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解体現場


「アイル? ここでなにしてる」


「カイ?」


 その後ろには数人のカイの仲間がいる。


「そっちこそ」


「俺は例の盗人を探しに来たんだ。ディロイって奴が怪しいってんで」


「ディロイ? ディロイはこいつだ」


「その蹲ってる奴がか?」


「あぁ、別件でこうせざるを得なかったんだ。待て、ならテントの中に?」


「ま、待て。止めろ!」


 ディロイの制止を振り切ってテントを調べる。

 それらしいものは直ぐに見付かった。

 それをカイに投げ渡すと巻き付けられていた布が剥がされ、立派な牙が姿を見せる。


「間違いないな、盗まれた牙だ」


「なるほど。じゃあなにか? お前はその気のない女にしつこく言い寄った挙げ句、仲間から物を盗んだのか。はっ! とんでもない奴が紛れ込んだもんだ」


「あぁ、まったくだ。俺から盗みを働くなんてな」


「ま、待ってくれ。俺の話を聞いてくれ」


「あぁ、いいぜ。いくらでも聞いてやる。俺の自慢の部屋でな」


「あの部屋か。いいよな、あそこは。解体道具が沢山あって」


「か、解体道具!?」


「あぁ、引き取った魔物をバラしてる。どれだけ血で汚れてもすぐに洗い流せるお気に入りの部屋だ。おい、連れてけ」


 後ろに控えていたカイの仲間がディロイを拘束する。


「お、おい、嘘だろ! たかだか牙一本盗んだだけで!」


「何言ってる、十分過ぎるだろ。俺から物を盗んだんだからな」


「そんなっ!」


 嫌だ止めてくれと喚き散らすディロイが無情にも引きずられていく。


「あいつの末路、知りたいか?」


「遠慮しとく」


「だろうな。迷惑かけたな、アイル」


「いいってこと。抱えてた別件も片付いて一石二鳥だ。ところで、今日引き渡した刃竜なんだけど」


「あぁ、どうした? まさか金額が不満か?」


「いや、そうじゃない。出来れば解体したのを見せてほしいんだ。頼む」


「解体した刃竜を? そりゃ構わねぇが」


「よかった。じゃあ、そっちの準備が出来たら呼んでくれ。あぁでも、あいつと鉢合わせだけは勘弁な」


「はっ! わかったよ。じゃあな」


「よろしく」


 ディロイが今後どうなったとしても、もうこの団で顔を見ることはない。

 舟から下りたあの四人のうち誰かが盗みに関与していたなら、そいつも同じ目にあう。

 やっぱり友達は選ぶべきだ。


「さて、じゃあルリを安心させにいくか」

 

§


 拠点中央の簡易食堂に向かうと、不安そうな顔をしたルリが頬杖をついていた。

 近づくと足音でわかったのか、こちらを見てぱっと花が咲いたように表情が明るくなる。


「アイルくん! よかった」


「意外と早かったじゃない。どうなったの?」


「話はついた。もう二度と顔を見なくて済む」


「やったわね、ルリ!」


「うん。ほっとしちゃった」


 吐き出されたため息の大きさがルリの不安を物語っていた。

 好きでもない男にしつこく言い寄られちゃ当然だ。


「ありがとう、アイルくん。また助けられちゃったね」


「何度だって助けてやるよ」


「キザなセリフ」


「サナもな」


「そりゃどーも。あと、ルリ。トキメキ過ぎよ、顔真っ赤」


「えぇ!? ど、どうしよう!」


 茹で蛸みたいになった顔にルリは必至で手で風を送っている。

 その様子をサナと一緒にからかっていると、料理長が厨房から出てきた。


「野郎共、飯の時間だ。だが、その前に恒例のアレを今日もやるぞ。今回、一番デカい獲物を狩ったのはアラド! そしてアイル! お前たちのだ!」


「よっし! 当然だろ! 見たか? 二日連続だ!」


 椅子の上にたち、周囲からの賞賛を浴びる。

 アラドもこのことを見越してか、家族を連れて席についているのが見えた。


「よって、スペシャルメニューは二人分だ! 味わって食えよ!」


 運ばれてくる豪勢な料理に、アラド夫妻は笑みを浮かべている。

 子供はまだ小さいから食べられないが、幸せな光景が広がっていた。

 そして俺の前にも運ばれてくる。


「相変わらず美味しそうね。羨ましい」


「私たちもいつか食べてみたいね」


「なら、いま食べてみるか?」


「え? そりゃ食べていいなら食べてみたいけど」


「わ、私も!」


「じゃあ、分けよう」


 何種類もの料理が載った大皿からルリとサナの分を取り分けていく。


「本当にいいのかな? もらっちゃって」


「あぁ、もちろん」


「ホントにどういう風の吹き回しよ」


「なにちょっと幸せを分かち合いたくなったんだよ」


 アラドたちのように。


「これでよし。それじゃあいただきます」


 両手を合わせ、ご馳走に舌鼓を打つ。

 今日のはなんだか昨日より美味しく感じられた。

 それはきっと気のせいじゃない。

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