土の巨人
耳を覆いたくなるような咆哮が轟いて、刃竜の尾が振るわれる。
その場で円を描く、回転斬り。
身に迫る刃物に対して、こちらは鋼ノ翼で受けて立つ。
片翼を盾に一撃を受け止めると、物凄い衝撃に身を攫われそうになる。
なんとか踏ん張りを利かせ、もう片翼を地面に突き刺し、どうにかして受け止めた。
「アラド!」
「わかってる!」
刃竜の形状からしてメインの攻撃手段は尾だ。
俺がこれを止めている間、アラドはフリー。
「喰らえ!」
アラドは土魔法の使い手だ。
地中より突き出るのは無数の土の槍。
直前に察知されて串刺しには出来なかったものの、掠めた穂先が甲殻を削る。
傷を負った刃竜は痛みを怒りに換えてこちらを睨んだ。
「おっと、来るぞ!」
それはまるで芝を刈るように、尾の刃が薙ぎ払われる。
突き出た土の槍は根こそぎ断ち切られ、刃竜は更に回転。
二週目の一撃が振るわれた。
最初に受けた攻撃より明らかに威力が強い。
受け止めきれずに吹き飛ばされる。
アラドは魔法を発動したばかりで回避できるかはギリギリだ。
アラドの奥さんを未亡人にさせるわけにはいかない。
「上等ッ!」
威力が増しているとはいえ一度見て経験した攻撃だ。
身に迫る尾の刃に狙いを定め、翼の刃で迎え撃つ。
鋼鉄の羽根が刃を裂き、勢いのまま尾を両断。
先の刃が宙を舞い、地面に深く突き刺さる。
「見たかッ!」
「なんて奴だ、アイル。真っ向勝負で勝ったぞ!」
これでメインの攻撃手段を失ったことになる。
刃竜の名前もこうなっちゃ形無しだ。
「後はどうとでも――」
ふと地面に突き刺さった尾の刃が目に止まる。
それがとても奇妙な構造をしていたからだ。
刃の厚みの中に空洞がある。
なぜだ? こんな構造、刃を脆くするだけなのに。
その疑問は刃竜の奇怪な行動によって吹き飛ばされる。
「な、なんだ!?」
「空気を、吸い込んでる?」
大気中の空気が渦を巻き、甲殻の隙間に空いた穴に吸い込まれていく。
なんの目的があってそんなことをしているのか。
解答は即座に出され、俺は聞き覚えのある音を聞く。
「まさかッ」
クオーツに刻まれていた情報に含まれていた、戦闘機の鳴き声。
それと全く同じ音が刃竜から鳴り響く。
そして断ち切った尾の先から新たな刃が形勢される。
強烈な勢いで排出することによって成り立つ魔力の赤刃。
あの空洞はそのために。
「まずッ――」
刃竜が振るう赤い一刀。
あまりの出来事に対処の初動が一瞬遅れた。
回避は間に合わない。
即座に鋼ノ翼の片翼を盾にするが、受けた瞬間に体が地面から引き剥がされた。
「アイル!」
地面を転がり、木の幹で背中を打つ。
攻撃を受けたほうの翼は、赤熱した大きな太刀傷が刻まれていた。
「マジ……かよ」
驚いたのはこの身を攫うほどの衝撃でも、鋼ノ翼を裂いた切れ味でもない。
「それだ、それに違いない」
立ち上がり、刃竜を見据える。
「見付けたぞ、空に触れる方法!」
幾つもの土の柱がせり上がり、刃竜の視界と行く手を阻む。
すぐに斬り倒されてしまうだろうが、時間稼ぎにはなる。
「無事か!? アイル!」
「あぁ、なんとか」
「よかった。だが、どうする? 正直、手に負えない。応援を呼ぶか?」
「いや、ここで斃そう。アラドはとにかく刃竜の動きを制限してくれ。俺が決める」
「考えがあるんだな? わかった」
最後の土の柱が斬り倒された所で、再びアラドの魔法が炸裂する。
それは土で作られた巨人の手だった。
刃竜を掬い上げるようにして握り締め、その動きを拘束する。
当然、そこから抜け出そうと刃竜は暴れ、巨人の手は崩れていく。
「長くは持たない!」
「大丈夫、十分だ」
鋼ノ翼の形状を作り替え、背中に戦闘機を背負う。
限界まで込めた魔力は表面に赤い線を描き、臨界に至る。
「崩れるぞ!」
巨人の手が崩壊し、刃竜は再び自由を手に入れる。
だが、こちらも準備が完了した。
目と目が合い、押し留めた魔力を開放。
赤い閃光が木々を焦がし、木の葉を焼く。
トップスピードまで秒と掛からずに加速し、刃竜と擦れ違う。
尾の赤刃を振るう暇さえ与えなかった。
鋼ノ翼の形状を元に戻し、大きく広げることで急減速。
そのまま体を包み込むようにガードして着地。
地面を削りながら勢いを殺して、即座に視界の焦点を刃竜へと合わせる。
その時、魔力放出による赤刃はすでに掻き消えていた。
横一線に刻まれた深い傷が致命傷となり、刃竜はその巨体を大地に委ねる。
その命は尽きた、俺たちの勝ちだ。
「おいおいおい、なんだ今の。凄いな、飛んでたぞ!」
「飛んだんじゃない、ただ勢いよく吹っ飛んだだけだ」
「それでも凄い。お陰で刃竜を斃せた」
「いい金になるぞ、やったな」
ハイタッチを交わして喜びを分かち合う。
早速、荷運び役を呼ばないと。
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