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〇 第3話 一緒にいたい ―7

「だけれど人間たちもそんな変わり者のエルフを受け入れずに、結局は街はずれにひとりで暮らしている。たまにこの街に顔を出しても避けられてしまって、本人はどう思っているか知らないが、いい扱いを受けているとはとても言えない」

 ルィイはこんなもんかと割り切ってそうだな。図太いとかじゃなくて、他人の悪意をあまり真剣に考えたりしていなさそうだ。三百年も生きるためには、それくらいのメンタルが必要なのだろう。現代日本的な俗語を使って表すならば、スルースキルというやつだ。もしかしたら、この世界は異世界ものでよくあるゲーム的スキルポイント制が取り入れられていて、ルィイはスルースキルにポイントを割り振っているのかもしれない。私も、前の世界でもっとこのスキルを鍛えておけばよかった。

 まあ、父親の腹パン攻撃をスルーできるほど強いスルースキルって、それもはやロギア系の悪魔の実みたいなものだからな。

 スルースキルにポイントを振りすぎたら物理攻撃もスルーできてしまった件。

 作者さん。これ次回作のネタにしていいよ。

「だからね。あたしは、ルィイの横にいてもいいってやつが、いつか現れればいいなと思っていたんだよ。人間だとかエルフだとか関係なく、ただルィイをルィイとして接することのできるやつが。……まさか空から降ってくるなんて、思ってもみなかったけれどね」

 ユーディットさんはそう言葉を締めくくって、私の顔を見た。

 エルフでも人間でもなく、ルィイとルィイとして見る。私にそんなことができるのだろうか。確かに私はエルフではないし、この世界の人間でもない。

 そんな風に、人間ではないと言われるのは、私のトラウマだ。私を殺したこの呪いは、たぶん今後も、私の人生を苦しめるだろう。

 ただ、それでも。

 それでも、人間でないことがルィイのためになるのなら、ルィイの横にいるために必要なことなのなら、私はそれを受け入れる覚悟はある。

 ユーディットさんはもう何も言わない。ただ、目線だけはしっかりと私を見ている。どうやら私の発言を待っているらしい。

 くっ。初対面の老婆に、人生で最も大きな決断を迫られている。そしてその決断を、自分の言葉で伝えることを待たれている。厳しい。これは非常に厳しい戦いだ。私の言語化能力と、対人スキルの限界値をはるかに超えることを求められている。

 でも、頑張るしかない。私のために。私がルィイと一緒に暮らすために。

「わた、……私は……」

 ゆっくりと口を開く。噛みながらも、言葉に詰まりながらも、私はユーディットさんに答えを返した。

「私、ルィイのそばにいたいんです。これはきっと、百パーセント自分のためで、ルィイの迷惑とか、思いとか、あんまり考えてない」

 私が一緒にいたいって言ったとき、正直めちゃくちゃ迷惑そうだったもんな、ルィイ。

「ユーディットさんが期待しているように、ルィイに正しく接することができるのかも、わかりません。……でも、ユーディットさんが言うように、それがルィイのためにもなるのなら私もうれしいし、ルィイのために何かしてあげたいと思う」

 世界に居場所がなくて自殺ようとした私と、世界に居場所を必要としていないルィイ。似ているようで、まったく逆だ。私は弱くて、ルィイは強い。でも、それでも私が彼女の支えになれるのなら、私はなりたい。

 実際は私が支えられているだけだとしても。

「……だから、私、ルィイと一緒に暮らします……」

 頑張った。頑張ったぞ私。

 最後はもう蚊の鳴くような声量で、もしユーディットさんが高齢のために耳が遠くなっているのなら聞こえていないようなボリュームだったけど、言い切ってやった。きっと顔は真っ赤だし、手汗なんて信じられないくらいびちゃびちゃだけれど、なんだかすがすがしい気分だ。

 自分のやりたいことを口にするって、こんなに気分がよかったのか。

「持ってきたわよ」

「ひゃっ!」

 部屋の奥の扉を、音を立てて開けながら戻ってきたルィイに、私は小さく悲鳴を上げた。

「どうしたの、なんだか熱があるみたいよ。顔赤いし、汗もすごい」

 ルィイがお盆に乗ったカップとティーポットを机の上まで運びながら、私の痴態を心配してくれる。

 いいや、私はただあなたと一緒にいたいだけです。なんて、歯の浮くようなセリフを私がこの場で言えるはずもなく、ただただ私はモゴモゴと言葉にならない鳴き声のようなものを漏らした。


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