話し込んでしまったが、マチルダさんに確認をして、それから女神像の確認をしてから向かえば、良い時間となるだろう。


「ああ。申し訳ないが、また相談があるのだが……その前に三人をどうにかしてもらえるかな?」

 

 前回ネグロさんの依頼で三泊四日となったため、その間三人とは離ればれとなった。


 それもあり、三人ともネグロさんを警戒しているのだろう。

 

 とりあず落ち着かせて、再びネグロさんと向き合う。


 三人とも俺を慕ってくれるのはありがたいのだが、俺の事となると、少々気性が荒くなるのが、玉に瑕だ。


 その代わりシラキリを含め、戦闘能力は折り紙付きである。

 

 強いて言えばシスター一行と言うよりは、魔王一行と言われる方がしっくりとくる風貌な事だろう。

 

「ふう……。冒険者ギルドに入るまでに見たと思うが、最近の教会。特に三大宗教と呼ばれる存在が目に余るようになってきた。大元となる原因は分かっているが、法的に問題が無いため、ギルドとしては締め出す以外の手段が取れん。何より、宗教は生活と密接に関わっているため、完全に排他することも出来ん。かと言ってどこかを優遇すれば、攻撃をする機会を与える事となってしまう」


 昨日酒場やアーサーから聞いた話的に、やはりギルドでも問題となっているか。


 おそらくネグロさんとしては俺をギルドの専属とすることで、宗教問題と距離を置こうと考えているのだろう。


 下手な宗教では潰されて終わりだが、シスター二名のイノセンス教ならば、潰すに潰せない。


 名目上の教会も曰く付きの場所なので、そうそう訪ねてくる事は無いだろうし、訪ねてきたとしても、居るのはこの三人の内誰かだろう。


 何が起きても問題ないだろう。


 だが……。

 

「……よってしばらくの間で良いので、ギルドの専属として……」

「大変申し訳ないのですが、実はもう少ししましたら、数ヶ月程ホロウスティアを留守にすることになっていまして……」

「………………それまでの間で良いので頼む。報酬は上と掛け合わなければならないが、色を付けさせてもらおう」


 もしかして、結構追い詰められているのか?


 ――恩を売るならば丁度良いかもしれんな。


 こんな時の為のスフィーリアであり、その他二つの冒険者チームだ。


 俺が居ない間も、イノセンス教を立派に切り盛りしてくれるだろう。


「私は居なくなりますが、新しいシスターが一人入信したので、その方ならおそらく大丈夫です。それと、色次第では私を慕っている冒険者チームを二つ貸し出すことも出来ますが?」

「ふむ。そのシスターはどれ程のものなのかね?」

「元々は他の教会でシスターをしていたので、人としては問題ないかと。能力は……」 

 

 あっ、そう言えば確認するのを忘れていたな……。


(おーい)


『うん? ああ、なるほどのう。これが下賜した能力の一覧だ』


 頭の中にスルっと何かが流れ込んでくる。


 えーっと…………今一よく分からないな。


 ルシデルシアが与えた能力の一覧をデータで見せてくれたが、何が出来て何が出来ないのか分かり難い。


 補助魔法が使えるのは分かるが、補助魔法の何が出来るのかがさっぱりだ。


 なんだよ。補助魔法(中)って。もっと細かく分類分けしてくれませんかね?

 

 とりあえず、俺の下位互換だが、ルシデルシアが気を利かせたのか、光の攻撃魔法と身体強化を加護として使えるようにしてある。


「それなりかと。何分記憶が無い状態で加護を与えたものでして」

「……そう……か。ならば、その新人も招いてから、改めて話をするとしよう。他の冒険者については、それからだな」


 微妙な表情を浮かべた後、結局また後で話そうという事になった。

 

 とは言っても日にちに余裕はないので、明日には打ち合わせをしたいとの事だ。


 それと、明日懺悔室を使わないかと勧められた。


 懺悔室は上手くいけば宣伝効果があるが、待っている間地味に暇なんだよな。


 かと言って行列を作られても困るので、難しい問題だ。


 まあ四日間何も出来ていなかったし、ここはシスターらしい仕事をするとしよう。

 

「それではまた明日。頼んだよ」

「はい。それでは失礼します」


 話し合いを終えて、さっさと執務室を出る。


 結局二時間以上も時間を潰してしまったので、女神像についてはまた後日確認しに、行くことになりそうだ。








1









「あっ、お帰りなさいませ。先方に連絡した所、十二時前後に来てもらえるなら昼食をどうかと打診されましたが、どうしますか?」


 マチルダさんの所に行くと、今日中で問題ないと連絡を貰ったみたいだが、昼か……。

 

 貴族だから美味しい物を食べているとは思うが、俺の舌に合うかどうかはまた別の問題なんだよな。


 まあ断る理由も無いので、受けて良いだろう。


 シラキリとアーサーも問題ないだろうし。


「受けようと思います。此処から先方までは、どれ位掛かりますか?」

「一時間程度掛かると思います。此方が案内の地図となるので、ご確認ください」


 折り畳まれた紙を受け取り、席を立つ。


 さらっと互いに言葉を濁して会話をしているが、出来る受付嬢で本当に助かる。


 聞かれても困らないかもしれないが、相手は公爵なので、念には念をいれておいた方が、身を守ることに繋がる。


 公爵家まで約一時間だが、早めに移動しておいた方が良いだろう。


「我はここで失礼しよう」

「はい。色々とお願いしますね」


 転移門に向かう前に、ライラと別れる。


 次に会うのは、無事に公爵家から帰って来れたらだろう。 

 

ライラ「(ネグロの娘か……少し調べておくか)」

シラキリ「(私以外の女…………フフフ)」

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― 新着の感想 ―
これはネグロさん側は何も見なかったし、聞かなかった事にするやつだ。 サレンが思ってる以上に事は大きいんだよなぁ。 主に狂信者達が... サレンを巡って暴走しなければ良いけど。
ネグロさんも 「(シスターなのに加護……?)」 ってなってそう
信者の娘達、目のハイライト…消えてきてますよ?
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