いずれざまぁされるヒロイン視点……どうしてこうなった?
いつも悪役令嬢視点なのでヒロイン視点で書いてみました。
ヒロインのその後、追加しました。
「ふふふ……」
舞踏会でのエレノアの顔を思い出すたびに、知らず知らず笑いがこみ上げてくる。
「何か楽しい事でもあったのかい?」
「はい殿下。今日はとっても素敵な夢を見たんですの」
悪役令嬢エレノアが私たちの婚約を知り悔し涙にくれ、あちこち八つ当たりして暴れるシーンだ。
手あたり次第にメイドに手を上げ、どんどん孤立していく。
愉快な夢だった。
「白いふわふわの動物と出会う夢です」
もちろん本当のことは言わない。
とっさに私は夢見る乙女を演じる。
「ふわふわ? 猫かな?」
「いいえ、瞳がピンクで空を飛べるとっても不思議な生き物です。私とお友達になりたいんですって」
さりげなく、サージェに寄りかかるとほのかに頬がピンク色に染まる。
ちょろいわね。
「それは、君の髪とお揃いでとてもかわいいのだろうな。もしかしたら今は見られない妖精か精霊かもしれない。フェリシアの純真さなら現れても不思議じゃない」
サージェは片手で私の髪をすくい、キスを落した。
まあ、殿下にしては鋭いじゃない。
ヒロインを覚醒させるのが白いもふもふの聖獣なのだ。
王家主催の狩を見物中にモフモフと出会い、聖獣に名前をあたえ契約する。その後、獣に襲われるのを隠れキャラに助けられるイベントだ。
聖獣と契約することにより、魔力がどんどん増え、やがてピークを迎えると覚醒して光の魔法を手に入れる。
ただ、問題はその聖獣の名前を思い出せないことだ。
かってに好きな名前つけてしまってもいいのか。
決められた名前でなければならないのか、いまいちわからない。
ここまで、ちょっとのずれはあるにしろ、何もかもうまくいっている。
少しくらい名前が違っても問題ないはず。
「それよりもフェリシア、母上のことは本当に申し訳ない。私を皇太子にしようとエレノアと婚約させたのでいまだに怒っているんだ」
ああ、いまだにのらりくらりと理由をつけてわたしを避けている王妃ね。
でも大丈夫。
彼女の目的も弱味も握っているから。
「大丈夫ですわ、サージェ様。私、お母様に気に入られるように努力します」
まあ、努力なんかしなくても光魔法を覚醒させれば誰も文句は言ってこないんだけどね。
王宮の作法だって、やり込んだゲームのおかげで簡単にクリアできたし。
白いもふもふの好感度を上げればあっという間に魔力も最高値にとどくはず。
ただ、気になるのはここが本当にゲームの世界かということだ。
この「薔薇の乙女に花冠を」はヒロインが悩みを抱える少年たちを攻略するシンプルなテンプレ乙女ゲームだ。
絵柄が好きでやりこんだので細かい部分まで覚えている自信がある。
だからこそハーレムエンドを狙ったのに、いまだ数人攻略できていないキャラはいるし、王子ルートの場合、悪役令嬢は修道院送りだったはずなのに、なぜか国外追放されてしまった。
続編では修道院でラスボスに変わる予告を見たのに間違いだったのか?
テンプレで悪役令嬢が溺愛パターンを回避するためにも国外に行く前に殺しちゃったほうがいいかしら?
可能性としてはヒロイン、つまり私が転生者なのでシナリオが微妙にずれてきている。もしくはここはゲームの世界ではなく、ゲームの原作の世界である場合。
そうだとすると、ちょっとまずい。
原作は読んでいないが、ゲームのラストとは違うという噂だった。
まあ、それほど大きな違いは無いだろうし、ハーレムエンドは無理だけど王子の攻略は成功した。
「そうですわ。サージェ様。私、子供っぽい色のドレスしか持ち合わせていませんの。エレノア様はとても大人っぽいお方でしたから、このまま王妃様にお会いして子供っぽいと思われるのはなんだか恥ずかしいです。良ければエレノア様がドレスを作っているお店を紹介していただけませんか?」
先日、お店に行ったのだけど紹介がなければ入れないと門前払いされてしまったのだ。
あの店員。
男爵家だと馬鹿にしたようにあしらってくれて、殿下と一緒に行って目にもの見せてやらないと気がすまない。
「もちろんだよ」
「まあ、嬉しい。じゃあ今度一緒に行きましょうね」
さすが世間知らずのお坊ちゃん。せいぜいがっぽり貢がせて、いい感じのところでフェードアウトしよう。
この国のお妃なんて地位には興味はない。面倒そうだし、誰かにざまぁされるのがオチだ。
そんな心配するくらいなら適当な貴族と結婚してあとはドレスと宝石、パーティ三昧の楽勝人生だわ。
⭐︎一年後⭐︎
「ちょっと、ここから出しなさいよ! 誰かサージェ殿下を呼んできて」
手に嵌められた鎖を鉄格子に向かってた叩きつけたが、誰も返事をするものはいなかった。
鎖に繋がった枷がすれて手首が赤くただれてしまっているし、薬もないので傷口が治らずに広がっていく。
どうしてこうなったの?
エレノア様の暗殺に失敗したからだろうか?
サージェ様に見切りをつけたから?
でも、サージェ様も結局実力不足で自滅した。
攻略対象の婚約者にだって配慮したし。
悪目立ちしないように、おねだりは最小限だったのに。
いつからだろう、シナリオが狂い出したのは……。
考えても答えは出ない。
「フェリシア。ご飯を持ってきたよ」
「マイク! ここから出してよ」
お盆の上に硬いパンと薄味のスープを持ってきた商会長の息子に怒鳴り返した。
彼はただ一人、平民だっために貴族院で裁判を免れた。
大口の取引先をいくつも失ったため今では小さな店鋪を残すのみだが、跡取りだったのを取り消され、今は下働きとして働いている。それでも廃嫡された攻略対象たちよりかはマシである。
「君はここから一生出られないよ。死ぬまで僕と一緒に暮らすんだ」
マイクの目は狂気に囚われているようだった。
「いいわ。一緒に暮らしましょう。結婚でもなんでするからここから出して」
「ダメだよ。牢から出したらまた僕を騙して逃げる気だろう」
「逃げないから」
「君のことは愛しているけど信用はしていないんだ。ああそうだ。サージェ殿下は幽閉されたそうだよ。もう君を探す人間はいないね」
マイクは牢の中に入ってきてお盆を床に置いた。
チャンス!
私は鎖をマイクの首に巻き付け締め上げた。
さして抵抗もせずにマイクは息をしなくなった。
「やったわ! これで外に出れる!」
牢屋の鍵を探すがマイクは外の壁にかけ中には鍵を持って入ってこなかった。
「嘘でしょ」
それから、誰一人訪ねてくるものはいなかった。
私は、数日後腐ったマイクの遺体のそばでヒロインだったはずの人生を終えた。
せっかくヒロインに転生したのにね。
浮かれる気持ちもわかるけど。
異世界短編他にも書いてます。
褒められると伸びる子です。ポチッと⭐︎押してもらえると書く気が湧いてきます^_^