話をつけに
俺たちが刃竜の亡骸を拠点に持ち帰った頃には掃討もほぼ完了していた。
帰還した傭兵たちが今日一番の獲物を持って解体を取り仕切るカイの元を訪れる。
「うわ、すっげぇ。マジかよ」
「刃竜だろ? あれ。どうやって仕留めたんだ?」
「たった二人で? 信じられんな」
そんな中でも刃竜の巨体はみんなの目を引いた。
「こいつはまた大物だな。刃竜か」
「あぁ、そうだ。アイルと二人で狩った」
「金は二人で折半だ、カイ。綺麗に分けてくれ」
「おい、アイル。トドメを刺したのはお前だろ。俺の取り分はもっと」
「お前が居なきゃ斃せてなかった。そうだろ?」
「……ありがとう、恩に着る」
「気にすんな。当然の報酬だ」
「よし、なら二人に袋五つずつだ。持っていけ」
どっさりと重い袋を受け取って、刃竜の亡骸を引き渡す。
昨日の猪の分も合わせると、今回の仕事はかなりの金になった。
街に帰るのが楽しみだな。
「これだけあれば家族に楽させてやれる。ありがとう、アイル」
「気にするなって言ったろ? ほら、奥さんと子供に見せてやれ。喜ぶぞ」
「あぁ、じゃあな」
家族の元に戻っていくアラドを見送り、視線をカイのほうへ。
「それで? なにかわかったか?」
「いや。ただ昨夜、怪しい人影を見たって奴がいるらしい。いま仲間に話を聞きに行かせてる」
「そうか。なるべく急いだほうがいい」
「わかってる」
この時間帯はカイも忙しく、すぐに仕事に戻っていった。
盗人を見付け出したいが、今の俺に出来ることはない。
とりあえず装備を置いて朗報を待つしかないか。
「あ、いたいた。アイル!」
「サナ? それにルリも」
二人の表情は険しかった。
「どうした? 例の件か?」
「大正解。また来たのよ、ディロイの奴。それも戦闘中に」
「戦闘中に? 任された持ち場を離れてか?」
「う、うん。すぐにサナちゃんが追い払ってくれたんだけど」
「ホント信じらんない。あいつの身勝手のしわ寄せが他に行くのよ? ありえない」
「流石に度が過ぎてるな。わかった、これから話を付けてくる」
「だ、大丈夫? 団長に相談したほうが」
「平気だ、ルリ。もうすぐ夕飯だ、俺の席、取っててくれ」
「う、うん」
装備を付けたままディロイを探しに向かう。
何日もいた拠点だ、居場所の見当はつく。
めぼしい場所を巡っていると、直ぐにディロイは見付かった。
自分のテントに戻っていたみたいだ。
「よう、ディロイ」
「なんだ、あんたか」
装備の点検をしていたのを止めて面倒臭そうに立ち上がる。
「なんの用だ?」
「わかってるんだろ? わかってないようだからもう一度だけ言ってやる。ルリに近づくな」
「はぁ、あんたはルリのなに?」
「俺がなんだろうと関係ない。ルリの意思だ。潔く諦めたほうが身のためだぞ」
「へぇ、諦めなかったらどうなるんだ?」
ディロイの周囲にいた連中四人が一斉に立ち上がる。
その手には得物がしっかりと握られていた。
「お友達か?」
「あぁ、そうとも。親友たちだ」
「友達は選んだほうがいいんじゃないか? 乗る舟を間違えてる」
「よくそんなことが言えるな、この状況で。五対一だぞ」
「それがどうした。お前、この団に入って今まで何してきたんだ?」
「あ?」
「五対一? そんな状況、傭兵なら日常茶飯事だろ。しかも魔物はお前らよりずっと強くて厄介だ。ビビると思うか? お前らごときに」
「言わせておけばッ!」
怒りを露わにしたディロイが魔法を発動し、その両腕が石になる。
岩となった拳が振りかぶられるのを見て、こちらも鋼ノ翼を勢いよく伸ばす。
それが威嚇の効果を発揮し、ディロイは両腕を盾にして身構える。
俺の魔法にビビった時点で勝敗は決した。
攻撃はすんなりと通り、ディロイの股ぐらを蹴り上げた。
「ぐッ――おぉおぉおおッ!?」
「翼に気ィ取られすぎだ」
鋼ノ翼による攻撃を警戒するあまり、俺本体の動きにまるで意識が向いてない。
経験の浅い傭兵にありがちなミスだ。
「ふ、ふざけッ、やがってッ! お前ら! なにしてる! こいつを殺せ!」
「いいのか? 乗る舟を間違えたままで。このままじゃ沈没だ、下りるなら今だぞ」
ディロイの親友たちは顔を見合わせると手にしていた武器を置く。
「お、おい! なにしてる! おい!」
そうして罰が悪そうな顔をしてそそくさと何処かへと消えて行った。
「大した友情だこと」
ディロイはまだ股間を押さえて蹲っている。
強めに蹴ったからあとしばらくは動けない。
男ならわかる。
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