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〇 第3話 一緒にいたい ―9

「うん。そうします」

 はっと顔をあげると、きれいな青い瞳と目が合った。

「じゃあ、ユリコ。とりあえず、一緒に暮らそうか」

「……は、……はい」

 なんだかプロポーズされたみたいになって、私はまた顔を赤くした。実際はそんなロマンティックな展開ではなく、ルィイが拾った捨て猫を、知り合いのおばさんに預けようとしたけれど、迷惑だと断られてしぶしぶ受け入れている場面である。

「あ、ありがとう。無理言ってごめんね。ルィイ」

 私はついルィイに謝ってしまったけれど、そんな私に彼女は笑顔で首を振った。

「ううん。わたしも、異世界人のあなたと一緒に暮らしてみたいと思ったからよ」

 ルィイは、わかっているのか、あるいは意識していないのか、あらためて私が異世界人であることを強調した。

 ……まあ、それでもいいだろう。私が異世界人であるということだけが、ルィイにとって重要なことであっても、私は彼女に選ばれたことに喜びを感じることができる。以前の生活では死ぬまで感じることのなかった喜びという感情を。

 それに、ルィイが私を異世界人としてしか見ていなくとも、私がルィイと一緒にいたいと願う理由も、はたから見ればたいしたことはない。彼女が私の人生で出会った中で、もっとも優しかった。ただそれだけだ。

 ……まあ、おっぱいが大きいのもあるな。

「よかったね、あんた。ほら、紅茶」

 ユーディットさんが私のカップに紅茶を注いでくれる。私はありがたく、緊張でカラカラになった喉を潤した。

「ルィイ。あんた、奥の部屋の戸棚からチーズとパンを取ってきてくれ。せっかくだから、祝いの晩餐としよう」

「祝いって。何のお祝いよ……」

「出会いの祝いだよ。ほら、早くしとくれ」

「……人間の習慣かしら……?」

 ルィイは首をかしげながら、ユーディットさんの小間使いになったかのように、またも部屋を出ていく。

 ちなみに私もいちおう人間だが出会いの祝いなんて、聞いたことはない。もし人間の習慣だとしたら、この世界限定の風習だろう。私の世界にはなかったはずだ。

 ……いや。もしかしたら、そういう機会があるたびに、私だけはぶられていた可能性はあるな。

 そこからは、女子会ティーパーティーみたいな感じで、三人であれやこれやと話しながら紅茶を飲んで、ルィイが持ってきたパンとチーズを食べた。いや、私は女子会もティーパーティーも参加したことがないので、みたいな感じと言っても想像だけれど。

 ちなみに、パンもチーズも十分食べられる味だった。ユーディットさんが作ったわけではないだろうけれど、きっとこのレベルの味のものはルィイには用意できないだろう。正直、私がユーディットさんではなくルィイを選んだのは、失敗だったかもしれない。

「ところで少し聞いてみたいんですが……。ユーディットさんって何歳なんですか?」

 私がこの作品の根底を覆すようなことを考えていると、ふと、ルィイがユーディットさんにそう聞いた。

「ん? 確か今年で七十九だったかね」

「えぇ!?」

 目を見開いて驚くルィイに、ユーディットさんは肩をすくめた。

「やれやれ。その反応だけで、人間がエルフを嫌いな理由がわかっちまうね」

「……うっ。……ごめんなさい」

 私は、出会ってから初めて、ルィイがしゅんとしているところを見た。

 エルフは街の人に差別的な扱いを受けるよりも、友人が二百年以上年下だとわかったときに精神的ダメージを受けるらしい。


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